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白百合革命(第2回/全4回)

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白百合革命(第2回/全4回)

リアクション


『5.検査の結果』

「脳神経外科の先生にも見てもらったんだけど……ちょっと気がかりなことがあるの」
 ローズが付き添っていたレキ、美羽、呼雪を診察室へと呼んだ。
 CTやレントゲン撮影による写真が、ツァンダの医者により画面に映し出されていく。
「ここなんだけれど……」
 ローズが画面の一部を指差した。
 脳の写真だった。
「影がある?」
「素人でもわかるね」
 美羽とレキが言い、呼雪が頷く。
 脳の一部に黒くて大きな影があった。
「これが記憶喪失の原因なのか……違うのかは分からないけれど」
「ダークレッドホールに突入する前には、なかったはず。誰かに脳の手術とかされちゃったの?」
 美羽が心配そうな目でローズに問いかけた。
「わからない。でも、外部から何かを入れられたのなら……」
「手術痕があるかもしれない」
 急ぎ、呼雪はゼスタの元に戻った。
「すまない。手荒なことはしない」
 そして、彼の後ろに回り込んで髪に指を指しこんで探した。
「髪の毛、結んであげるね」
「団長、白百合団の作戦の時よくポニーテールにしてたよね」
 美羽とレキも瑠奈の髪の毛を結ってあげながら頭を見ていく。

 2人の頭には、手術痕のような跡があった。
 ただ、その不自然さに皆、考え込む。
 付近の髪の毛は普通に生えそろっているのだ。
 2人が行方不明になってまだ2か月もたっていないのに。
「本物、じゃないかもしれない」
 レキは不安を抱えながら、これまでのことを白百合団へ報告する。
「……え? こちらは何も変化ないです」
 そして電話を切った後、ローズと美羽、呼雪に団から聞いたことを話す。
「神楽崎先輩とアレナさんが回復したみたい。また一時的なものだろうけれど……」
 その話を聞き、一同はここにいる彼がゼスタ本人ではないことを確信した。


『6.また1人』

 ツァンダの病院に訪れた契約者達が、記憶喪失者に気をとられていた時――。
「……やっぱり行かれるんですの?」
 凛は病院の廊下で少女を待ち伏せしていた。
「帰る……」
 少女はどことなく虚ろな目で凛を見たが、そのまま彼女の横を通り過ぎ、外へ向かおうとしていた。
「行くというのなら、どうか私もお供させて下さい。
 私、戦うのは得意ではありませんけれど……それでも、自分の身を守ることはできます。きっと何かでお役に立つことが出来るはずですわ」
「……乗り物」
「乗り物ですか? 空飛ぶ箒なら持っています」
 凛がそう言うと、少女は凛の腕をとった。
「一緒に、行く」
 そして、2人はツァンダの病院を抜け出して、ダークレッドホールへと向かった。
 この時間、ダークレッドホールで対処に当たっていた者は殆どおらず、少女が望むままに。
 凛は少女を守ろうと抱きしめながら、ダークレッドホールへと突入した。

 激しい力の渦の衝撃で、体が引き裂かれるような感覚を受けた。
 目も開けてはおられず、声も出せず。
 飛びそうになる意識を保ち、苦しみに耐て耐えて耐えて……。
 自分の状況がわからないまま、凛の身体は大地に打ち付けられた。
「……はあ……はあ……」
 赤い空間だった。空が赤いわけではなく、夕焼けに染まった街のような赤さだ。
 凛は倒れたまま、身体を動かす事も出来ない。
 熱と強い圧力を感じる。凄まじい魔力が渦巻く世界だった。
「生存者、ホカク」
 少女の声が凛の耳に届いた。
 そして、彼女が体内から光条兵器のようなものを取り出す姿が見えて――。
 少女の剣が凛に打ち下ろされ、凛の意識は完全に消し飛んだ。

