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里に帰らせていただきますっ! ~ 地球に帰らせていただきますっ!特別編 ~

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 ■ 



 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)の故郷は、島根県東部にある。
 パラミタでの生活が楽しいのと、空京から上野、そこから島根への旅程は気軽に帰るにはちょっと距離があるのとで、ついつい帰省が疎かになってしまっていたけれど、今年こそは家族に顔を見せようと、佳奈子はエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)を伴って実家に帰ってきた。


「前に来たときも思ったけど、佳奈子の故郷って本当に田舎よね」
 エレノアはパラミタに佳奈子を誘うとき一度ここに来ている。けれどあの時は、契約のことで頭がいっぱいだったから、ゆっくりと周囲を観察している余裕はなかった。
「でもいい所でしょ? 出雲国って言えば日本の人には分かるくらいの所だし、松江の街並みや宍道湖に沈む夕日、出雲大社の初詣、とかを見に来る観光客も多いのよ」
 地元を説明する佳奈子の表情は誇らしげで、この土地が大好きなのだというのが伝わってくる。
「そうね。海も山も自然もあるし、歴史的な建物も多いし、確か宗教的なメッカでもあるのよね?」
「うん。それに島根は『合唱大国』とも呼ばれてるよ。小中高の生徒が全国コンクールで上位入賞することも多いし。私も地元の中学校の合唱部で頑張って歌ってたわ」
 そうして合唱を頑張っていたからこそ、エレノアと縁が出来、契約をすることになったのだ。
 もしこの土地に生まれていなかったら、もし合唱部に入っていなかったら。
 佳奈子の生活は、今と全く違ったものになっていたことだろう。
 そう思うと、一層佳奈子はこの土地が掛け替えのない大切なものに感じられてくるのだった。


 佳奈子の実家は、出雲大社の門前町にあった。
 といっても、大社に関係ある仕事をしている等ではなく、普通の家だ。
 帰ったその日はエレノアと一緒に実家に泊まり、海で獲れた新鮮な魚や、母の手料理を味わって過ごした。

 翌日はせっかくだからと佳奈子はエレノアに、地元を案内して回った。
「学校は覚えてるよね? エレノアがいきなり乗り込んで来たときには、ほんとに驚いたよ〜」
「もちろん覚えてるわ。あの時は佳奈子を見付けないと、って一生懸命だったんだもの」
 2人の思い出の場所である学校を眺めたり、佳奈子のお気に入りの店を紹介したりしながら街を歩いていると、どうも周囲からの視線が気になった。
 大人はちらりと視線を向けてくるだけだが、子供はもっと無遠慮に眺めてくる。それだけでなくこちらを指さす子もあった。
「お母さん、見てー。あの人、羽がある! きれいー」
 パラミタの存在は地球では当たり前になってきてはいるけれど、実際に地球人とは違う外見の種族を見かけることは、やはり珍しい。
 金髪のロングヘアにヴァルキリーの翼が生えているエレノアは、どうしても人目を引く。
「なんかごめんね……観光地だから外国人とかもたくさん来てるんだけど、やっぱり田舎だからかな」
「気にしてないからいいわよ。地球人は人種の違いはあっても種族の違いがないから、こういうの珍しいのよね、きっと」
 物珍しそうではあっても、不快な視線ではないからとエレノアは笑った。

