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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

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シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「歌合戦、終わっちゃいましたね。どうでしたか? 楽しかったですか?」
「うん、とっても楽しかった! みんな、すごい想いがこもった歌を歌ってて、なんか、とにかくすごいな、って思っちゃった」
 周囲に人の姿が消えた中、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)音井 博季(おとい・ひろき)が二人、並んで席に座り、歌合戦の感想などを雑談として話していた。ちなみに、博季と一緒に来ていた西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)は、二人に気を使って先に帰宅していた。
「歌合戦も楽しんだし、私は先に帰るわ。頑張りなさい、博季」
 そんな言葉を残して。
「……リンネさん。リンネさんは、今回のシャンバラ統一をどう思っていますか?」
 やがて、雑談もネタが尽き、二人の間に沈黙が訪れる。その沈黙を先に振り払ったのは、博季だった。
 
 こと、シャンバラ統一の戦いにおいては、イルミンスールはさほど重要な役割を果たしていない。
 当初東シャンバラに組していたのを、タシガンと共に西シャンバラに加わったことで、主導権を蒼空学園とシャンバラ教導団に握られていたためでもあるし、そもそものスタンスが『魔法復権』であるイルミンスールは、パラミタにおける母体であるザンスカール家の意向と食い違うことがしばしばあった(が故に、内部結束の脆さを疑われ、重要な役職から意図的に遠ざけられた可能性がある。どうしても蒼空学園やシャンバラ教導団に比べれば、そう思われるのも致し方無い)。
 
「うん……国が出来た、東と西が統一されたのは、いいことだと思うよ。
 でもね……やっぱり、私の知らないところで話が進んで、いつの間にか国が出来ちゃった、って感じはするかな。
 ……それはもちろん、私の力不足ってのもあると思うし、仕方ないことなんだろうけど……」
 というわけで、リンネの想いは他の者にも共通しているかもしれない想いでもある。
 
 国が成立したことは嬉しい。もう仲間同士で戦わなくていい。
 だけど、心は完全には満たされない。何かが心に引っかかる。
 たとえそれが、どうにも抗い難い運命だったとしても、受け入れるには抵抗がある。
 
 愚かかもしれないが、それが人間でもある。
 物語の中心から外れていくに従って、人は不満の方をより強く意識するのだ。
 
「……ごめんね博季くん、愚痴になっちゃった」
「いえ、いいんですよ。リンネさんがそれで元気になってくれるんでしたら、僕はそれで――」
 
 いいんです、とは、その時、博季は口にすることが出来なかった。
「……博季くん?」
 言葉が不自然に止まったのを、リンネが心配するような顔で覗き込み、そこで博季が我に返る。
「……いえ」
 言い淀んで、一息ついて、博季が口にする。
 
「……僕も、この一年、僕なりに努力したつもりです。
 自分の夢……平和を守るという夢を叶えるため、そして、一番傍でリンネさんを守るため、ロイヤルガードに志願しました。
 まだ正式にはなれていませんけど、資格のようなものは頂きました。
 ……それでも、まだ足りないな、って思うんです。リンネさんをいつでもお守りするためには、まだ足りないな、って思うんです」
 
 この時の博季には、リンネのパートナーであるモップス・ベアー(もっぷす・べあー)への羨望の気持ちがあった。
 もちろん、彼が何の努力もしていないとまでは思わないが、パートナーであるということは、より努力を重ね、成功を掴めなければ好きな人の傍にいることも出来ないと感じている博季にとって大きな価値を持っており、それを持つモップスを羨ましいと思うのも、ある意味仕方のないことであった。
 
「そんな、博季くんすっごい頑張ってるよ。むしろ私の方が見習わなくちゃいけないくらいだよ」
 リンネが慌てて手と首を振る。どことなく二人には、努力屋でありつつもその結果が思うように出てこない点で、共通している部分があるかもしれない。
 
「率先して何かを解決しようとしたりするリンネさんは、僕には何よりも輝いて見えます。
 ……僕はその、頑張り屋さんなところも、空回りしちゃったり、落ち込んだりもする可愛いところも、全部含めて好き、です」
 
 意を決したように、博季が口にする。
「博季くん……」
 照れからか、頬を紅く染めて視線を外すリンネの前で、博季が横を向き、両手を広げて待ち構えるようにして、そして告げる。
 
「でも、リンネさんのその生き方は、時に疲れると思います。上手くいかないこともあると思います。
 ……だから、疲れたらいつでも、僕に寄りかかってください。
 この広げた両手の中くらい、必死に守り抜いて見せますから」
 
