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魔女の願い

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魔女の願い

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物理ステージ

 物理ステージ。その場で戦う傭兵たちは相手の契約者に度肝を抜かれていた。
「……アホが居る」
 傭兵の一人が思わず呟く。
「アホって何よ! この綺麗な肢体を見て!」
 傭兵のつぶやきにセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は怒る。が、傭兵のつぶやきも仕方ないかもしれない。どこの戦場に水着で駆けまわるものがいるだろうか。
「綺麗かどうかはともかくアホらしいのは確かよセレン」
 セレンと同様の格好をしているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も傭兵の気持ちに同意だ。
「……というか、逆に挑発されてるじゃない」
 もともとセレンが傭兵たちを挑発して行動を乱す予定だったが、傭兵たちの心からのつぶやきにセレンが釣られてしまった。
「こうなったら正々堂々と一気に決めるわよ」
「正直あまりにアホすぎて挑発も何も関係なく相手に動揺が走ってる気がするんだけど……」
 つまりは最初の計画通り。
「さっさと終わらせて温泉はいるんだから!」
 恋人との温泉を思い浮かべながらセレンは傭兵の一人を切り伏せる。
「確かに温泉入りたいわね。平和になった村でゆっくりね」
 セレンを狙って攻撃を仕掛ける傭兵をセレアナは銃で撃ちぬく。
「あれ? 生きてる?」
 手加減なく切り伏せた傭兵に息があることを驚くセレン。
「こっちも生きてるわね。流石にもう戦えないとは思うけど」
 セレアナも自分が撃ちぬいた相手を確認してそう言う。
「ま、死なないなら死なないでいっか。とりあえず縛っておこっと」
 敵は未だいる。恋人と温泉に入るためにセレンはその剣を振るうのだった。



「あっちの人達好きなだけ叩いて良いの!」
 デヘペロジュニアを2体放った及川 翠(おいかわ・みどり)は傭兵たちを指さしてそう言う。
 その言葉に答えるようにデヘペロジュニアは傭兵たちを蹂躙するように踏み潰す。…………そしてその後翠に向かって突進してきた。
「こっちじゃないの! あっちなの!」
 巨体から逃げるようにして物理ステージ内を走り回る翠。
「…………やっぱり翠は当てにしちゃダメね」
 その様子を見ながらミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)はため息をつく。逃げるのをやめて自分が放ったデヘペロジュニアと戦い始めてるから本当にどうしようもない。
「翠ちゃんの援護してきたほうがいいかな?」
 ミリアにそう言うのはサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)
「押しつぶされたカエルみたいになっても困るから頼むわ」
 ミリアにそう言われてサリアは翠の元へ向かう。
「ふぇ〜……ただでさえ物理は苦手なのに戦力が半分になりましたぁ〜」
 スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)はこの状況に涙する。
「…………なんかいつもどおりな気もするけど」
 たまーに役に立つが基本的に翠はあんな感じだ。
「それもそうですねぇ〜」
 スノゥも納得する。
「とりあえず私達だけでやろうか。翠たちもあっち片付いたら手伝ってくれるだろうし」
「はぃ〜」
 気を取り直して傭兵たちと向き合うミリアとスノゥ。
 ミリアはまずナイト黒猫。深夜戦闘型分体を呼び傭兵たちに突撃してもらう。その中に紛れながら自らは百獣拳を使って傭兵たちを攻撃していく。
「流石にやるわね」
 ミリアが狙った傭兵はミリアとほぼ互角の動きでミリアの攻撃をいなし反撃をする。
(魔法戦ならもっとうまくやれるのに)
 ぼやきたくなりながらもミリアは気を抜かず攻撃を続ける。そこにスノゥの魔弾の射手で援護が入り一旦距離を取る。
「突撃なのー!」
 そしてミリアが距離をとってすぐに轢き倒されるさっきまで戦ってた傭兵。傭兵を轢いたデヘペロジュニアの頭部には当然のように翠が乗っていた。
「……なにあれ?」
「激闘の末にデヘペロジュニアちゃんと翠ちゃんの間に友情が芽生えたの」
 ミリアの質問とも言えないつぶやきにサリアは答える。
「………………デヘペロジュニアと同レベルだったのね」
 そういえば何でもかんでも壊すのも似てるなぁと思うミリアだった。



「戦いは得意じゃないのよね……でも、今はそんなこと言っている場合じゃないわ」
 傭兵たちの前に悠然と立つのは喫茶店ネコミナスのマスター奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)だ。
「戦う覚悟はできてるの。…………死すら恐れない覚悟がね」
 自分の実力では繁栄の力と衰退の力で強化された傭兵たちに敵わないことはわかっている。かりに何の策もなしに突っ込めば傭兵たちに殺されてしまう可能性が高いだろう。
(それでも……あの日々を続けるために)
 あの喫茶店で流れる穏やかな日々のために。ここで逃げ出せばそこへ戻れないとわかっているのだ。

(世話が焼けるのであります)
 沙夢が傭兵たちに突っ込む様子をスコープで覗きながら葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は思う。
「ですが、陽動としてはこれ以上ないのであります」
 沙夢のダブルインペイルと野生の蹂躙を駆使した突撃は見事に敵の集中をひきつけている。スナイプするとしたらこのタイミングしかない。
「元傭兵の腕を見せてやるであります」
 沙夢の突撃で出来た避け用のない隙を狙い撃ち傭兵の頭を撃ち抜く。
「One Shot One kill」
 撃破を確認しながら吹雪は次の標的をスコープで覗き込む。
(こちらの存在が気づかれたここからが勝負でありますな)
 沙夢が死なないように援護をしながら、吹雪は傭兵たちの隙を探していくのだった。


「魔法が効かない物理のフィールド……久しぶりに武道家っぽい事出来るかな?」
 武道家のような構えをしながら雲入 弥狐(くもいり・みこ)はそう言う。
「これがあたしのやり方だーっ!」
 神速と残心、超感覚と肉体の完成……そして武医同術。それら全てを発揮させ弥狐は傭兵たちに突撃する。
「わわっ、強いッ!」
 弥狐の動きについてくる傭兵に驚きながらも弥狐は攻撃を続ける。
(うーん……何とか負けないで済んでるけど決定打にかけるというか……。? この音は……)
 超感覚を持つ弥狐だから気づけた弾丸の音。いづこからか飛んできた弾丸は弥狐と戦っていた傭兵を戦えなくする。
「誰かの援護かな? これならたくさん暴れられるね!」
 弥狐だって沙夢と同じだ。守りたい日常のため、ここで戦っているのだった。


「さてと……移動しないといけないわね」
 弥狐が戦っていた傭兵を撃ちぬいたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はすぐにベルフラマントと光学迷彩で気配と姿を消して射撃ポイントを移動する。弥狐の攻撃は沙夢と比べて動きがきれいなため、傭兵たちとしても想像がしやすい。同じ位置からの射撃では致命打には出来ないだろうとローザマリアは予想していた。
(あの子が戦ってる相手を中心に狙いを定めて……)
 射撃ポイントを移動したローザマリアはすぐに狙撃する相手を選定する。
(殺さない程度に撃ちぬく!)
 ローザマリアのスナイパーとしての腕前は一級品だ。先程と同様に弥狐が戦っていた傭兵はその戦闘を続けられなくなるのだった。