○     ○     ○


「百合園女学院の教師の方ですね!?」
 ヴァーナー達の見舞いと確認を終えた祥子の元に、看護士が駆けてきた。
「はい、そうですが……何かありましたか?」
「小島で保護された女の子が見当たらないのです。百合園女学院の女の子と一緒にいる姿を見かけた人がいるそうですが、ご存じないですか?」
「え? わかりました。私も探してみます」
 祥子は看護士と一緒に、院内を探してみたが……彼女は見つからなかった。
 見舞いに訪れていた人物を確認し、連絡を取ろうと試みるが繋がらない。
「あの子……帰るって行ってたのよね」
 まさかと思い、ダークレッドホールの調査に当たっている白百合団員に連絡をとって数分後。
 祥子の携帯に悪い知らせが届く。
 空飛ぶ箒に乗った女の子2人が、ダークレッドホールの方に飛んでいった――という知らせだ。
 その後、2人の姿を見かけた者はいない。
「なんてこと……」
 祥子はすぐに白百合団、副団長のティリアにテレパシーで報告をした。
 それから、ゼスタや瑠奈、ヴァーナーとマリカについての話も。
(神楽崎先輩が回復されたそうなんです。でも、レイラン先生には特に変化はないようで……そこにいるレイラン先生は、本物のレイラン先生ではないのではないかという意見が出ています)
(そうね。そうかもしれない……。実力者がこんな状態になるのは尋常じゃないもの)
 そして、祥子はティリアに提案をする。
(この近辺に人が集まりすぎだし、一旦、白百合団を学院に戻さない?)
 凛が自分の意思で向かったのか、少女に操られて向かったのかは分からない。
(そもそも最初に中に入ったのはあのアルコリアと小夜子よ。心配なのは心配だけどあの二人がだめなら並の契約者じゃ明確な対処法がないとどうにもできないわ)
 でもこのままでは、ここに残っている者、避難を呼びかけている者全てが、あの赤黒い渦の中に消えてしまうのではないかと、危惧していた。
(帰還方法も対処法もわからないんじゃ、固執する分人的リソースを殺してしまうことになるわ。今は、人を散らさないで団員を集結させてもいいんじゃない?)
 祥子は焦りを感じながら、テレパシーでティリアに訴える。
(分かりました。白百合団員に帰還命令を出します。病院にいる方々には、先生からすぐに戻るようにお伝えください。協力者の方も一緒に)
(わかったわ。ありがとう)
 ほっと息をついて、祥子はテレパシーを終わらせた。

 そして、祥子が病院に残っていた者と、病院を発って少しした後。
 爆発が、起きた。


『7.策略』

(個人的な願いを抜きにしてもヴァイシャリーや百合園女学院は、元来シャンバラに貢献する為に、ラズィーヤの意向による教育が施されてきた筈)
 官僚の育成が施されてきたはず。はず……はずだけれど、何故か武術面で名を上げる者が多い。何故か前線に立っている者が多い。
 狙う場所の理屈が合わない。とは思いつつも、ラズィーヤの狙い通りに百合園が運営されていないからか。百合園の在り方に不満を持つ者が多くなってきたのか……持たせるためなのか。
 崩城亜璃珠は頭を悩ませながら歩いていた。
(正しく血筋を持った彼らに秘密裏に工作を行う必要性が見えない。
 だから我々のような替え玉が寄越される……正しい統治を行いたいなら、とるべき手段が疑わしいわ)
 だけれど、彼ら、フェクダ・ツァンダと名乗った者達の主張に一理あるとも思っていた。
 事実バランスが崩れていたからこそ国は乱れたのだから、と。
 亜璃珠はフェクダに恭順の姿勢を示し、頭に『指輪』を埋め込まれた。
 その後、テレポートで、ヴァイシャリー湖の無人島へと飛ばされた――。

 指輪を求める者の使者として、亜璃珠は秘密裏にミケーレ・ヴァイシャリーとの面会を求めた。
 亜璃珠はフェンリルハイドで姿を目立たなくすると、彼から指定された場所、ヴァイシャリー家の裏庭に入り込んだ。
 庭園の一画、噴水の後ろに先に彼は来ていた。
 軽く挨拶をかわしてすぐ、亜璃珠は話し始めた。
「指定の場所に向かった私達は、テレポートで見知らぬ場所に連れて行かれたわ」
 その場所で、手紙の主の目的を聞いた。
 彼らは政治が地球人の干渉により正常に行えていないことを憂いていた。
 パラミタ人による正常な統治を行うために、革命を起こそうとしている。
 そして、自分に彼らは任務を言い渡した。
「神楽崎優子、桜谷鈴子、風見瑠奈のいずれか1人を連れてくること。でも、『騎士の指輪』を回収できれば、その任務は免れるかもしれない」
「その者達の中に、30代くらいの長い黒髪で青い瞳のヴァルキリーの女性はいた?」
「……いたわ」
「名前は?」
「知らない」
 ミケーレの心変わりを危惧し、亜璃珠は彼らの名前を言わなかった。
「指輪、集めてくださらない? 無理なら、私がヴァイシャリー家で動けるようお墨付きをいただけないかしら」
「なるほどね。参考になったよ」
 ミケーレはそう言うと、腕をすっと上げた。
 途端、付近から迷彩服を纏った兵士が飛びだし、亜璃珠の身柄を拘束した。

