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リアクション
プロローグ
此処の住人には、リゾートの習慣はないらしいが、こんなに美しい海なのに、勿体無いことだと思う。
「プライベートビーチだね」
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が、人のいない海岸から海を眺めて微笑んだ。
一応警戒は怠らないものの、どうやら心配はなさそうだ。
「で、何でこんな格好させられてんだよ」
水着姿のクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が、恨みがましい目でクリストファーを見つめた。
「折角夏なんだし、年に一度くらいは女装ネタをやっておかないと」
クリストファーはいたずらっぽく笑う。
クリスティーに女装をさせてからかうのが、クリストファーの(悪)趣味なのだが、頻繁にやっては効果薄と考えるので、おおよそ年に一度の楽しみなのだ。
本当は、貝殻のビキニ水着を勧めだのだが。
「何で貝殻の水着!?」
まあ予想通りだが、クリスティーは思い切り引いた。
「人魚が云々、という話を聞いたからさ。人魚と言ったら貝水着じゃない?」
「だからって、貝殻のビキニは無いよ。色んな意味で痛すぎるよ」
「いいじゃん、誰もいないし。泳ぎの練習もしておいた方がいいじゃない」
「……そんな形で日焼けの跡が残ったら、恥ずかしすぎる」
「どうせ人前で裸になんてならないくせに」
「それとこれとは別問題だし」
「……本当なら、俺が最新の水着を着て楽しく泳いでいたはずなのに……」
大袈裟にしょぼんとしてみせると、途端にクリスティーはうろたえる。
実のところはそんな気持ちは全くないのだが、こう言えば、クリスティーは強く出れないのだ。
そんなやり取りの末、結局は、最新デザインのツーピースフィットネス水着で落ち着いた。
それでも水着という時点で、どう着ようとも体の線が強調されるのが、クリスティーは堪らなかったが、泳げるようになった方がいい、という点に関しては同意だったので、練習はしようと思う。
人目を気にしないで済む此処で、少しは開放感に浸って貰えるといいんだけどね、と、そんなクリスティーを見て、ひっそりクリストファーは思った。
沖合いを進む、立派な帆船が見える。
「あれ、例の船かな?」
この島の領主の息子の所有する船の処女航海に、友人達が乗っているという話だが。
早川 呼雪(はやかわ・こゆき)のパートナーが、その船に人魚が乗ってるらしーよ、などとも言っていた。
「人魚、か。
地球で有名な『人魚姫』の童話といえば、悲しい結末だけど」
クリストファーは即興で、歌うような口調で物語を紡ぐ。
……心臓を刺された王子は、人魚姫が去った後に息を吹き返しました。
実は王子は心臓が二つあったのでした。
タフな心臓(皮肉)の持ち主も、一つを失えば人並みのバイタリティーしか持てません。
そうして王子は落ち着いた人柄となり、無事父王の後を継いだのでした。
「とすれば、皆ハッピーエンドかな?」
「……そんな物語聞かされたら、子供達が微妙な顔しかしないと思うんだけど?」
クリスティーが呆れる。
「うーん、それじゃあ……」
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