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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 弐

リアクション公開中!

【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 弐

リアクション


「ひい〜、もうだめだ! もう勝てない!」

 目の前に迫ったイレイザーとアナザ・ダイソウトウ
 その強力なコンビを目の前にして、超人ハッチャンの逞しい両膝は、小刻みに震えていた。
 イレイザーの上でアナザ・ダイソウは、超人ハッチャンたちを見下ろしてさらにその周囲の様子を伺い、瞳に明らかな怒りを込めて言う。

「貴様ら……私のイコンをどこへやった!」

 そう、先の爆発で妻として迎えるはずの秋野 向日葵(あきの・ひまわり)を見失ったアナザ・ダイソウは、まずはイコンを回収しようと【オリュンポス秘密研究所】へやってきたわけだが、肝心のイコンが見当たらない。
 アナザ・ダイソウは、ダイソウ トウ(だいそう・とう)でなければダメージを負わせることはできない。
 それによって圧倒的優位であるはずのアナザ・ダイソウだが、彼の計画は現状何一つ思い通りになっていない。
 いよいよ彼はいら立ちを露わにしている。
 そして、イコンを分解してパーツを隠すという荒業に出た張本人は、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)である。

「さて……と。ダイソウトウが何とかして戻ってくるか、秋野ひなげし君がパワーアップして戻ってくるか。最低でもどちらかが成功しないと、彼を倒すすべはない……」
「お、お、落ち着いて言ってないでさぁ! どうすんだよぉ」

 肉体は怪物でありながらその心はか弱い人間のままのハッチャンを見上げ、トマスはさらに、

「なあに、正面切って挑んでいっても仕方がない。僕らにできるのは、あくまで時間稼ぎさ。彼らが戻るまでのね」

 と、思わせぶりにそう言った後、彼は魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)にアイコンタクトを取って頷いた。
 子敬はトマスに頷き返し、解説がてらに話し始める。

「アナザ・ダイソウトウはギャグには乗ってくれませんからね。おいそれとふざけるのは下策というものです。ここで必要なのは、発想の転換ですよ」

 と言われても、超人ハッチャンの頭には、クエスチョンマークが浮かぶばかり。
 子敬はさらにフフッと笑みを浮かべ、

「ギャグに乗らないのなら! 何なら乗ってくれるのか、ということです!」
「どういうことー!?」
「彼はギャグに乗らないのにイレイザーには乗っています。なら他にも乗ってくれるものがあるはず。それを見つけ出すのです」
「『乗る』ってそういうことじゃないでしょ!」
「私たちは、おいそれとふざけない!」
「ふざけてるでしょーが!」

 と、ハッチャンが叫ぶのを尻目に、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)がアナザ・ダイソウに向かって飛び出した。
 ハッチャンが二人を目で追いながら、