○     ○     ○

 亜璃珠はヴァイシャリー家の地下にある、留置室に連れて行かれた。
「私は泥棒じゃない……」
 その部屋には、先客――白百合団の班長の桜月舞香がいた。
 顔を合せて、互いにびっくりする。
「どうしてここに?」
「崩城さんこそ! ダークレッドホールに飛び込んだんじゃなかったんですね。ご無事でよかったです……というべきでしょうか」
 ため息をついた後、舞香は自分がここにいる理由を話す。
 先月、ヴァイシャリー家に相談に訪れていた彼女達は、ヴァイシャリー家で盗難があったことをシスト・ヴァイシャリーから聞いた。
 その中には、古代の技術に関するデーターや、離宮などで発見されたマジックアイテムが含まれていたという。
 その捜索に携わろうとしていた舞香は、ヴァイシャリー家の男性に疑念を抱いた。
 何か隠しているのではないかと。
 そして、密偵の能力で彼らの動向を探り、スキルを駆使し慎重に警戒をしながら、屋敷に潜入したのだが……屋敷の書庫で拘束されてしまったのだ。
「でもなんだか、それ自体が仕組まれた罠だった気がして」
 悔しげに舞香は項垂れる。
 盗難事件の直後だったのに、警備が手薄だったのだ。誘い込まれるように舞香は書庫に到着し、そこで捕えられた。
「普段であってもヴァイシャリー家が、契約者が潜入出来る警備体制ってことはないはず。犯人を誘いこもうとしたのかしらね?」
 そう言いながら、亜璃珠はミケーレの自分への対応も思い浮かべる。
 彼はこちらの話は聞いたが、自分の意見も、現状も何も語らなかった。
 亜璃珠が操られている可能性や、亜璃珠を通じて、革命を起こそうとしている者が情報を得ようとしていることを理解してのことだろう。
 それから――。
(ファビオやコウからの情報が先にヴァイシャリー家に届いている可能性もあるのよね。真実を見極めようとしていた、とか)
 それなら、自分がわざと1人の名前をあげなかったことにも気づいているはずだ。

 しばらくして2人に、身元引受人として『錦織百合子』と『神楽崎優子』が訪れることが告げられた。


『8.迷走の白百合団』

 その日も、百合園女学院でロザリンドとシリウスは、ティリアと共に団員の指揮と情報収集、議会提出資料の作成を行っていた。
 ロザリンドが求めた調査の結果も続々と届いていた。
 行方不明になった者は、ほとんどがダークレッドーホール方面に向かった後、行方不明になっており、向かった理由は様々だった。
 秘書長やパートナーについては、ミケーレに聞いた以上の情報は得られていない。専任で調査に当たる団員がいたら、また違った結果を得られたかもしれないが、それは白百合団の団活動外行為ともいえる。生徒会執行部はヴァイシャリー家の部隊でも警察でもないのだから。
 記憶喪失者で保護された者のうち、身元が判明していないのは、風見瑠奈の生徒手帳を持っていた少女だけだった。
 彼女の身元は、未だ判明していないとのことだ。
 また、記憶喪失者のパートナーの状況は、優子を除き、悪くはないとのことだった。
 ピリリリリリリ…
「祥子・リーブラ先生からだわ」
 ティリアの携帯電話が鳴った。
 電話に出て、祥子からの報告を受けたティリアの顔に緊張が走る。
 白百合団員がまた一人……藤崎凛がダークレッドホールに消えたそうだ。

 直後には、ヴァイシャリー家から白百合団に、緊急の連絡が届く。
 テロ組織加担容疑で、崩城亜璃珠を捕縛したとの知らせと。
 不法侵入、窃盗未遂容疑で、桜月舞香の身柄を拘束したとの知らせだった。
 舞香はヴァイシャリー家に侵入したところを、警備兵に捕えらえた。現行犯だという。

 シリウスは頭を抱え込み、ティリアは対応に追われる。
 更に、雷霆リナリエッタとも数日連絡が取れないとの知らせも届いていた。

 祥子の提案により、ティリアは白百合団員を協力者と共に一旦帰還させることにした。

「まるで、仕組まれたかのようにバラバラ……。大切な時期なのに、悪い事例ばかり増えてしまう」
 そこまで呟いて、ふとロザリンドは考える。
 治安維持部隊として相応しい実績。
 統率のとれていない危険分子と思われてしまう、事例。
 百合園視点ではなく、警察を作りたい者の視点で考えて。
 ヴァイシャリーにパラミタ人が統率する警察組織をつくるために、必要なのはどちらだろう、と。
「ヴァイシャリー家の方々と腹を割った話し合いが必要かもしれません。個人で伺いましても、応じてくださらないかもしれません、が」
 真に信頼できる人は誰だろう。
 百合園と後輩達を愛し、今でも所属している人の協力は得られるだろうか……。