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そして、蒼空のフロンティアへ

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そして、蒼空のフロンティアへ
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    ★    ★    ★

 空京新幹線。
 軌道エレベーター天沼矛が完成して以来、物資輸送の主力はそちらへと移りましたが、人の移動は未だこちらが主力でした。
今日も、様々な理由で地球へとむかう人々が、列車へと乗り込んでいきます。
「ああ、ここです、ここです」
 切符に印刷された番号と座席の番号を照らし合わせて、風森 巽(かぜもり・たつみ)が、婚約者のココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)を呼びました。
 さすがに、今日はいつものゴスロリ衣装ではなく、髪を下ろしてすっきりとしたワンピース姿です。ちょっと惚れ直しながら、風森巽が窓際の席にココ・カンパーニュを座らせました。自分は、三人がけの真ん中の席に座ります。
 それにしても、混んでいるのでしょうか。本当は二人がけの方がよかったのですが。
「よいしょっと」
 買ってきたお弁当や飲み物を窓際のテーブルに載せると、やっと風森巽が一息つきました。
 なにしろ、これから大仕事が待っているのです。
 まず、最初は北海道にある風森巽の実家に行って、ココ・カンパーニュを両親や親類に紹介しなければなりません。まあ、これはなんとかなるでしょう。問題は……。
「フランスの御両親に御挨拶するときは、やっぱりフランス語なんですよねえ……」
 はあと、ちょっと溜め息まじりに風森巽が言いました。
「えっと、こんな感じですか。ソワイオン ウルー アンサンブル。(一緒に幸せになろう)シー プレガ デー スポザールミ(僕と結婚してください)」
 一所懸命暗記したプロポーズの言葉を、風森巽がココ・カンパーニュに披露しました。発音からしてすでに危なっかしいですが、まあ、つけ焼き刃の丸暗記ですから仕方がありません。
「へっ? ジュ ヌ コンプラン パ(分かりません)」
「うお、すでに分からない!!」
 ココ・カンパーニュの返事に、風森巽が頭をかかえました。すでに詰んでいるような気もします。
「あんたの言ってることが理解できないと言ってるのよ」
 突然、前の席がパタンと倒れて対面座席に変わりました。そこに座っていた者たちが、バタバタと風森巽たちの前に座り直します。
「ティア、なんでここに!」
「シェリルも、なんでいるのよ。アラザルクまで!」
 突然現れたティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)アラザルク・ミトゥナを見て、風森巽とココ・カンパーニュが絶句しました。
「そんなことより。こんなていたらくで、ちゃんと御挨拶できるとでも思っているの!」
 ティア・ユースティが風森巽を叱責しました。
「ええと、じゃ、じゅじゅじゅぶぶぶぶぶ……」
「ジュ ヴ ドゥマンド ラ マイン ドゥ ヴォートル フィーユ(お嬢さんの手を取らせてください)。このくらい言いなさいよね。やっぱり、ボクがついてかないと心配だよね」
「いや、いらんだろが!」
 得意満面のティア・ユースティに、風森巽が言い返しました。
「アンサンブル ヌ ザロン エートル ウルー(一緒に幸せになろうね)」
 そう言って、ココ・カンパーニュが風森巽の肩に頭を載せました。おかげで、すぐに風森巽がクールダウン――というか、赤くなって静かになります。正面に座る三人の、ニコニコとした笑顔が、暖かくも痛いです。
「でも、あたしの方は、大丈夫かなあ」
 ちょっと心配そうに、ココ・カンパーニュが言いました。
「大丈夫、大丈夫。タツミの家族だもの。ボクも、たまにはタツミのお爺ちゃんたちに会いたいと思ってやってきたんだから。それに、何より面白そうだしー」
「いらん!」
 ティア・ユースティに、きっぱりと風森巽が言い返しました。
「それで、なんでシェリルたちまでいるのよ」
 聞いてないと、ココ・カンパーニュがアルディミアク・ミトゥナたちに訊ねました。
「こちらも、ちゃんとアルカヤ夫妻に御挨拶をしないといけないと思ってね」
 アラザルク・ミトゥナが答えました。
 そういえば、アラザルク・ミトゥナは、アルディミアク・ミトゥナの育ての親、つまり、ココ・カンパーニュの育ての親にはまだ会ったことがありません。
「ちょうどいい機会だと思ってね」
 あっさりと、アラザルク・ミトゥナが言いました。
「そういえば、言ってなかったんだけどさあ……」
 ちょっと言いづらそうに、ココ・カンパーニュが風森巽に切り出しました。
 もともと、ココ・カンパーニュの両親は早いうちに亡くなっており、親戚のアルカヤ夫妻が親代わりとなっていました。
 アルカヤ夫妻は優しかったのですが、幼いココ・カンパーニュは、周囲になじめずにいました。契約者として覚醒してからは、力をコントロールできずにさらに周囲と反発していくことになります。シェリル・アルカヤと名づけたアルディミアク・ミトゥナと共に暮らすようになってからは、ある程度は収まったようにも思えましたが、時代は静観してはくれなかったのです。
 時代的にも、異能を持った契約者を他の者たちから隔離する動きがあり、ちょうど作られたパラミタの学校に続々と送り込まれていたころのことです。ココ・カンパーニュも例外ではありませんでした。コントラクターであることを隠していたアルディミアク・ミトゥナを地球に残すために、ココ・カンパーニュは進んでパラミタに単独で渡ったのでした。
 そして、そんなココ・カンパーニュの後を追って、アルディミアク・ミトゥナがパラミタにやってきたわけです。
 それ以来、二人はアルカヤ夫妻とは会っていません。
「だから、どうなるかは……」
「分かりました。ちゃんと、その御夫妻に説明をすればいいのですね。任せてください。我は、そのために一緒に行くのですから。あっ、でも、通訳はお願いしますね」
 風森巽は、そう自信を持ってココ・カンパーニュに言いました。
 ――前略、天国のねーさん、地球の蒼空の下もまだまだ賑やかなことになりそうです。たくさんのありがとうと、二人きりじゃない残念を胸に秘めつつ……。
「まずは、北海道! いっくぞー! 蒼い空からやってきて、仲間の未来を護る者……!」
「もうすぐ発車ですから、ちゃんと座っていてください」
 元気に立ちあがって雄叫びをあげかけたところで、風森巽は車掌さんに怒られました。