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学生たちの休日12

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キマクの年越し



「ごにゃーぽ。パワードスーツの着納めだよ!」
 颯爽と空中を疾走しながら、鳴神 裁(なるかみ・さい)が叫びました。パワードスーツ・ソレンジャイを着て、大荒野を縦横無尽に飛び回っています。
 地上には、人型の牽引車両が牽くコンテナが小さく見えます。
『あまり無茶しないでよー』
 鳴神裁に憑依している物部 九十九(もののべ・つくも)が、それとなく注意しました。なにしろ、スピードだけを追求したソレンジャイは、もの凄くピーキーなパワードスーツです。見た目はメイド服にしか見えませんが、露出した部分はストッキング状のポータラカスキンで全身くまなく被われています。その上で、憑依している物部九十九が鳴神裁の身体を強化し、魔鎧であるドール・ゴールド(どーる・ごーるど)がインナーとして衝撃から守っていました。移動コントロールも、ドール・ゴールドが担当しています。攻撃は、ソレンジャイの上を被うギフトの黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)が担当しています。とはいえ、攻撃用のフィールドで鳴神裁をつつむだけですから、体当たり攻撃しかできません。まさに、鉄砲玉です。
『離偉漸屠発見。危険度低』
 眼下に、野良イコンを見つけて黒子アヴァターラマーシャルアーツが報告しました。何やら、イコンの残骸を漁っているようです。おそらくはイコンを使った盗賊、像賊でしょう。たぶん……。
「いっくよー、ごにゃーぽ♪」
 ターゲットをロックオンすると、鳴神裁はポイントシフトで最適な移動を行い、一気に体当たりをかましました。
「ひでぷっ!?」
 何者にやられたのかも分からぬまま、どてっぱらに大穴を開けられた離偉漸屠がぶっ倒れて動かなくなりました。それにしても、一撃で撃破とは、野良イコン弱すぎです。もう少し、ちゃんとメンテはしてほしいものですね。
「これで四十九体目。そろそろ年越しだから、最後に大物行く?」
 鳴神裁に言われて、黒子アヴァターラマーシャルアーツが大物を探しました。
『ダイノボーグを見つけました。マジ、イケメンです』
「よおし、あれでシメるよ。ドール、最後にあれやるよー☆」
 そう言うと、鳴神裁が胸を張りました。覚醒です! もっとも、パワードスーツが覚醒したのではなく、中の人の鳴神裁が覚醒でリミッター解除しただけですから、その能力は鳴神裁に全面的に依存です。
「ごにゃーぽ♪」
 ズンと、上空から急降下した鳴神裁が、野良ダイノボーグの頭頂にパンチを決めました。めきょっとへこんで、そのままダイノボーグが潰れ、さらにクレーターができあがります。
 即座に鳴神裁が上昇すると、下から激しい衝撃波が追いかけてきました。野良ダイノボーグは木っ端微塵です。
「あはははははは、さいっこー♪」
 遥か上空にまで駆け上った鳴神裁がハイになっていると、雲の彼方から光が射してきました。初日の出です。
「わあ、綺麗だ……ねっ!?」
 そう言ったとたん、突然力が抜けてソレンジャイが墜落を始めました。むやみに覚醒などを使ったため、反動で身体が動かなくなったのです。
「えっと……激突!?」
『無理です、止まりません』
『だから、あれほど注意して使ってくださいと……』
『裁、君はどこに落ちたい?』
 わきゃわきゃと四身一体の鳴神裁が騒いでいる間にも、地面は近づいてきます。
 グシャッ!
 激突しました。
 ソレンジャイは木っ端微塵です。当然、中身の鳴神裁も……おや、何か動く影があります。
「こんなこともあろうかと、プロフィラクセスを……あわわわわ」
 保険として準備しておいたプロフィラクセスで一命はとりとめたようですが、全ての力を使い果たしてばったりと地面の上に大の字に倒れました。ばらばらと、ドール・ゴールドと黒子アヴァターラマーシャルアーツも人間体に戻って、団子状に鳴神裁の上に折り重なって気絶しています。
 パワードスーツも魔鎧もなくなって、鳴神裁は下着姿です。風邪をひかないでと祈るばかりですね。

    ★    ★    ★

「さあ、わたくしと黒羽さんの作った料理を食べるのですわ」
 そう言って、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)源 鉄心(みなもと・てっしん)に迫りました。
「こんな物食えるかあ!」
 叫ぶなり、源鉄心が暴れだします。
 まあ、それももっともです。なぜなら、スイカの刺身に、スイカの天ぷら、スイカの鍋に、スイカのお吸い物、スイカカレーと、とんでもないスイカづくしです。
「食べるのですわ、食べなさーい」
「嫌だ」
「食べるのよー!」

    ★    ★    ★

「にゃああああああ!!」
「な、なんだ!?」
 寝ていたイコナ・ユア・クックブックが突然むくりと起きあがって叫んだので、源鉄心がちょっと驚きました。何か、悪い夢でも見ていたようです。
「とりあえず、スープをいじってろ」
 そう言うと、源鉄心がスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)をイコナ・ユア・クックブックに押しつけました。
「スープ……、スイカスープを飲みなさいですわ!」
 そう叫ぶなり、イコナ・ユア・クックブックがスープ・ストーンをガシガシしました。
「鉄心殿、拙者をスープの具にしないでくだされ、鉄心殿〜」
 必死にスープ・ストーンが助けを求めますが、源鉄心はすでに翠花のブリッジに逃げた後でした。
 今日は、フリングホルニ級二番艦翠花に乗って、兵学舎の面々を中心としたお友達会で初日の出クルーズに行くのです。目的地はアトラスの傷跡でした。それと、内緒でもう一つ目的がありました。
 翠花の飛行甲板には、何やら庵のような和風の離れが作られており、その中に鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が持ってきた大きな兵学舎のこたつがあってみんなが集まっていました。
 炬燵板の上にはミカンが積みあげられ、お鍋がコトコトと煮えていました。
「今日は、みんなよく集まってくれました。これから、初日の出クルーズと、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)さん、鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)さん、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)さんのお誕生会を始めたいと思います」
 源鉄心が、一月一日生まれの三人の名前をあげました。サプライズパーティーです。
「それじゃ、まずは乾杯からかな」
 源鉄心がお酒の入ったグラスを持って立ちあがりました。
 お酒は二十歳から。
 屋良 黎明華(やら・れめか)と九条ジェライザ・ローズと鬼龍貴仁はビールで、鬼龍 愛(きりゅう・あい)や鬼龍白羽や鬼龍黒羽やウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)やイコナ・ユア・クックブックやスープ・ストーンはスイカサイダーです。
「お祝いだから、ちょっとならいいうさ?」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)も、甘酒をちょっと湯飲みに注ぎました。
 みんなで、じっと新年を待ちます。5、4、3、2、1……。
 新しい年が始まると共に、アトラスの傷跡近くにある遊園地から一斉に花火があがりました。