 長くもあり、そして短くもある沈黙の後。
 
「……うん……」
 
 とん、と、リンネが博季の胸に、自らの身を預ける。
 それを博季が、両手を閉じて包み込むように、リンネを抱きしめる。
 
「私、博季くんに好きって言ってもらえて、嬉しかった……。
 もっと、もっといっぱい、博季くんに好きになってもらえるように、頑張るね。
 ……私も、博季くんのこと、好きだよ……」
 
 いつの間にか日付は変わり、新年を祝う花火が夜空に打ち上げられていた。
 盛大に花開かせるそれらが、どちらからともなく、ごく自然に口付けを交わし合う二人を祝福するように照らす――。
 
 
「はぁ〜、何とか落ち着いたねー」
「ええ、流石に疲れてしまいましたわ」
「たっくさん作ったもんねー。ボクもうヘトヘトだよ〜」
 
 料理を提供し続け、用意した食材がほぼ全てなくなったところで、ようやくクレアと{SFL0017529#エイボン}、{SFL0019703#アリア}が息を吐く。
「あ、おにいちゃんとミリアさん、ずっと働きっ放しだったでしょ? 少しはゆっくりしてきていいよ」
「後片付けの方はわたくしたちで済ませておきますので」
「そうそう、せっかく――もがもが!」
 危うく口走りそうになったアリアを、クレアとエイボンが口を押さえて止める。その様子を微笑ましげに見守るミリアは、涼介のこれからのある決意を唯一、知らない。
「そうか、それじゃ頼むよ。……ミリアさん、宜しければ私と一緒にいかがですか?」
「ええ、喜んで」
 すっ、と差し出された手をミリアが取り、二人は空間の中から外、スタジアムが一望できる場所へ出、そこで今日のこと、これまでのことを交えた雑談に興じる。
「私には、シャンバラが一つになったことで何が変わったとか、これからのこととか、難しいことはよく分からないんです。
 ただ、生徒の皆さんが、毎日を楽しく過ごしてもらって、そして、私の作った料理でお腹と心を満たしてくれる、そういうのがずっと続けばいいなって、私は思うんです」
 自身の想いを口にするミリア、無論ミリア自身も、ただ漫然とそうなればいいな、と思っているわけではない。
 エリザベートやアーデルハイト、その他イルミンスールの生徒たちの話を聞くことが多いミリアも、大変なことになっているんだ、くらいは把握している。
 それでも日々の安寧を願うのは、願わなければ叶わないことを知っているからである。
 これはミリアが特殊な能力を持っているとかそういう問題ではない(むしろミリアは、イルミンスールの中にあって最も“普通”である)。老若男女、さらには全ての種族において、『願わずは叶わず』なのである。
「……そうですね。それは、とても素敵なことだと思います」
「はい♪」
 涼介の言葉にミリアが微笑みを浮かべ、二人の間に沈黙が訪れる。
 遠くから聞こえる人々の喧騒は、カウントダウンイベントの盛況ぶりを伝えていた。
 
「……ミリアさん」
「はい」
 
 涼介に名前を呼ばれ、ミリアが振り返る。
 意を決して、涼介が今日の大きな目的を果たすため、口を開く。
 
「私にとって、ミリアさんは大切な人です。
 あなたの笑顔を守りたい。あなたと共にこれからを歩んで行きたい。……これは私の、嘘偽りの無い、本当の気持ちです。
 こんな私ですが、あなたを守るために隣を歩んでいいですか」
 
 涼介の告白に、ミリアも流石に驚いた様子で、けれど決して不快ではないという表情で、涼介を見つめる。
「返事はすぐでなくて構いません。ミリアさんにも自分の気持ちの整理をする時間が必要だと思います。
 なので、返事は改めて聞きたいと思います」
「……涼介さん」
 頷く……ではなくミリアは涼介の名前を呼び、そして口を開く。
 
「涼介さんと何度か料理を作る機会に恵まれて、私、涼介さんがとてもお優しい方だと知りました。
 涼介さんの作られる料理は、皆さんに美味しく食べてもらいたいという優しい心がこもっていましたから」
 
 普段はその外見から、ぶっきらぼうに見える涼介の、なかなか表に出てこない優しさに気付けたのは、ミリア所以であろう。
 
「涼介さんのお気持ち、私はとても嬉しく思います。
 私こそ、こんな私でいいのかしら、という思いですけど……歩くのはとてもゆっくりになってしまうかもしれませんけど……。
 それでも、私は涼介さんの隣を、歩きたい、です」
 
