First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
「仮装しないで行く意味がこれで分かったわね。本物になるならいらないもの」
水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はハロウィンサブレで魔界の姫君に変わった姿を確認して参加者が仮装しないで来る理由に納得していた。
「……そうね(サキュバスに変身したはずなのに……服装だけが露出度高くて体型は変わらないなんて)」
露出の高い衣装をまとったサキュバスマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)は変わらぬ中学1年生体型に胸の内でしょぼんと溜息を洩らしていた。
「ハロウィンにぴったりの姿になった所でやる事は一つよ。今日一番はしゃいでいる者に悪戯する事」
ゆかりは悪戯な笑みを浮かべた。
「つまり、双子にトリック・オア・トリート?」
ゆかりの考えを読んだマリエッタが先回りして訊ねた。
「そうよ。ハロウィンで好き勝手絶頂に悪戯している双子に世の中の厳しさを教えるのよ」
ゆかりは楽しそうに答えた。相手が抜け目ない悪戯小僧であるためそれ相応の準備は整えてある。
「海で騒ぎを起こしているのを見たし前の温泉宿や他の所でもやらかしたのを人づてで聞いたしね。でもカーリーは前に双子の一人をとっちめた事があるから警戒されるんじゃない?」
マリエッタは双子と関わったこれまでの事を振り返った。それだけでなく警戒される事も読む。
「そうね。そこをマリーがフォローするのよ。勘が良いから笑顔で後押しして」
ゆかりはまだ双子をとっちめた事のないマリエッタに重要任務を頼む。逃げ足が速いあの双子とお菓子交換するには警戒を解き油断させる必要がある。
「頑張ってみるわ。何とか逃げられないようにね」
マリエッタはにこやかに役目を引き受けた。
「それじゃ、行きましょう。あの双子の事だからすぐに見つかるはず」
「どうせ、どこかで悪戯をしているからすぐね」
ゆかりとマリエッタは双子捜しを始めた。
双子捜しを始めてすぐ。
「次はどうする?」
「今日は最高だよな」
次の悪戯に心を躍らせる双子。さゆみに悪戯をし、ザカコ達とお菓子交換をした後だ。
「カーリー」
一番に発見したのはマリエッタ。
「呑気な顔をしてるわね。行きましょう」
そして、ゆかりが先に動いた。
ゆかり達は双子の背後に接近するなり
「トリック・オア・トリート」
まずはハロウィンの合い言葉から。
「ん?」
呼び止められた双子は足を止めて同時に振り向いた。
「げっ。キスミこいつはまずいぞ」
瞬時に表情を変えたのはヒスミだった。
「もしかし……」
片割れの変化にキスミは察した。遺跡でヒスミを痛い目に遭わせた犯人が目の前にいる事を。
「今日は何もしないわ」
ゆかりが計画を胸の奥にしまい込み、表面では親しげオーラを振りまいて対応。
「……」
双子は訝しの目でゆかりをにらむ。
そこに
「心配しないで、あたし達はただお菓子交換をしたいだけ。悪戯をする気はさらさら無いから」
マリエッタが柔らかな笑顔でお菓子を手にゆかりのフォローを務めた。ただし、持っているお菓子は双子のために用意した特別な物だったり。
「本当にそれだけならいいぜ。な、キスミ」
「あぁ、お菓子ならオレ達もとっておきをあげるぜ」
マリエッタの笑顔に和み、警戒を解いてお菓子交換に応じる事を承諾した。
そして、いざ交換。
「私はこれをあげるわ」
ゆかりは可愛らしいお菓子箱を差し出した。中にはゆかり考案の悪戯としてマリエッタの『光術』で作り出した目眩ましになる輝く光球があった。
「あたしは美味しいクッキーよ」
マリエッタはいかにも美味しいを主張する可愛い袋に入ったクッキー。ただし、ハバネロや唐辛子、チリソースなどあらゆる辛み成分が入った激辛の物だが。
「俺はカステラ」
「チョコレートだ」
双子が取り出したのもまた悪戯お菓子。
「ハッピーハロウィン!」
ハロウィンの挨拶と共に四人はお菓子を無事に交換した。
その後、
「それじゃな」
「ヒスミ、次行くぞ」
双子は仲良く次の相手を捜しに行った。
「……開けたらさぞ驚くわね」
「目潰しに劇物だからどうなる事やら……考えても仕方が無いから黙っておくとして、カーリー、貰ったお菓子はどうする?」
ゆかりとマリエッタは双子がお菓子を頬張る時を想像して悪戯な笑いを浮かべた。そして、気になるのは双子に貰ったお菓子の事。
「……当然だけど食べない方がいいわね」
