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パラミタ・イヤー・ゼロ ~DEAD編~ (第1回/全3回)

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~DEAD編~ (第1回/全3回)

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「狙撃ニ失敗シマシタ」
『カモフラージュ』で姿を隠していたイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)が、島の北側を見つめて言った。
「イブの狙撃に気づくとは……。聡い奴がいたものじゃのう」
 パートナーとは少し離れた場所で、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)がつぶやく。その声には、悔しさではなく賞賛の響きが込められていた。
 刹那とイブ。彼女たちは前回の事件から、八紘零からの依頼を継続している。
「まあよい。イブよ、引き続き警戒をたのむぞ」
「了解シマシタ。マスター刹那」
 イブはふたたび、スナイパーライフルを覗きこんだ。

――しばらくして。イブからこんな通信が入った。
「ダンボール箱ガ、近ヅイテマス」
「なに……。ダンボール箱じゃと?」
 パートナーの報告に眉をしかめる刹那。まさかダンボールで武装するような人物に、核シェルターを破壊できるとは思えないが、近づくものは排除しろとの依頼を受けている。見逃すわけにもいかなかった。
「しかたあるまい。行くとするか」



 シェルターに近づくダンボール箱の正体。賢明な読者にはもうお分かりのことと思うが、中に入っている人物とは、シャンバラ教導団のテロリスト葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)である。
 西側のルートにて、契約者がディシプリンや天殉血剣と戦っている間、吹雪はどさくさに紛れてシェルターを目指していたのだ。
 零はきっと凄いABC兵器(核、生物、科学)かかえこんでいるに違いない――。そう信じて。
「シェルターにある兵器さえ手にすれば、きっと自分の“夢”も叶うであります!」
 吹雪はダンボールのなかでひとり意気込んでいた。ちなみに吹雪の語録では、夢と書いて『テロ』と読む。
 彼女の後方では、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が見晴らしのいい位置に待機して、島の全体的な状況を報告している。
「誰にも邪魔はさせないであります。コルセア、支援はたのんだであります」
「……まあ、まかせといて」
 懲りない彼女へ、コルセアはため息まじりに応えた。
「シェルター内のABC兵器を教導団に渡すわけには行かないであります! 絶対に入手して、凄いテロをするであります!!」
 なにかが間違っているパートナーに、コルセアが教導団を代表して突っ込んでくれた。
「確か、あなたも教導団所属よね?」


 シェルターまであと一歩というところで、吹雪の前に刺客が現れた。裏の世界にその名を轟かせる仕事人、辿楼院刹那だ。
「悪く思うなよ、こちらも仕事じゃからでのぉ」
 無慈悲にそう言い放って、刹那は足元に張っていたピアノ線を切る。仕掛けられていた『しびれ粉』が大量に吹雪へと降りかかった。
「ななななんでありますか!」
 ダンボールでしびれ粉を振り払いながら、吹雪はあわてて飛び出した。姿を現した彼女へ、刹那は『毒虫の群れ』を発動させる。
「コルセア! なんとかしてほしいであります!」
「……ごめん。こっちも手が離せないわ」
 コルセアも、イブのスナイパーライフルから逃げるのに精一杯のようだ。
 その間にも刹那は『歴戦の飛翔術』で飛び回り、死角から死角へ移動。次々と暗器を投擲する。
 たたみかけてくる攻撃にたじろぐ吹雪だったが、彼女とてこのままじゃ終われない。テロという夢を叶えるためにも、こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
「もう! そっちがその気なら、自分だって……」
 吹雪の顔つきが本気モードに変わったところで。
 刹那が、とある報告を傍受した。

「――なんじゃと? 奴を見逃せとな?」
 刹那に連絡をしたのは、核シェルターで待機している、【八紘零】であった。
 零はなにを思ったか。『吹雪をシェルターまで招くよう』に伝えていたのである。刹那は僅かのあいだ思案していたが、やがて吹雪にむけて告げた。
「どうやら命拾いをしたようじゃのぉ」
 そして、すぐにパートナーのイブに伝える。
「依頼主の意向が変わったようじゃ。撤退するぞ、イブ」
「……了解シマシタ。マスター刹那」
 刹那は毒の香りを、イブは硝煙だけを残して。二人は音もなく姿を消した。


「なんだかよくわからないけど……。とにかく今はシェルターを目指すであります! 行くでありますよ、コルセア!」
 吹雪はダンボールをかぶりなおすと、再び零のいる核シェルターへと向かったのである。