 微笑んで、ミリアが涼介の告白を受け入れる言葉を口にする。
 
 どちらからともなく、互いに身を寄せ合う二人を、打ち上げられた花火が祝福していた――。
 
 
「リンぷ〜、戻ったで〜」
「リンス、ただいま!」
「お帰り。……日下部、ちょっと」
 工房に帰ってきた二人を出迎えたリンスが、後ろにを連れ、工房の隅に向かう。
 振り返ったリンスの表情には、あの“有無を言わせない圧力”が降臨していた。
 
「ねえ日下部ー? クロエが846プロ所属ってさ、どういうこと?」
「あ、それはやな――」
「俺聞いてないよねー」
「あー――」
「ねー?」
「……すまん。何でもゆーこと聞くから許して」
 
「? やしろおにぃちゃん、どうしたのかしら?」
 リンスにペコペコと頭を下げる社を、クロエが首を傾げて見守っていると、外から鐘の音が聞こえてくる。
「おっ、除夜の鐘や! つうわけでリンぷ〜、さっきのは煩悩として飛んでったんで、ナシということに――」
「…………(ニコッ」
「……ならんよなぁ……ハハハ……ハァ……」
 ため息をつく社であった――。
 
 
「お、除夜の鐘か」
 
 中継が終わり、どこからか響いてくる鐘の音が、過ぎ行く今年に別れを告げ、やって来る今年を出迎える。
 
「ルーシェ、お年玉くれ」
「……なぜワシが貴様にお年玉をやらねばならんのじゃ。それに貴様ももう、お年玉をもらうような年ではなかろう?」
「ルーシェから見たら、俺なんかまだまだ十分子供じゃねーか。ルーシェは5000年も生きているババァなんだし」
「誰がババアじゃ!」
 
 スパァァン! と、ルシェイメアに握られたハリセンが、アキラの頭を叩く。
「いってぇ……新年早々、これかよ……」
 頭をさすりながらアキラが、改めて色々あったよなぁ、と思い返す。
 
 ルシェイメアと契約したこと。そして、パラミタにやって来たこと。
 しばらくしてセレスティアと出会い契約し、最近また新しいパートナーができたこと。
 色んな人に出会って、色んな事があった。
 
「ルーシェ、セレス」
 
 二人に呼びかけるアキラ、真摯な表情、きちっと正座するその姿勢に、ルシェイメアとセレスティアも同様に応える。
 
 ――ありがとう。これからもよろしく――。
 
「今年もどうかよろしくお願いいたします」
 
 深々と頭を下げるアキラを見、真似してルシェイメアとセレスティアも、新年の挨拶を行うのであった――。
 
 
 2020年、色々なことがあった。
 大きなものではシャンバラ統一から、その他様々な小さなことまで、そのどれもが等しく大切な、かけがえのない想い出を含んでいる。
 
 それら想い出と共に、新しい年、2021年を迎える者たちへ――。
 
 
『明けましておめでとう。
 今年一年、どうぞよろしくお願いします』

 
 
 

『シャンバラ独立記念紅白歌合戦』 完

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

 
 
 
 マスターコメントを書く気力:0
 
 
 
 ……猫宮・烈です(なんとか1になったらしい)。
 
 『シャンバラ独立記念紅白歌合戦』、いかがでしたでしょうか。
 いつものことながら、あれこれと勝手に書いてしまい申し訳ございませんでした。
 
 ・『女王危篤』ペリフェラルシナリオで転生という形を果たしたアムリアナ女王については、まあ、ああするのがベストとは言いませんが、ベターかなと思っています。
 
 ・ミツエがステージで言っていた「乙王朝国歌を作るわよ!」は、何らかの形で募集することになると思います。
 今後をお楽しみにどうぞ。

 ・その後アイシャたちがこっそり呟いていた、シャンバラ国歌募集についても、何らかの形で実現する……かもしれません。
 今後をお楽しみにどうぞ。

 ・NPC描写の際、実に多くのMSにご協力いただきました。
 この場を借りて感謝申し上げます。ありがとうございました。

 これである程度、1月29日発表のグランドシナリオへ向けて、気持ちの整理など出来ていたら幸いです。
 新たな展開を迎えるグランドシナリオに、ご期待下さい。
 
 それでは、次の機会がございましたら、よろしくお願いいたします。