『博識』を持つゆかりはもう分かってはいるが念のためにとお菓子を確認したが、予想通りの結果であった。
「そうね。こちらは悪戯しないと言ったにも関わらずやらかすなんて」
マリエッタは貰った悪戯お菓子に溜息を洩らした。
「やる事も終わったし、あとはのんびりとハロウィンを楽しみましょうか」
「今度は甘いお菓子交換ね」
ゆかりとマリエッタは久しぶりに取れた休みをのんびりと楽しみ始めた。
途中で出会った園児や妖怪達とハロウィンらしくお菓子交換をしたりもした。
とある五人がハロウィンサブレによってハロウィンな姿に変身を遂げていた。
「……キョンシーか」
冬月 学人(ふゆつき・がくと)は死人の色をした肌を確認した。
「あたしはマミーだ。これは凄いな。今回はあの二人に感心するよ」
包帯姿の斑目 カンナ(まだらめ・かんな)は製作者に褒め言葉を贈っていた。ただし本人の前では口にするつもりはない。調子に乗ると分かっているので。
「私はゾンビだね」
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は思い通りの姿に大満足。
「で、オレは吸血鬼か」
長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は軽く牙を確認していた。
「……なんで全員アンデッドなんだ」
学人はほぼ顔色の悪い一行様になった自分達にツッコミを入れた。
「確かに偏っているな」
広明も同意見とばかりに学人にうなずいた。行き交う人を見れば、魔女やら猫やら多少顔色がいい人達が溢れているというのに。
「確かに偏っていますが、ゾンビは凄いんですよ。最近の映画のゾンビは賢くて走るだけじゃなくて喋ったり武器を使ったりしているんですから。脳が死んでるってのにですよ。医者としては、それなりに理由付けしてもらわねば納得できません!」
ゾンビやアンデッドが大好きなローズは嬉々として広明に語り始める。
「いやに大喜びだな」
広明は軽く苦笑を浮かべていた。ローズのゾンビ愛に圧倒されている感じだ。
「大好きな物に今なっているんですよ。喜ばずにはいられませんよ。ちなみに呪いも細菌感染も私は大好きですから」
ローズは広明にいかに嬉しいかを話すのだった。
「ただゾンビやアンデッドが好きなのに医者っていうのがアレだけどね」
「そんな事より学人、持って来たお菓子と飲み物」
ローズは学人のツッコミをさらりと流してお菓子の事を口にした。悪魔のパートナーが用意してくれたのだ。本人は身内の集まりで今回不参加。
「あぁ、そうだった」
そう言って学人がフリースペースのテーブルに広げると中から出て来たのは、人の腕や足、体に似せたリアルなパン。ちなみに中はイチゴジャムで中央にクリームが入っている。
「これはまたエグいな」
「……ですよね。味は美味しいのは確かですけど」
広明とカンナは見た目に対して好印象は持てなかった。作り手が料理上手なので味が保証されていてもだ。
「……随分、張り切ったんだな。お菓子にしてはリアルだ。味が保証されていても食べるのは……」
学人も見た目から口に入れるのをためらう。
唯一はしゃいでるのは
「さすが、シン。よく分かってる!」
ローズだけ。
「ほら、食べよう。ゾンビの食事を再現出来るじゃない。広明さん、苺の紅茶をどうぞ」
ローズはうきうきしながら飲み物をカップに入れて広明の前に置いた。
「……この状態でこれは、アレだな。血を飲んでいるように見えるな」
広明は、苺の赤さと自分の姿から導き出す光景にをぽつりと口にした。
「ですね。ただ、定番のトマトでなくて苺ですけど……それより私が初めて観たゾンビ映画についてなんですが……」
ローズは飲み物に軽く肩をすくめた後、ゾンビについて広明に語り始めた。
「ロゼのゾンビ談義が始まった」
「長くなりそうだね」
カンナと学人は溜息を吐きながら耳を傾けていた。
「最初の映画もゾンビなのか」
広明は紅茶を飲みながら促した。
「えぇ、もちろんですよ。で、その映画の終盤で主人公の親友が噛まれてゾンビになってしまうんです。どうしようもなく悲しいですよね?」
ローズは滔々とゾンビ談義を続ける。
「そうだな。普通は人類全てがゾンビになって終わりだよな」
広明は嫌な顔をせず、恋人の話に耳を傾け言葉も挟む。
「はい、人間とゾンビが相容れずに……ただその映画のラストは主人公と親友が一緒に暮らしててゲームしてるんです。親友はゾンビですから鎖に繋がれてるんですけどね。何というか、例え死んで何も考えられなくなっても皆と一緒にいれるならそれはそれで幸せかなって……あー、もういいから持ってきたお菓子食べましょう」