「無茶だ! 君たちじゃアナザ・ダイソウトウを傷つけることはできない。死ぬ気かーっ!」

 と叫ぶが、二人の目に宿った決意は固い。
 向かってくる二人を見て、アナザ・ダイソウの表情は怒りから余裕へと変わる。

「フ……玉砕覚悟というわけか? お前たちでは時間稼ぎにもならんわ!」

 アナザ・ダイソウは返り討ちにしてやろうと、両手を構える。
 同時に、ミカエラが自分の懐に手を入れた。

「こう見えてもそれなりに修羅場はくぐってきたのよ。甘く見てもらっては困るわ」

 と、彼女は懐からお札のような紙束を取り出し、アナザ・ダイソウに向かってばらまいた。
 アナザ・ダイソウは一瞬警戒して、

「! 結界か?……ぬっ!」

 目を逸らしたスキに、アナザ・ダイソウの後ろに回り込んだテノーリオが彼を羽交い絞めにする。

「確かに傷つけることはねえ。だが、体の自由を奪うことはできるはずだ!」
「小癪な!……ぬっ!」

 アナザ・ダイソウがテノーリオを振りほどこうとしたその時、死角に入ったミカエラがばらまいたお札を一枚掴み、ピシリとアナザ・ダイソウのおでこに貼り付けた。

「しまっ……これはまさか、封印結界か!」

 動揺を隠せないアナザ・ダイソウに、ミカエラは笑いかける。

「御名答。これは鬼より怖い『税務署の差し押さえシール』!」
「ぬう、税務署の差し押さえ……ん?」

 アナザ・ダイソウはおろか、超人ハッチャンの頭上にも『?』が浮かぶ。

「常識のある人間なら、これが貼られた意味が解るわよね?」
「い、意味が解らない……」

 アナザ・ダイソウの代わりに、超人ハッチャンがつぶやいた。
 しかしこれこそ作戦のうち。
 子敬がガッツポーズをして、

「よし、差し押さえシールがギャグなのかシリアスなのか、判断に迷っています。テノーリオ、今です!」
「よっしゃあ! 強敵を羽交い絞めにしたらやることは一つだぜ。うおおおお、燃えろ小宇宙よ、奇跡を起こせ! テノーリオ・ローリングクラッシュ!」

 指示を聞いたテノーリオが、強力な回転をかけながらアナザ・ダイソウごと上空へとジャンプ。
 そして地上にはトマスが待機しており、

「いいぞテノーリオ! こっちだ!」

 と、手を振って合図する。
 テノーリオとアナザ・ダイソウは錐揉み回転で上空から地上へと落下してゆく。

「うおおおおおおおおおっ!!」

 テノーリオは持ち前の腕力に任せてアナザ・ダイソウを放り投げ、

どがあっ!!

 と、乳母車に彼を叩きつけた。

「今だっ! じゃあみんな、ダイソウトウとひなげし君は任せた! ちょっとアナザ・ダイソウトウをしまってくる!」

 トマスはそう叫ぶと、四人で乳母車を押して走り去っていった。
 アナザ・ダイソウの頭の回転が追いつく前に彼を連れ去る。

 と、その乳母車に願仏路 三六九(がんぶつじ・みろく)も入ってきた。

 洗礼の光で無駄に神々しく現れると、

「ンフフフ…ダークサイズの神であるワタシが来たからにはもう安心です……未来の国のポン引きや色欲に溺れた選定神を頼みにするよりもこの荒んだ末法の世を唯一救済することのできるワタシに全てを委ねるのです」

 なんだか怖いことを口走りながら――アナザ・ダイソウトウの股間を執拗に攻撃し始めた。

「ぐっ! やめろ! ダメージは無いが実に不愉快だ」
「さぁ、我が輝かしき肉槍にて、その暗き心の穴を照らし、必ずや救済して差し上げましょう……フォォーーーーセイヴァーーーーーーーー!!」
「人の話を聞けえええええええええええええええええ!」

 そのまま乳母車の影は遠くへ消えていった。
 強引とはいえ、それもどれだけ時間が稼げるか分からない。
 アナザ・ダイソウをこの場から退場させても、目の前にはイレイザーがいる。
 主を連れ去られたイレイザーは、枷が外れたように今にも暴れだしそうだ。

「しかたありませんねぇ……アナザ・ダイソウトウの代わりに、あの子に責任を取ってもらいましょうねぇ」 

 キャノン モモ(きゃのん・もも)が重傷で意識を失い、その怒りで我を失ったレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)だが、幾分落ち着きを取り戻し、残ったイレイザーに目を向ける。
 レティシアは後ろにいるミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)に、

「ミスティ、モモちゃんの回復はお願いしますねぇ」
「ええ。でもレティ、無茶はしないで」
「もちろんですぅ。モモちゃんに会えなかったら意味がないですからねぇ」

 レティシアは落ち着いた口調だが、その奥に残っている強い怒りをミスティはもちろん感じ取っている。

(絶対回復させないと、後が怖いわね……)

