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賑やかな秋の祭り

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賑やかな秋の祭り
賑やかな秋の祭り 賑やかな秋の祭り

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 朝。
「……まだ合流予定時間まで時間がありますね。折角ですから少し見て回りましょうか」
 御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は時間を確認し、誘った御神楽夫妻が来るまでに時間があることを知るなり、ゆっくりと秋の葉が舞い降る中を歩き始めた。

「……なかなか素敵な趣向のお祭りですね。きっと陽太様と環菜様も楽しんでくれるはずです」
 顔見知りの双子主催の祭りに舞花は御神楽夫妻が楽しむ姿を想像し、口元を緩めた。
 その時、
「あれは……オリヴィエさん。このお祭りを楽しみに……それとも何か調薬探求会の方で問題でも……とりあえず、声をかけてから」
 前方にぶらつくオリヴィエの姿を発見した。彼女や彼女が所属する団体を知る舞花は何か悪い事でもあったのではと考えてしまう。

 オリヴィエに接近した後。
「オリヴィエさん」
 舞花は親しげに声をかけた。
「あら、あなたもこのお祭りに参加していたの?」
 気付いたオリヴィエは振り向き、笑顔で顔馴染みの舞花を迎えた。
「えぇ、そうです。“も”、という事は何も悪い事は起こっていないのですね」
「起きていないわ。みんな調薬やらで忙しくて見学しているのも邪魔になりそうだったし素材回収も無くて丁度お祭りの話を聞いたから来てみたの」
 聡い舞花がオリヴィエの台詞から自分が想像した事が起きていない事を知り安堵すると同時にオリヴィエが話す事情も聞いた。
「それなら良かったです。あの、先日いただいたとっておきのレシピのケーキ、とても美味しかったです。あれから調薬探求会の方はどうですか?」
 舞花は先日の事を思い出し礼を言ってから当たり障りのない事を訊ねた。
「それは良かったわ。みんなはいつも通り変わらずよ」
 オリヴィエはにこにこと柔和に微笑んだ。
 この後、舞花とオリヴィエは他愛の無い世間話をしてから別れた。

 オリヴィエとの世間話を終えた後。
「まだ時間もありますし、もう少しだけ見て回りましょうか」
 舞花は再び一人で歩き始めた。
 しかし、その足はしばらくして止まった。
 なぜなら
「……あれは」
 合流予定場所に到着していないはずの御神楽夫妻がいたからだ。
 しかし、
「……平行世界のお二人ですね。どうしてここに」
舞花は『エセンシャルリーディング』と『野生の勘』ですぐに平行世界の御神楽夫妻だと気付き
「……時間はまだ少し早いですし声をかけて案内をしておもてなしをしましょう」
 舞花は平行世界でありながら顔見知りのため躊躇わず二人に元に向かった。

「お久しぶりです。平行世界の陽太様、環菜様」
 舞花は笑顔と親しげな調子で二人に声をかけた。
 途端
「……舞花」
「顔見知りに出会えて良かったわ。以前も来た事あるけどやっぱり異世界だから」
 平行世界の御神楽夫妻は現れた舞花にほっと表情を安堵に変えた。
「どうしてこちらに?」
 舞花は予想外の再開について改め訊ねた。
「二人で散策中にいきなりこちらの世界でお祭りがあるからと招待を受けて気付いたらここにいて今驚いていた所ですよ」
「主催者が舞花を驚かせたいためとか聞いたわ」
 平行世界の御神楽夫妻はこちらに来た状況とロズに伝えられた事を簡単に話した。来たのは良いが異世界でどうしようと戸惑っていたのだ。
「……そうですか(まさかこんなサプライズを受けると思いませんでしたが、悪くありませんね)」
 ようやく舞花は納得出来た。内心双子のサプライズに感謝していたり。
 そして
「よろしければ、お祭りを案内しますよ。実は少ししたらこちらの陽太様と環菜様が来られるので是非会ってくれませんか?」
 舞花はすかさず平行世界の御神楽夫妻をおもてなし。
「それはもちろんですよ」
「えぇ、是非」
 平行世界の御神楽夫妻は即答した
「ありがとうございます(きっと陽太様達、驚きますね)」
 舞花は二人に礼を言いながら胸中でこちらの御神楽夫妻にとっても今日は良い日になりそうだと笑みを洩らしていた。
「……そう言えば……」
 舞花はふと環菜のお腹が以前と違って小さくなっている事に気付いた。
 舞花の視線に気付いた環菜は
「無事に生まれたわ。今は家で留守番しているの。ノーンやエリシア達が面倒を見てくれてるわ。詳しい話はこっちの私達に会ってからでいいかしら」
 微笑みながら出産報告。話したのは全てではなかく含みがあった。
「はい」
 きっと素敵な事なのだろうと予想する舞花は思わず顔を僅かに綻ばせた。
 この後、舞花は平行世界の御神楽夫妻を案内し、時間が迫り待ち合わせ場所に戻りこちらの御神楽夫妻がやって来た。