話を終えたローズは最後の言葉に自ら照れてしまい、照れ隠しにお菓子を食べ始めた。
そんなローズの話を聞いた学人とカンナも照れて
「……食べようか、折角つくってもらった事だし」
学人はやけくそ気味にお菓子を食べ
「……」
カンナは黙々と口に放り込んでいた。
「……幸せの形は人それぞれか」
広明はしんみりと言葉を洩らしつつお菓子を味わっていた。
「この姿どう見ても肉を食らうアンデッド集団にしか見えないな」
ふと照れが引いたカンナが自分達の状況に思わず言葉を洩らした。
それに対して
「早速、それが使えそうだよ。あれ」
ローズは少し離れた所を歩く双子を示した。
「……あぁ、いつもの」
「悪戯を仕返すというわけだね」
カンナと学人はローズの言おうとしている事が分かっていた。何せ自分達の考えでもあるので。
指示を出すのは当然、
「広明さんは血をすすっている感じでカンナと学人はお菓子が見えないように立ってゾンビが肉を美味しそうに貪る感じで」
ローズだ。
「わざわざワイングラスを準備するとは」
広明は紅茶が入ったグラスを優雅に傾けていた。ワイングラスはローズが近くの店から調達した物。
「カップより雰囲気が出ますし定番ですから。ついでに双子の対応もお願いします。それらしい感じで」
ローズは笑顔でグラスである理由を述べてから重要な任務を広明に託した。
「……それらしい感じでか、何とか頑張ってみるさ」
広明は軽く笑みを浮かべて答えた。受けたからにはしっかりやろうというつもりらしい。
「カンナと学人もね。パンは顔がはっきりしないカンナが渡して。で、私と学人は顔を見られないようにしつつ双子にトリックを仕掛けると」
ローズは最後に学人とカンナにも指示を出した。
「了解(エグイものになりそうだけど、あの二人の悪戯に比べりゃあ可愛いもんだろう)」
「……分かった」
学人とカンナもスタンバイする。
その途端、
「トリック・オア・トリート!」
何も知らぬ双子が登場。ちなみにゆかり達とお菓子交換後だ。
「……」
ローズ達はお菓子が見えないようにしつつ肉を食べているような音を立てて双子を迎えた。
「おーい、聞いてるか」
「お菓子をくれないと悪戯するぞ」
ハロウィンサブレで変身した人と思っている双子は声量を上げて再度訊ねた。
対応するのは
「……悪いが今は食事中だ。その体、こいつらにもがれたくなければそっとしておいてくれ」
広明。なるべく双子の恐怖を煽るように不気味な口調で。
「……人だよな?」
「サブレを食べた」
双子は恐る恐るローズ達の後ろ姿を確認のためか食い入るようににらむ。
「……その証拠はどこにある? 妖怪が来ている今日、本物のアンデッドが来ていてもおかしくないだろ」
広明はさらに恐怖を煽る。
「それはごもっともだけどさ」
「ヒスミ、別の奴を当たるか」
双子はお菓子も悪戯も出来ないと判断し去ろうとする。
その時、
「……」
カンナが姿が見えないよう念のために注意を払いつつ体パンを双子のお菓子入れに放り込んだ。
「!!」
あまりのリアルさと先程の広明の言葉から双子は瞬時に後退。
しかし、
「…………」
ローズが食べかけの腕を片手にヨタリヨタリと接近。わざと苺ジャムで汚した口の周りだけが見えるように気を付けつつ。横では恐怖演出として学人が肉を貪っている風な音を立ててパンを食べている。
見事にホラーな一場面に恐怖を感じた双子は
「キスミ、逃げるぞ」
「お、おう」
一目散に逃亡した。
双子の逃亡を確認した後。
「悪戯、見事に成功しましたね。広明さん、お疲れです」
ローズは振り返り、笑顔で広明を労った。
「いや、そっちもなかなかの動きだったぞ」
広明は笑いを浮かべながらローズを労った。
「ありがとうございます。折角ですから記念写真を撮りませんか。ポーズもそれらしい感じで……血が入ったワイングラス片手の広明さんと人間の肉を貪るゾンビの私達って感じで……駄目、ですか?」
ローズはふと記念撮影を閃いた。ホラーな姿にホラーポーズで撮影するのは面白いのではないかと。
「いや、別に構わねぇけど」
断る理由など無い広明はあっさり快諾した。
「じゃ、早速行って来ますね」
ローズは撮影機器と撮影してくれる人を捜しに行った。
「……ロゼ」
「本当に楽しそうだな」
学人とカンナは小さくなるローズの背中を見送りながらつぶやいた。
しばらくして、ローズは撮影機器を入手して撮影を頼んだスタッフを連れて戻って来た。そして、それらしいポーズで無事に記念写真を撮った。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last