 ミスティはレティシアの背中を見ながら、ぞくりと悪寒が走る。
 その彼女に、後ろからぽんと肩に手を置く者がいる。

「ミスティさん。わたくしの妹を、よろしくお願いしますわ」
キャノン ネネ(きゃのん・ねね)さん……」

 ネネはミスティに声をかけると、レティシアへ歩み寄って彼女の横に並ぶ。

「モモさんが目を覚ますまでに、あのイレイザーは倒してしまいたいですわね」
「そうですねぇ。モモちゃんが寝てる間に、アレをぶち殺してしまいましょうねぇ」

 相手はあのイレイザーである。たった二人で到底倒せる者ではないのだが、

(キャノン・モモちゃんのお姉さまとおねぇさま……ある意味最強タッグかも)

 今の彼女たちならやってしまいかねない、まがまがしいテンションを感じるミスティ。

「いきますかねぇ、モモちゃんのお姉さま」
「そうですわね、モモさんのおねぇさま」

 レティシアとネネはキッとイレイザーを見据え、

『モモちゃん(さん)の仇……!』

 全力をもってイレイザーへと向かってゆく。
 二人を見送ったミスティは、

(モモちゃん、また死んでないから仇じゃないけどね……)

 などとは到底ツッコめるはずもなく、モモの回復へと向かっていった。



★☆★☆★



「とはいえ、どれだけ時間があるかわからへん。早いとこクマチャンのイレイザーを解放してしまわんと……」

 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、トマスやレティシアのおかげで獲得したわずかな時間で、なんとかクマチャンの中に封じられたイレイザーを解放せねばと急ぎその準備を始める。
 超人ハッチャンが泰輔に駆け寄って言う。

「クマチャンからイレイザーの魂を分離するって……どうやって?」

 泰輔は召喚用魔方陣を地面に描きながら、

「そもそも、イレイザーの魂と誰か(この場合クマチャン)を繋ぎ合わせるなんちゅうのは、現代に記録が残らんほどの外法や」
「それに」

 と、泰輔の説明を引き継ぎながら、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)がクマチャンを引率しながら連れてくる。

「イレイザーの魂が強すぎて、クマチャンの精神は今、自我を失っています。これではいろんな意味で戦闘に向きません。イレイザーをダークサイズのために活用するには、新しい器が必要なのです」
「新しい器……」
「泰輔ー。転移用の魔方陣はこんな感じでいいのかい?」

 見ると、泰輔が描いていたのとは別の魔方陣を描きあげたフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)がその中心に立って両手を広げている。
 泰輔は大きくうなずいて、

「OKや。転移用魔方陣にはクマチャン、転移用魔方陣にはイレイザーの新しい器を置く。召喚用魔方陣に移動召喚する際にクマチャンとイレイザーを分離し、イレイザーの魂を新しい器に移す。すると、召喚用魔方陣には新たなイレイザーの宿主と、元通りのクマチャンが現れる、っちゅー段取りやな」
「ちょ、ちょっと待って」

 超人ハッチャンが泰輔の説明を遮り、

「肝心の新しい器って?」
「そりゃあ、ただの入れ物じゃあかん。強靭な肉体とイレイザーの魂を受け入れる精神力の持ち主やな」
「ぼ、僕は無理だよ!?」

 超人ハッチャンは、もしや自分に白羽の矢が立つのではないかと、ヒヤヒヤしながら両手を振る。
 泰輔は超人ハッチャンの胸をパンと叩き、

「大丈夫や。この召喚術の器には条件が必要やさかい」
「条件?」
「魔方陣を移動する際、イレイザーの魂は『マリコの部屋』を通る。せやから……」
「ちょちょちょちょ待って……『マリコの部屋』って何?」
「マリコの部屋はマリコの部屋や。マリコの部屋とコンタクトを取れるんは、『悪女』だけや。やから新しい器は女性っちゅうことになるな」
「????」

 超人ハッチャンの頭には、またしてもクエスチョンが浮かぶ。
 フランツは両手についた土を払いながら、

「あー、その歌僕も知ってるー」
「う、歌? 歌なの? え、どういうことなの?」
「現代人は権利権利って大変だよねー。僕の曲はノーギャラで演奏し放題なのは納得いかないけど……」