 予定の時間。
「舞花ったらはやいわね……陽太、あれ……」
「俺達ですね。という事はもしかして……」
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は生後8か月くらいの愛娘陽菜をベビーカーで連れて現れるなり映像でしか見た事のない平行世界の御神楽夫妻の姿にびっくり。服装が違うので見分けは付くが。

 両世界の御神楽夫妻の対面。
「……舞花、もしかしてそこにいるのは平行世界の俺達ですか」
「驚いたわ。前に見せて貰った映像そのままじゃない」
 御神楽夫妻は改めて目の前に立つ平行世界の自分達に驚き、一切目が離せないでいた。
「そうです。平行世界のお二人です。このお祭りの主催者が私達を驚かせようと招待したようです」
 舞花は二人の驚きようにクスリとしながら事情を話した。
「サプライズは大成功ですね」
「……初めてだけど挨拶は要らないわよね」
 陽太はにっこり笑い、環菜はまじまじと平行世界の自分を見て悪戯な笑みを浮かべた。初対面だけど初対面ではない。
「そうですね。同じ自分ですから」
「こちらの舞花から話は聞いたけれど会うのは初めてよね。会えて嬉しいわ」
 平行世界の御神楽夫妻も不思議そうにしていた。聞いて見るのとは違う。
「もしかしてこの子が陽菜ちゃんですか」
「舞花から話は聞いているわ。私達の子よりも大きいわね」
 平行世界の御神楽夫妻はベビーカーの小さな女の子に気付き表情がほっこりと優しくなった。
「そう言えば二人にも子供が生まれるとか舞花から聞きましたが」
 陽太は聞いた話を思い出し、環菜の腹部に視線がいった。
「えぇ、生後約2か月……つい最近生まれて今は留守番中です。ノーン達が面倒を見てくれていて今日は環菜と散策していたです」
「そしたらこっちに来たのよ」
 平行世界の御神楽夫妻が簡単に出産報告とこちらに来た経緯を明かした。御神楽夫妻の子供はこちらでは2月1日に生まれ平行世界では8月1日に生まれ、こちらの御神楽夫妻の方が少し先輩だ。
「よろしかったら近くのお店でゆっくりと雑談をしませんか」
 立ち話にしては長くなりそうな予感に舞花が二組の夫婦の間に入った。
 これによって話の場は出張猫カフェとなった。

 出張猫カフェ。

「まずは前回の激励メッセージをありがとうございました。とても励まされました」
「……少し不思議な感じだったけど」
 御神楽夫妻は雑談を再開する前に前回舞花が頼んで平行世界の御神楽夫妻から貰ったメッセージの礼を伝えた。
「いえ、あの時は舞花から色々と君達の話を聞けて良かったです。こちらこそ感謝です」
「あの時はまだ子供もお腹にいて……子育ての様子を知る事が出来て励まされたわ。何よりこの子が生まれたらこんな感じなのかなとか想像出来て楽しかったわ」
 空京のホラーハウスでの出来事を思い出しながら平行世界の御神楽夫妻は話した。
 ここで
「しかし、自分と話す機会があるなんて……不思議な気分です!」
 陽太は改めて自分の向かいに座る自分を見て湧き上がる不思議な気分に声を上げた。
「それは俺もです。聞くと見るとでは違いますね。鏡の前にいるようです」
 平行世界陽太も同じく不思議な気分になっていた。

「……(そう言えばまだ何も注文していませんでしたね。適当に何か注文しておきましょうか)」
 舞花はこっそり気を利かせて両世界の御神楽夫妻とついでに自分のためのハーブティーを注文した。
 しかも
「……(注文した事は黙っておきましょう)」
 舞花は驚かせようと注文した事を黙っていた。

