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「このお店なのです」
「や、やっと着いた……」
 ひとつは元気な、ひとつは疲れ果てたような、その会話が耳に入り、神崎 翔太(かんざき・しょうた)は目を向けた。
 三人の女の子達が連れ立って、近くの店に入って行く。
 シックだが、少し可愛らしい感じの店で、店頭には、『バレンタインセール中』というポスターが貼ってあった。

「もう、二月か。ついこないだ新年が始まったような気がしてたけど」
 そういえば、故郷では、二月には愛の告白にチョコを贈る、というイベントがあったのだった。
 当時は、自分には関係ないと思っていたけれど、今、見かけたその店に立ち寄ろうかと思ったのは、今の自分には、大切に想う相手がいるからだ。

 店内は、騒々しい程ではないが、やはり客が多く、その殆どが女の子だった。
 場違い感を感じたけれど、男もいないわけではなかったので気にしないことにして、チョコを選ぶ。
「男同士だけど……別に問題ないよな」
 色々と、迷惑をかけてしまっていることを自覚している。
 彼は優しいから、何でも許してくれるけれど、この機会に、いつもの礼と、自分の気持ちを形として渡すのも、悪くない気がした。
「何か悩んでいるのです?」
 思案にくれていると、声を掛けられた。見ると、先刻店に入るのを見かけた女の子だ。
「いや……こういうのってやっぱり、手作りの方がいいのか?
 あまり経験無いんだが……失敗したくないし……」
「どっちがいい、というのは無いと思うのです」
「ん、そうだな。渡したい方を渡せばいいか」
 きっと、どちらでも喜んでくれると思う。
「じゃあ、手作りに挑戦してみようかな……。帰ったら、ネットで作り方を調べて」
「応援するのです!」
「ありがとう。君もな」
 満面の笑顔を見せた少女に、翔太もそう言った。

 甘味を控えた、ビターチョコレートを、ゆっくりと湯煎にかけて溶かし、少々のミルクと、香り付けのシナモンを混ぜて練る。
 彼の好きなクローバーの形の型に入れ、冷やしている間に、同じ店で買ったカードにメッセージを書いた。

『いつも俺を守ってくれてありがとな。
 気持ち程度にしかならないけど、元気が出るかもしれないから作ってみた。
 これからもよろしくな。愛してる』

 固まったチョコを型から出して、カードと一緒に箱に入れて、完成だ。
「早く帰ってこないかな……」
 何だかうずうず、わくわくしてしまう。
 バレンタインの当日まで、これを隠しておけるだろうか。
 降り始めた雪を窓から眺めながら、翔太は、パートナーの帰りを待った。




―――――――――――――――――――――――――――――――― 大切なあなたへ。