 話題についていけない超人ハッチャンを尻目に、レイチェルまでが、

「イレイザーの魂の器にふさわしい人……そんな人がいるんでしょうか? 悪女な女性がいいんですよね?」
「まぁ、どうしてもおれへんかったら、レイチェル。君が器や」
「いや私……悪女なんですか? 泰輔さんから見て……」
「大丈夫だよレイチェル! 女性だ誰しも悪女なのさ」
「フランツ……一発殴ってもいいですか?」

 などと緊張感のない会話が始まるころ、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)がやってきた。

「泰輔」
「おー顕仁! ご苦労さん」

 泰輔は顕仁をねぎらうが、彼は若干不満そうである。

「何ゆえ我が器のスカウトマンなぞせねばならぬのだ……」

 かつて帝位にあった魔王が器のスカウトに駆け回るとは、現代とは恐ろしい時代である。
 ぶつくさ言いながらもスカウトの仕事をきっちりこなしてくる顕仁も顕仁であるが。
 泰輔は嬉しそうに、

「顕仁のことや。最高の悪女を見つけてきてくれたんやろうな!」

 そういうわけで、顕仁の隣には葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が敬礼して立っている。

「よ、よろしくお願いしますであります!」

 童顔、低身長、おまけにポニーテール。

「……悪……女……?」

 あっけにとられた泰輔は思わずそうつぶやいた。

「し、仕方あるまい。いろいろあってこやつしか捕まらなかったのだ」

 と顕仁。

「話はあらかた聞いたであります! イレイザーの魂の新たな器を探していると! 自分を使ってほしいのであります!」

 自己犠牲の鑑のような覚悟であるが、

(くくく……ついにイレイザーの力が手に入るであります。人間を超越した存在になるであります!)

 という考えがあるのも、吹雪の本音である。
 泰輔的には悪女とは程遠い吹雪に不満はあるが、とにかく時間がない。
 早速転移用魔方陣にクマチャン、召喚用魔方陣に吹雪が配置される。
 泰輔もいっぱしの召喚師である。
 スムーズに意識を集中して【召喚師の知識】を総動員して呪文を詠唱。
 二つの魔方陣は光に包まれ始める。

「く、クマチャン……ついに本当に、元に戻れるんだね……」

 結果的に親友が元に戻るチャンスを得た超人ハッチャンは、息をのんで魔方陣を眺める。
 隣のフランツも、

「いやあ、泰輔の召喚もずいぶんサマになったねぇ」

 と満足げに頷く。
 ふと、フランツの視界の端に、黒い点のようの物が映り込む。

「ん?……あ、ハエ……」

バシュウッ!!

 二つの魔方陣から強い光が弾け、それが柱状に伸びた後、魔方陣の中に消えてゆく。
 一方にはクマチャン、一方には吹雪。
 二人とも呆然と立ち尽くしている。
 超人ハッチャンは転移用魔方陣に駆け込み、

「クマチャン! 僕だよ! ハッチャンだよ!!」

 と彼の両肩を掴んで声をかける。
 クマチャンはぼんやりと超人ハッチャンに顔を上げ、

「……発車シマァース……」
「……え?」

 イレイザーの魂はクマチャンの中に残っている。
 一方の吹雪と言えば、

「く……くっくっく。ついに、ついに自分は人間を辞めたであります!」

 と、彼女も体の中から力が湧いてくるのを感じている。
 これには泰輔も当惑し、

「ど、どういうことや? どうなっとるんや……」
「ひれ伏すがいいであります人間ども! これから貧弱貧弱な人間を支配する、吹雪様の時代がハエまるであります!」
「な……君! イレイザーの力を手に入れるのが目的やったんか! ハエまるって何や? 始まるって意味?」
「最高にハエ! ってやつでありますねぇ!」
「ハエ? ハイとちゃうんか?」