 何も知らぬ二組は話し続ける。
「そう言えば、子供が生まれたと言っていましたが、どんな名前なんですか?」
「女の子? 男の子?」
 御神楽夫妻は出産の事だけで肝心な事を聞いていない事に気付いた。
「女の子よ」
 環菜は笑みながら性別を伝え
「名前は陽菜(ひな)と言います」
 陽太が子供の名前を伝えた。
 途端
「陽菜というと……」
「もしかして……」
 御神楽夫妻はベビーカーに乗った猫と戯れる我が子に目を向けた。
「その通りです。以前こちらの世界の空京で過ごした時に舞花達から聞いて気に入ったので環菜と相談して同じ名前を付ける事にしたんです」
 平行世界陽太は口元に笑みを浮かべながら両世界交流ならではの理由を述べた。
「さすが私ね。とても可愛い名前を付けるなんて……しかも私と陽太の名前の一文字が入ってる。さすがだわ」
 平行世界環菜は素敵な名前を付けたこちらの環菜を誇らしげに見た。
「……自分に褒められるのは不思議な気分だわ」
 環菜は複雑な表情をしていた。
 その時、舞花が注文した料理が運ばれた。
 その料理を見た途端
「ちょっとこれ、何なの!?」
「頼んでなんかいないわよ」
 二人の環菜は驚きと恥ずかしさで声を上げた。
 何せ
「……どうみてもカップル専用のケーキですね」
「モンブランとは秋の味覚ですか」
 二人の陽太の言葉通りカップル限定のケーキだったからだ。
「はい。注文しておきました。折角のお祭りなので少しでも楽しんで頂ければと」
 舞花はそう言うなりハーブティーを飲んで一息入れた。
「……もう、舞花ったら」
「気を利かせなくとも……」
 二人の環菜は舞花をねめ付ける。
「美味しそうですよ、環菜」
 陽太がモンブランケーキを一口すくい、環菜の前に持っていく。明らかに食べ合いの体勢である。
「……やらないわよ。こんな自分が見ている前で」
 恥ずかしさでプイとそっぽを向く環菜。赤の他人に見られるよりも自分達に見られる事はかなり恥ずかしいようである。
「やっぱり環菜は可愛いですねぇ」
 陽太はデレデレと奥さんの照れた様子を舐め見る。
「陽太、真似なんかしないのよ」
 平行世界環菜は先制攻撃を旦那にかました。
「……分かりました。少し残念です。俺も環菜がどれだけ可愛いのか見せたかったのに」
 平行世界陽太はこちらの陽太に習って食べ合いをしようと思ってすくったケーキを残念そうに食べた。残念そうにしながらもしっかりと惚気る。
「そんな理由で恥ずかしい思いなんかしたくないわ……そんな事よりももう少し有意義に過ごしましょうよ」
 すでに照れている平行世界環菜は口速にまくし立て何とか話題を変えようとする。
「……では子育ての先輩として何か教えてくれたらありがたいです」
 平行世界陽太が先輩に訊ねた。
「教えるというと何よりこれですね、護影の術」
 陽太は真っ先に会得している『護影の術』について話し始めた。
「護影の術?」
 まだ会得していない平行世界陽太は聞き返した。
「そうです。自分の影を分化して護衛対象の影と同化させる忍術です。護衛対象が危機に陥った際には、影が番犬のごとく護衛対象をガードしますし、何より非契約者の地球人の影と同化した場合にその地球人は契約者扱いでパラミタから認識されるので結界装置無しでもパラミタで行動できるようになります。良ければ会得方法のデータを転送しますよ?」
 長々と説明した後、陽太は籠手型HC弐式を見せた。
「それは便利ですね。是非転送をお願いします」
 平行世界陽太は迷う事無く籠手型HC弐式を出した。
 そしてデータは無事に平行世界の陽太に届けられた。

「他には何かある?」
 平行世界環菜が先輩ママさんに訊ねた。
「そうねぇ……」
 環菜は我が子に優しい眼差しを向けながら子育ての苦労エピソードや気を付けた方がいい点や感動した事を話した。
「ありがとう。助かるわ」
 平行世界環菜は先輩の話をしっかりと記憶に刻み、役に立たせようと誓った。
 先輩の役目を終わると
「何にせよ、大変よね。でも一日、一日成長するこの子と一緒にいると今まで気にも留めなかった事が見えて来て新しい発見が出来るし何より……」
 環菜はちらりと夫を見た。ほんの少しはにかみながら。
 それを見た陽太は妻が何を言いたいのか読み取った。なぜなら自分も同じだから。
「環菜と俺との子供だと思うとそれだけで幸せな気分になって」
 陽太はちらりと我が子とそして妻を見る。どんな些細な出来事も家族がいれば何でも素敵な出来事になる。今日もそうだ。
 その気持ちは
「それは俺達も同じです。ですよね、環菜」
「えぇ」
 平行世界御神楽夫妻も同じであった。

 一方、幸せな二組の夫婦を見る舞花は
「……見ているだけで幸せですね」
 そう言いながら陽菜の頭を撫でて微笑んだ。御神楽夫妻の宝物に向かって。
 この後ものんびりと祭りを楽しんだ。