 近所をぐるっと巡った後は、やはりここは外せないからと出雲大社へと向かった。
「日本の神様は10月になったらここに集まってくるのよね?」
「そうだよ。だから出雲の陰暦の10月は神無月じゃなくて神在月って言うの」
「有名な観光地みたいだけど、ホントに観光客も多いのね」
「うん。大社様は縁結びの神様でも有名だから、若い女性や学生もたくさん来るよ」
 全国の神々は出雲大社に集合し、これから一年間の幽事を相談するのだという。幽事というところから、男女の縁結びはもちろん、人世上の諸般のできごとまで、すべてこのときの相談によって決められるということで、縁結びの御利益があるとされているのだ。
「あれが本殿?」
 ひときわ目立つ大注連縄のある社を見付けたエレノアが聞くと、佳奈子は違うよと首を振った。
「あれは神楽殿。あの大注連縄にお賽銭を投げて落ちてこなかったら、願いが成就するって俗説があるんだよ。神職さんは注連縄が傷むし参拝客の上に落ちてくるからやめて欲しいって言ってたけど、やる人が後を絶たないんだよね。で、とうとうネットを張られちゃったの」
「あれだけ大きいと御利益ありそうに思えるものね」
 面白がって運試しをする人が後を絶たないのも無理はない、とエレノアは注連縄を眺めた。
「注連縄には刺せないようになっちゃったけど、普通に参拝することは出来るよ。エレノアもお祈りしてみたら? ひょっとしたらカッコいい彼氏が出来るかもしれないよ?」
 そんな話をしながら、せっかくだからと神楽殿に参拝しようとそちらに向かった時。
「ん……?」
 翼を引っ張られて、エレノアは振り返った。
「お姉ちゃん、天使さま?」
 涙目で見上げているのは、小さな女の子だった。
「天使ではないけど、どうかしたの?」
「パパとママ……いない……の」
 ぐすっと女の子はすすりあげる。
「エレノア、その子、迷子になっちゃったのかな?」
「そうみたいね。観光に来てはぐれてしまったのね。佳奈子、この子の両親を捜して回るわよ」
「分かった。……大丈夫だよ。お姉さんたちが探してあげるから、任せて」
 佳奈子は女の子を安心させるように話しかけた。
 今にもこぼれそうに涙をためて、女の子はこっくりと頷く。
「お名前は言えるかな?」
「りほ……」
「りほちゃんね。私は佳奈子、そっちのお姉さんはエレノアだよ。よろしくね。りほちゃんのパパとママは、どんな人なのかな? 服の色とか覚えてる?」
 佳奈子は女の子から、名前や両親の特徴を聞き出した。女の子は小さくて、あまりはっきりした特徴を言うことは出来なかったけれど、白い服を着た父親と、髪を後ろで1つに縛った母親との3人でここに来たらしい、ということは分かった。
「きっとりほちゃんのご両親も、この界隈で探してるはず。声掛けして回れば、気付いてくれるよ」
 小さな女の子だから、はぐれてからそんなに距離は移動していないだろう。両親も同様の考えで探すだろうから、佳奈子はこの場所から離れすぎないように気をつけながら、付近を回ることにした。
「迷子のりほちゃんの、お父さんとお母さんを捜してますー! 誰か心当たりのある人はいませんかー?」
 佳奈子の呼びかけに、参道を歩く人が振り返って見る。
 エレノアは聞き出した特徴から、女の子の父母らしき人に片っ端から声を掛けていった。
 人出が多い為に捜索はなかなか大変だったけれど、やがてエレノアは人混みの中で、きょろきょろと周囲をしきりに見回している白い服の男性と、髪を1つ結びにした女性の姿を発見した。
 もしやと思い、人波を渡って近づき、声をかけてみる。
「お子さんをさがしてるのかしら?」
「ええ。ちょっと目を離した隙にはぐれてしまったらしくて……」
 女性は青い顔で忙しく周囲に目を走らせている。
「もしかしてその子の名前はりほちゃんだったりする?」
「そうです! ご存知なんですか?」
 女性の反応に、これは間違いないだろうとエレノアは手を振って佳奈子を呼んだ。
「見つかった?」
「多分そうだと思うけど……」
 女の子の様子は、と見れば、佳奈子に連れられてやってきた女の子は、エレノアと一緒にいる男女を見るとぱっと駆け出した。
「パパ、ママ!」
「もう、この子は……ちゃんとついて来なさいって言ったでしょう?」
「ごめんなさい……」
 母親に女の子が注意されている間に、父親の方が頭を下げる。
「りほを連れてきてくれてありがとう。初めて来たところだから迷子をどこで預かってくれるのかもよく分からなくて、どうしようかと思ってたところでした」
「お姉ちゃん、天使さま、ありがとう!」
 さっきまで半泣きだった女の子は、思いっきりの笑顔で2人に礼を言った。
「もうはぐれないように気をつけてね」
 エレノアに言われ、女の子は恥ずかしそうに頷いた。

「良かったね、見つかって」
 両親に手を繋がれて歩いていく女の子を見送って、佳奈子は胸をなで下ろした。
 少し時間を取られてしまったけれど、あんな笑顔を見せてくれるなら捜した甲斐もあったというものだ。
「後回しになっちゃったけど、お参りに行こっか」
「そうね、行きましょう」
 何をお参りしようかとお喋りしつつ、佳奈子とエレノアは神楽殿へと向かうのだった。



担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございました&体調をがったがたに崩してしまい、リアクションのお届けが大幅に遅れてしまったことをお詫び致します。

目次からリンクが張られている(はず)なので、ご自分のところ、お知り合いのところ等、興味の赴くままにご覧下さいませ。
スペシャルのほうはNPC同行のものを別に分けて目次を作成したのですが、こちらの方はNPC同行が多かった為に、そのままID順に並べてあります。

親戚はすべて県内で、且つ同じ県内でしか生活したことがないという私にとっては、里帰りという響きは憧れです。
楽しい里帰り、せつない里帰り、嬉し恥ずかし里帰り、などなど、今回も皆様の様々な里帰りを書くことによって、里帰り気分を充分に味わわせていただきました。
この里帰りシナリオが、皆様のキャラクターのイメージ作り、あるいは普段は同行しにくい公式NPCとの交流等に役立てば、とても嬉しく思います。

では……遅延のほど、申し訳ありませんでした。

※11月7日……名前表記ミスを訂正しました。