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正体不明の魔術師と同化現象

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正体不明の魔術師と同化現象

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「ロゼ、治療は出来たか?」
 斑目 カンナ(まだらめ・かんな)は『アンボーン・テクニック』で魔物を蹴り倒しながら背後で『ヒール』で治療を行っている九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)に訊ねた。
「出来たよ。ほら、もう大丈夫。もう避難場所を抜け出したら駄目だよ」
 ローズは少年に注意をした。
「あぁ、これがねぇと妹が泣き止まなくて、ありがとうな姉ちゃん」
 少年は妹お気に入りのぬいぐるみを手に避難場所へ急いだ。
「さぁ、カンナ次行くよ。もしかしたら平行世界の私達が来てるかもしれないね(もし丞(すすむ)だったらこの状況凄く嫌がるかも。映像見る限り争いを嫌ってたし)」
「あぁ、そうだな。もしいるなら手を貸して欲しい所だ」
 ローズとカンナは人手が欲しい状況に思わず、以前映像で見た平行世界の自分達の事を思い出していた。ただローズは丞の性格が気掛かりであったが。
 とにかく二人は自分のやるべき事を続けた。

 ローズ達がいる街の別通り。

「とんでもない事に巻き込まれてしまった……これは逃げよう、静(しずか)」
 イコン設計士のインターンである青年九条丞は惨状を見回し、隣の青年を諫める。
「丞、来たからには出来る事をするしかないだろう。こうなっては」
 丞の従兄弟である青年九条静は肩をすくめて呆れたように言った。
「そうは言うけど、静。僕は……(本当にどうしたものか……)」
 丞は静の言い分が受け入れられず困りつつ口を開くも
「争いが嫌いだろ。言っただろう、妥協するべき時は妥協するべきだって。本当、融通がきかないな」
 静は先回りして丞の気持ちを言葉にする。妥協出来る静と違い丞は神経質で几帳面で特に争い事になると余計に。
「……そう簡単なものじゃない。ここは僕らの世界じゃないんだ。逃げよう(あんな目にはもう……それに今度下手をしたら静だけじゃなく僕自信の命も……)」
 丞は静の右手の義手に目を向けた。昔パラミタ紛争に巻き込まれ、静を守れず右手を失う事になった事。それ以来一層争い嫌いが強くなった事を。
「……分かった(俺の手を見て、またあの日の事を思い出してるな)」
 丞が自分の義手を見て何を考えているのか察した静は立ち向かうのを諦め息を吐いて折れた。
 そして、二人はこの街を出ようと急いだ。
 その途中、
「そこの人達、私達の力になってくれないかな(まさか平行世界の自分に会えるなんて)」
「あたし達はこの世界の住人だ。悪いが頼む(これが静か)」
 丞達はローズ達に遭遇した。
「手伝いならする。じゃないと俺達の世界も危ないからな。それにこっちの世界の奴に頼まれたからには断れないしな(……何だこの二人、どこか俺達に似ているような)」
 静は即答した。内心自分達に似たカンナ達に首を傾げていた。
「静、さっきは逃げる事に賛成してくれただろ。こんな酷い中、戦闘するよりも避難するのが一番だよ。自分達の身を守らないと(というか何なんだ……この僕らにどことなく似ている二人は)」
 丞は協力を拒否。胸中で自分達に似たローズ達を不思議に思っていた。緊急時のため平行世界の同一人物とは伝えず互いに名乗り合っただけだ。
「そこまで争いを嫌うにはそれほどの恐怖を経験したんだと思う。でもだからこそ今は恐怖を乗り越えなくちゃいけないと思うよ。守りたいものがあるなら、闘う覚悟も必要」
 ローズは必死に丞の説得をする。今は少しでも戦える人手が欲しいから。
「……一体、何を」
 丞は渋い顔をするばかりで首を縦には振らない。
 そんな時、
「ロゼ、敵だ!」
 カンナの警告。
「……敵……静、早くここを……囲まれた?」
 丞は慌てたように周囲を見回した。話している内にいつ間にか囲まれたらしい。
「もうしっかりしなさい! 貴方は……貴方は……えーと……私に似てるところがあるんだから! 覚悟を決めれる筈だよ! 今は逃げる時じゃない。ほら、 護身用の武器はあるんでしょ?」
 ローズは先程の説得時よりも声を張り、強い調子で戦闘へ急かした。
「……あぁ、ある。こうなっては仕方が無い(それに何なんだろう……この女性の言葉、妙に……)」
 丞は終焉のアイオーンを手に持ち覚悟を決めた。ローズの言葉に奮い立たせられている事に奇妙に思いながら。相手が自分なのだから奮い立たされるのは当然なのかしれない。
「行くよ!」
「……あぁ」
 ローズと丞は拳銃を手に背中合わせに戦闘を始めた。

