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みんなで楽しく?果実狩り! 2023

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みんなで楽しく?果実狩り! 2023

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【望みと悩みと倫理規定】


「ネージュさん、ディアーヌさん、あちらで不思議なぶどうを採ってきましたわぁ」
 そう言って常葉樹 紫蘭(ときわぎ・しらん)が、収穫してきたアッシュブドウをネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)ディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)に振る舞う。
「色はちょっとアレですけど、とっても美味しいんですわよ」
「ホントに大丈夫なの? またアッシュさんの所為でとんでもないことになる気しかしないんだけど……」
「あっ、でも美味しいよ、ねじゅちゃん」
 疑心暗鬼なネージュの横で、ディアーヌは葡萄を口にしてパッ、と顔を綻ばせる。ネージュとしてはこれまでの事を思い返した上で、この葡萄は確実に騒動の種になるから避けたかったのだが、ディアーヌと紫蘭が食べているのに自分だけ、というわけにもいかない。
「ほらほらネージュさん、一口でごー、ですわっ」
「わ、分かったよ紫蘭ちゃんっ、食べるよ〜」
 ぐいぐい、と葡萄を押し付けてくる紫蘭に負けて、ネージュもアッシュブドウを口にする――。

「あっ、あちらに居るのはネージュさんですねー。
 ……あれ? な、なんだか雰囲気がこう、いつもと違いますねー」
 それから少しした後、豊美ちゃんが一行の傍を通りかかり様子を見れば、三人の幼女はすっかり酔った振る舞いを曝け出していた。
「ううぅ……ねじゅちゃん……紫蘭おねぇちゃん……」
「大丈夫ですわディアーヌさん、わたくしが傍にいてあげます、だからもっと身をお寄せなさいな」(はぁーーーたまりませんわたまりませんわ!! 気弱オーラモンモンの女装ショタっ子がわたくしに身を任せている……据え膳食わねば淑女の恥、というわけですわね……うふ、うふふ……)
 はらはらと涙を流し、時折ポンッ、と花粉を放出しながらディアーヌが紫蘭に抱きつき、紫蘭は表面上はお姉さんっぽく振る舞いながら心の中では欲望まっしぐらにディアーヌを抱きしめる。
「はー、あたまふらふらー、なんだかきもちいー。
 それにしても、これ、動きにくいんだよね。えーい、キャストオフ!!」
 その横でぽわんとした顔のネージュがおもむろに服を脱ぎ出してしまう。リボンを解いてボタンを外す……間もなく、まるで上から吊られるように服が宙を舞う。
「ドロワーズいっちょのほうが動きやすいってものなんだよ!!」
「だ、ダメですーー!! 人前で脱ぐなんて、いけませんですーーー!!」
 あやうくドロワーズいっちょの姿を曝け出す前に、豊美ちゃんが得意とする『月之灯楯縫』を応用して、『ネージュからは外が見えるけど外からはネージュが見えないフィールド』をネージュに被せるように展開する。これでネージュの魅惑的……もとい、裸体は外からは見ることが出来ない。非常に残念……もとい、安心である。
「紫蘭おねえちゃんの抱きしめてくれる腕……今日はとっても暖かいよ」
「あら、不思議な事を言いますのね。わたくしはいつでもポカポカですわ」(もう思いっきりぎゅっぎゅしてハグハグしてあげますわ!! 『己の本能と欲望に正直たれ!!』ですわ!!)
「えっと……どうしたらいいんでしょう、このお二方は」
 すっかり劇場を演じている紫蘭とディアーヌに、豊美ちゃんは苦笑を浮かべてしまう。アッシュブドウに比べればディアーヌの放出する花粉のもたらす効果はさほどでもないため直接の被害は小さいが、ともかくこの光景を他の人が見るような事態にはなって欲しくなかった。それは後で二人が困るだろう、そう豊美ちゃんは解釈した――確かにディアーヌはしばらく塞ぎこんでいそうだが、紫蘭は妄想として思い返して幸せな気分に浸るだろう――。
「二人とも、こんな所で何を――わきゃあ!!」
 と、二人を注意しようとしたネージュが紫蘭の『己の本能と欲望を解き放った時に使える不可視の力』でもってネージュを確保し、一時的なハーレムを形成する。
「うふふふふ、これぞ我が世の春、ですわー!!」
 すっかりご満悦の紫蘭、そして豊美ちゃんはネージュにかけていたフィールドをちょっと大きくすることで三人を外から見えないようにした後で、「ごゆっくりですー」と言葉をかけて立ち去るのであった。