 何やら違和感を感じる泰輔。
 吹雪は大きく息を吸い込んで、雄たけびを上げる。

「FRYYYYYYYYY!!!!」
「……ハエやないかい!!」

 そう、フランツが見かけたハエがイレイザーの代わりに転移してしまい、吹雪はハエの力によって人間を辞めた。

「FRYYYYYYYYY!」
「しかもスペル間違っとるで! ハエは『FLY』や!」
「FRYYYYYYYYY!」
「かっこわるいー! 僕もなんか恥ずかしいからやめーや!」

 FRY、FRYと叫んで走り回る吹雪を、泰輔が追いかけまわしている。

「フフフフフ……待っていたぞこの時を……」

 その様子を壁に隠れて見ていたマネキ・ング(まねき・んぐ)
 吹雪を追いかけまわして去っていった泰輔たちを見送ると、残った魔方陣とクマチャンの元にやってくる。
 マネキは猫の手でクマチャンの両頬を挟み、彼の瞳の奥にいるであろうイレイザーの魂に語り掛ける。

「さぁ、お前の還るべき場所は何処か分かるか? この我がお前を本来あるべき姿へと還してやろう……」

 まともそうなことを言っているが、どうせろくなことを考えていないと思っているセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は、先んじて超人ハッチャンへ歩み寄り、

「すまない。決して悪気はない……はずなんだ」

 と、何も始まらないうちに謝罪している。
 超人ハッチャンは頭にクエスチョンを浮かべながら、

「え? いや、クマチャンからイレイザーを取り出してくれるんだよね?」
「ああ、そのはずだ」
「え、『はず』って何? 君のパートナーでしょ? 大丈夫なんだよね?」
「も……もちろんさ」
「ちょっと! 目が泳いでるけど!?」

 と、超人ハッチャンの不安は増していくばかり。

「では始めよう。マイキー」

 マネキはマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)に声をかける。

「ポウッ!イレイザーの開放に必要なのは愛さ! この一点が唯一無二に足りていない条件だよ! ここは、ボクの愛でイレイザーを復活させてみせよう!!」

 マイキーは無駄にその場で回転してからポーズを決めると、シャイニングラブで、異常なまでの自己愛を集めてクマチャンに注ぎ込む。

「ちょ! 何してるの!? あれ大丈夫!? 大丈夫なの!?」

「たぶん……おそらく大丈夫さ」

「冷汗が凄いけど!?」

 超人ハッチャンの不安がピークに達しつつあるが、二人はお構いなしである。

「お前の還る場所、この我が、丹精込めて養殖した1000年に一度生まれるかどうかのこの最高級アワビの中…母の愛の結晶よ!! 再び復活せよ!! 市場(至上)最強のイレイザー! 真・イレイザーあわび!」

 マネキはもはや正気の沙汰とは思えないようなことを口走りながら、かつてイレイザーあわびを食したことがある 超人ハッチャンやマイキーからどさくさに採取した細胞を採取し、それをよく分からないものにしたものをクマチャンにぶち込もうとして、

「FRYYYYYYYYY!」

 そこに吹雪が乱入してきた。
 
 クマチャンにぶち込むはずだったものは吹雪にぶち込まれ――吹雪とアワビが合体してしまう。

 それは、もう……なんとも形容のできない物体だった。

「ぎゃあああああああああああ! 我のアワビにハエがあああああああ!」

「ポウッ! 愛があれば容姿は関係ないさ! さあ、あのアワビを受け入れるんだ」

「ムリだあああぁぁぁぁ!」

 マネキが発狂したような甲高い声を上げる。

 それに対してハッチャンも頭を抱えた。

「ちょっと! 誰かクマチャンをなんとかしようってまともな感性の人はいないの!?」
「ここにいるぞー!」

 ハッチャンが相手の感性を疑わなければいけない精神状態に追い込まれていると、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が名乗りを上げる。