 戦闘を開始してすぐ。
「なかなかやるね」
 ローズは飛行する魔物を撃ち抜きながら共に戦う丞に話しかけた。
「……本当はイコンの設計が仕事だけどね」
 丞は地上の魔物を撃ち倒しながら言った。
「イコンのかぁ。少し羨ましいな」
 ローズは思わず本音を洩らした。
「?」
 丞は顔に疑問符を浮かべローズに話すように促した。
「イコンの知識が無いせいで恋人が仕事の時隣で支えられないから……少しね」
 ローズは仕事をする恋人の姿を見ているだけの自分を思い出し、少しだけ寂しそうに溜息。
「……恋人がイコン関係の人なのか」
 と丞。まさか信頼する講師がこちらの世界の自分と恋人関係であるとは思いもしないだろう。

 一方、カンナと静。
「へぇー、あんたやるじゃん?」
 『アンボーン・テクニック』による義手パンチで魔物を打ち倒した静は感心したようにカンナに言った。
「まぁな。それより、義手だからって手を使いすぎ、音楽家なら手は大事にしろ」
 カンナは感心をさらりと流す代わりに厳しい指摘を静に喰らわせた。
「……俺的には義手パンチが気に入ってたんだけどな。やっぱこれ大切にした方が良いか。というか、あんたに言ったか? 俺が音楽家だって事?」
 静は右手を握り拳にしながら言うも紹介時に言った覚えのない事をカンナが口走った事に気付いた。
「……ロゼには内緒だが、あたし達は世界は違えど同一人物なんだ。こちらに送られた映像で二人の事を知った」
 カンナは声量を落としてこっそり自分の正体を明かした。
 知るなり静は
「本当か? 信じられないな俺とアンタが同一人物ってのは……会った時、どことなく似ていると感じたりはしたが」
 声高く驚き、まじまじとカンナを見るのだった。
「実はあんたの姿を見てあたしも一歩進むことができて指揮者を目指す事にしたんだ」
 カンナが打ち明けるのは正体だけでなく抱く気持ちもだった。演奏者から指揮者になる事。自分がそうする切っ掛けの一つが静の姿であった事。
「……そうか。俺を見て……ありがとな、そう言ってくれて。ちょっと今のあり方についてもやもやしてんだ」
 静は蹴りで戦いながら言った。元々の夢は演奏者だった。それが指揮者になったのは右手を失ってからだ。義手をしているものの断念した夢。最初から指揮者を目指していれば気持ちのありようも違っていただろう。
「それはあたしも同じだ。最初から指揮者を目指してたわけじゃない」
 カンナも自身の事を話す。こちらも最初から目指すものは指揮者ではなかった。
「そうか。でもあんたも指揮者になるんなら、俺の手も夢もこうなる運命だったのかもな」
 静は自分とカンナが指揮者を目指す切っ掛けとなった右手の義手を一瞥した後、口元に笑みを浮かべた。
 カンナと静は蹴りで次々と魔物を蹴り倒していった。
 ローズ達と丞達はこの異変が終了するまで街で戦い続け、時には避難し遅れた一般人の救出もした。