「豊美ちゃん、ブドウの影響は大丈夫なの?」
「はいー、エイボンさんに介抱してもらって、今は大丈夫ですー。
 それで、お話、ってなんでしょうー」
 赤城 花音(あかぎ・かのん)に呼ばれる形で、やって来た豊美ちゃんに花音はコホン、と一つ間を置いて話し出す。
「率直に言えば、恋愛相談、かな。
 ……ボクにはね、好きな人が居た。その人は別の人と……お互いに愛を確かめ合って、無事に結婚が決まって……。
 まだ、ちょっとだけ、勿体無いな、って思う気持ちもあるけど、今は率直に、ホッとしているよ。
 おめでとうも言えてないけど、本当におめでとうございます! って祝いたい気持ちはあるくらいには、整理出来ている、と思う」
 相手がイルミンスール生徒のフィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)であることを明かした上で、花音は彼に抱いていた気持ちを追っていくように話していく。それを豊美ちゃんは真っ直ぐに聞いている。
「ウィン姉はボクと兄さんの事を、「互いにストライクゾーンに入っている」なんて言うけど。
 兄さんは……うん、ゾーンに入っている事は確実かな?」
 そして、花音はパートナーであり“兄”として慕う者への気持ちを示しつつ、でも……と表情を陰らせて続ける。
「恋人として付き合っていくには、課題も多いと思う。ボクたちのアーティスト活動がきちんと軌道に乗らないと、恋愛を意識する余裕が持てなくなるのかな、って。
 最近は活動の幅が広がっているのはいいんだけど、当然経費も増えているわけで……。ちゃんと黒字化出来る企画とそうでない企画を見極めていかないと、活動そのものが出来なくなっちゃう」
 ビジネスの話は兄さんが請け負ってくれて、自分が楽曲の作成に専念出来るようにしてくれている。……その話をしても花音の顔には、不安がつきまとっていた。
「ボクには多分、『チーム花音で対応できない状況をどうしよう』って思いがあって、それが兄さんの想いを拒む理由にもなっているんだと思う。
 ……難しいよね。誰かにどうにかしてほしい話じゃないからね、これ。結局は私次第なんだ。……ただ、誰かにちょっとだけ、背中を押してほしいって思っちゃうんだ」
 話を終え、花音の視線が豊美ちゃんを捉える。期待と不安が入り混じった顔の花音へ、豊美ちゃんの言葉がかけられる。
「花音さんの言う通り、花音さんがどう思うか、だと思います。私は花音さんの話を聞いて、アーティスト活動が上手くいかないと、って何か、前提みたいなものを敷いている点に引っかかりを覚えますけど、それは花音さんの感性ですから、それを私がどうこうは言えません。
 ただ私は伴侶を得て、共に歩む生活を始めましたけど、同時にそれだけじゃないって分かりました。当たり前ですよね、私は一人じゃないんですから。
 でも、最初は一緒に暮らすんだから、そこが中心になるのかなって思いは私にもありました。それはもちろんそうなんですけど、それだけじゃない……あうぅ、何言ってるかよく分からないですよね」
 頭を両手で押さえて、なんとか自分の言いたいことを整理する豊美ちゃんを、花音はじっと見守る。
「花音さんは『チーム花音で対応できない状況をどうしよう』って言いましたけど、答えは多分、簡単です。
 助けてくださいー、って声を上げればいいんです。花音さんは一人じゃないんです。“二人”で解決しなくちゃいけないわけじゃないんです。
 私にとっての伴侶とは、大切な一人であると同時に、“みんな”という輪の中の一人でもあるんです。“みんな”で解決して、“みんな”で楽しみや悲しみを分け合って、それが伴侶と歩む生活の一部でもあるんです。決して二人だけ、ってことじゃないんです。……これで花音さんの背中を押せているかは分かりませんけど、何か参考になったなら嬉しいです」
 言い終え、ぺこり、と豊美ちゃんが頭を下げる――。

「あぅぅ、あんな感じでよかったでしょうか。花音さんに悪い方の決断をさせたりしていないでしょうか」
 花音と別れた後で、豊美ちゃんはウィンダム・プロミスリング(うぃんだむ・ぷろみすりんぐ)に不安な胸の内を吐露する。
「大丈夫よ、花音も相談に乗ってくれてありがとう、って言ってたわ。
 それに花音、なんか落ち着いた顔してた。多分気持ちを吐き出せてスッキリしたのね」
「そう言ってもらえると助かりますー。私には私の、花音さんには花音さんの思うものがありますからね。
 私のは参考程度にしてもらって、花音さん自身の答えを出してもらえたら、って思います」
 ホッとした表情で、豊美ちゃんがウィンダムに微笑む。
「うーんそっか、そういえば豊美ちゃんって既婚者扱いになるのかしらね?
 正直言うと、豊美ちゃんのストライクゾーンはどこなのか、興味があったのよね。最近男の人とよく会ってるって聞くし?」
「そうなりますねー。一応、会うことは出来るんですよ? あんまりやると閻魔様に怒られるのでやりませんけど。
 ……ってウィンダムさん、男の人ってもしかしてアレクさんのことですか? 確かにアレクさんとはよくお茶したりしてますけど、私がよくしてもらってるだけですよー。
 アレクさんは妹さんの事が本当に好きですから。お二人には幸せになってもらいたいって思います」
「あぁ、余裕の発言に私には聞こえるわ。
 私も、どこかで合コンの企画があれば参加したいわね。ちなみに私のストライクゾーンはそうね……モップスさんも大丈夫よ」
「わ……ウィンダムさん、それは凄いです……ってあぁあ、今のは違います、モップスさんを卑下してるわけじゃないんですっ」
 あたふたと言い訳する豊美ちゃんに、分かってるわよ、とウィンダムがウィンクして返す。
「まぁ、それぞれ良い縁に巡り会えるといいわね」
「はい、そうですねー」
 話をまとめて、二人は果実狩りを楽しむ――。