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白い機晶姫と機甲虫

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白い機晶姫と機甲虫

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一章 イコン発進


 ヨルク・ヴェーネルトからの連絡を受けた契約者たちは、迅速に行動を開始した。
 大雑把に言って、目的は1つ。機甲虫の撃退だ。大廃都の地下迷宮から湧き出る機甲虫の群れを殲滅するべく、契約者たちは2つの組に分かれる事を決めた。
 1つはイコン組。イコンを用いて大廃都の機甲虫を撃退する組だ。
 もう1つは潜入組。地下迷宮にあると思われる『機甲虫の巣』の破壊を狙う組だ。
 契約者たちは佐野 和輝(さの・かずき)アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)らの【根回し】によって情報の共有を約束すると、それぞれの持ち場に向かった。
 ――そして、今。契約者たちのイコンを乗せた航空母艦アイランド・イーリがアルト・ロニアの空に上がり、待機していた機動戦艦ウィスタリアと合流した。
 地上では避難が始まっている頃だろう。リネン・エルフト(りねん・えるふと)は、ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)に言った。
「ちょっといいかしら? 一度、ゆっくり旋回してから出航したいの」
「ええ、分かりましたわ」
 艦長兼操舵手のユーベルが応え、アイランド・イーリをアルト・ロニア上空で旋回させる。
 ブリッジのモニターには、地上の様子がありありと映し出されていた。避難の真っ直中にありながらも、アルト・ロニアの住民たちは手を振ってみせている。
 リネンは彼らの姿を胸に刻むと、こう呟いた。
「……大丈夫よ。信頼には応えるわ」
 リネンはユーベルに視線を向けた。ユーベルは頷くと、力強く告げた。
「――アイランド・イーリ、出航しますわ!」

 モニター上に、大廃都を覆う森と苔むした遺跡群が表示される。
 丁度時を同じくして、遺跡の入り口より機甲虫が這い出てくるのが見えた。通常の機甲虫の他に、調査団の報告にあった機甲虫・雀蜂型の姿も見える。
 あっという間にアイランド・イーリのレーダーが赤い点で埋め尽くされ、機甲虫の脅威をユーベルたちに知らしめた。
「こちらアイランド・イーリ。イコン射出後、バックアップに回るわ。守りはよろしく」
「はい。各機、連絡を密にお願いします」
 ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)がウィスタリアのアルマと連絡を交わし合い、ユーベルがイコン発進の指示を下す。
「進路クリア、魂剛発進どうぞ!」
「さーて、虫退治だ! 片っ端から片付けてやる!」
 アイランド・イーリのリニアカタパルトが唸りを上げ、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の搭乗する魂剛を射出する。カタパルト射出による高速移動を利用し、魂剛はすれ違う機甲虫をアンチビームソードで斬りつけていった。
「進路クリア、ゴスホーク発進どうぞ!」
「ゴスホーク、出る……!」
 続けて、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が搭乗するゴスホークが発進。
 射出直後、ゴスホークが左腕にビームシールドを展開させ、機甲虫の群れに突撃する。カタパルトによる高速射出、そこから発生する運動エネルギーを活かしての激突だ――アルト・ロニアに向かうべく飛翔する機甲虫の一角が崩壊した。
「進路クリア、アンシャール発進どうぞ!」
「目指すは、機甲虫の群れの殲滅だよ!」
 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)が搭乗するアンシャールが発進。空中で体勢を整えながら、マジックカノンを撃ち放っていく。
「進路クリア、ブラックバード発進どうぞ!」
「俺たちは情報支援をする。索敵は任せろ」
 和輝とアニス・パラス(あにす・ぱらす)が搭乗するブラックバードが発進。宣言通りブラックバードは大廃都の上空を旋回し、戦域全体を索敵。イコン各機のレーダー上に味方機の位置情報と、遺跡や木々の陰に隠れる機甲虫の仔細な位置が表示される。
「進路クリア、ザーヴィスチ発進どうぞ!」
「さぁ、始めようじゃありませんか。イコンと機甲虫の、とんでもない戦いってヤツを!」
 最後に、富永 佐那(とみなが・さな)エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が搭乗するザーヴィスチが発進。標的は、他の機体を狙う厄介な機甲虫・雀蜂型だ。イコンホースを駆るザーヴィスチは宙を蹴るように飛び、機甲虫・雀蜂型の素早い動きに追従していく。
 イコンと機甲虫。単機での性能ではイコンが上だが、機甲虫は『数』という名の暴力を有している。相手がどれ程の戦力を保有しているか、それすらも分からない状況だ。
(これは、長期戦になりそうですわね……)
 ユーベルは、拳を固く握り締めた。