「イレイザーを分離させればいいのだろう? それなら考えがある」

「ど、どうするの?」

「ところてん方式で押し出すのだよ」

 言うなり、リリはイレイザー・スポーンRをクマチャンの口に押し込んだ。

「ムウッゴオオォォォ!?」

 クマチャンから苦悶の声が響き、

「クマチャンンンンンンンン!?」

 ハッチャンも悲鳴を上げた。

 そのうえでルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)がイレイザーを出させようと便乗する。

「イレイザー出ろ〜クマチャンさん元に戻れー!」

 セレスティアは憑き物を落とすような感覚でハリセン型の光条兵器でバシバシとクマチャンを叩いた。

「駄目だよセレスそんなんじゃあ、クマチャンは戻らないよ!」

「おお……ここにきてまともな意見が」

 ルシェイメアの発言にハッチャンは泣きそうになる。

「もっと熱を込めて殴らないと、ほらクマチャンにこれを着けてあげよう」

 そう言ってルシェイメアはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)のお面をクマチャンに着けた。

 ハッチャンの涙が悲しみとなってこぼれた。

「あ、これはいいですね。アキラさんのバカーーー! 少しはえっちな本とかビデオ控えてくださいーーー! 宅配受け取ったり気づいてないふりする身にもなってくださいーーー!」

 セレスティアはもうクマチャンそっちのけでハリセンを振り下ろし、ルシェメイアは光条兵器を借り受けて、

「ワシにも貸してくれ。なんで捨てても捨ててもエロ本が増えとるんじゃーーー我が家の家計が苦しいのわかっとるんかーーー!」

 日頃の不満をクマチャンにぶつけた。

 そして口にはリリのイレイザー・スポーンが突っ込まれっぱなし。

 もう絵面は救出ではなく拷問になっていた。

「何してるの!? みんな揃ってクマチャンに何してるの!? もうこの状況に乗じてふざけてるよね!?」

「失敬な。リリは大真面目だ」

「ワシもだ」

「私もです」

「それはそれで問題あるよ! なんでそんな涼しい顔ができるの!? だいたい、そこから押し込んでイレイザーはどこから出てくるの?」

「上から入れれば下から出てくるに決まってるのだよ」

「え……それって……」

 ハッチャンの中で何度目か分からない嫌な予感が全身を駆け巡ると、

「発射シマース」

 イレイザーの魂が飛び出る。

 ただしイレイザーは尻から出た。

「うわあああああ! 出たあああああ! よかったああぁぁ! 全然よくないけどよかったあぁぁ!」

 ハッチャンは歓喜の声を上げるが、

「このエロ穀潰し!」

「もっとまじめに生きてください!」

 ルシェイメアとセレスティアはすでに目的を見失っているようで、まだクマチャンに暴行を働いていた。

 一方で、イレイザーの魂は新しい器を求めて浮遊し始める。

 それにアワビとハエの怪物となった吹雪とマネキが群がった。

「これがあれば再びアワビが!」

「AWABYYYYYYYYYYYYYY!」

 もはや、双方共に目的がアワビと化しているがそれでも二人はイレイザーの魂を取り合う。

 その争いに乱入者が増える。

 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)だ。

「ついに来たあああああああああああああああ! 我がなんかへんなものの出番がついにきたああああああ!」

 叫びながら、どうやって持ってきたのか、なんかへんなものがありました。すでに動く時点で建造物としての常識を捨てた存在ではあったが、なんかへんなものは吹雪とマネキを押しのけて、イレイザーの魂を迎え入れると――ちゅるん、と飲み込んでしまった。

「完成だ! 名付けて――なんかへんなイレイザー!」

 ひねりもへったくれもない名前を付けられたなんかへんなイレイザーは地鳴りのような雄たけびをあげて応えた。

「イコンが、ダイソウトウが不在な今イレイザーとアナザに対抗できるのはお前しかいない! 行けなんかへんなイレイザー!」

 アキラの叫びに応えるようになんかへんなイレイザーはビシッとポーズを決めると、敵イレイザーに向かっていった。