葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

恐竜騎士団の陰謀

リアクション公開中!

恐竜騎士団の陰謀
恐竜騎士団の陰謀 恐竜騎士団の陰謀

リアクション



2.メインディッシュには肉を



 極光の谷採掘場―――。
 風紀委員によって捕えられた人たちが送り込まれるこの場所は、非常にシンプルな仕組みで動いている。
 化石を見つけると、ご飯がもらえる。
 これほど単純でわかりやすいシステムなのだが、これが中々上手く機能しない。
 そもそも発掘作業は繊細な作業なのだ。それを、一般人ましてやモヒカンにやらせてそうそううまくいくことは無く、化石と石ころの見分けもいまいちついていなかったりするらしい。
 まともにご飯にありつけなければ、不満も溜まるもの。採掘場の中に、蜂起の噂が流れて蔓延するのにも時間はかからなかった。
「ちくしょう、適当な噂ばっかりながしやがって………いつつ」
 コンテナの扉を荒々しく開けて帰ってきたのは、風紀委員の国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
「お茶お入れ致します。それと、胃薬もこちらに」
 聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が爽やかに出迎える。最近ストレスが溜まって胃を炒めている武尊は、茶菓子を出すより胃薬を出す方が喜ばれるのだ。
「ああ、悪ぃな。あー、みんなあんたみてぇにしてりゃあ楽なのによ」
「はは、そう易々と執事の心得を取得されても困り者でございますが」
 お茶を用意していると、猫井 又吉(ねこい・またきち)が武尊の横に座り、
「俺のはぬるめでよろしく」
 と注文をつける。これにも笑顔で、はい、と聖は答えた。
 聖がこうして武尊の執事をしているのは、キャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が速度規制違反で捕まったからだ。聖は何の罪も犯していない。
 どうもここで働いている風紀委員が胃痛持ちらしい、という噂を聞いたのでありったけの胃薬を持ってきたらあっさり信用された。人の欲しがるものを用意できるのは、執事のたしなみである。
「国頭様、そろそろ………」
「なんだ、また差し入れか」
「申し訳ありません」
「あー、別にいいって、どうせ置いといても腐るだけだしな。お嬢様だっけか、とりあえず変な事しないようにとだけは言っておけよ」
「はい、承知致しました」

 日陰の地面にゴザを敷いた場所が、谷のあちこちに点々とある。どれも皆、採掘者の休憩所である。
 みんな風紀委員の姿が見えたら、採掘作業をするがそうでない時はそれぞれのゴザの上でだらだらと過ごしていた。
 そんな中にキャンティの姿もあった。
「お嬢様、もう飽きてしまわれましたか?」
「だってぇ、全然出てこないんですよぅ、琥珀ちゃん! それよりも、また何かもらってきたんですかぁ?」
「ええ、お肉を」
「お肉?」
「はい、肉です」
「何のお肉?」
「さぁ?」
 風紀委員に信用されている聖は、こうして食料などを差し入れしている。
 おかげで、キャンティは飢える心配はない。のだが、こんな場所に送られてくる食べ物はあまり質がいいとは言えないものがおおい。硬いパンだとか、ゴムのような干し肉とか、それでも虫や雑草よりはいくらかマシではあるのだが。
「このお肉、何の肉なのかしらぁ?」
 差し入れられたのは、マグロの赤身のような綺麗な肉をだった。



「塩コショウもらってきたぞ。ただ、油はダメだとさ」
 佐々木 八雲(ささき・やくも)は百円ぐらいで売ってそうな、調味料の小袋をひらひらさせながら、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に声をかけた。
 声をかけられた弥十郎は、焚火を前に真剣な面持ちを向けている。
「なんで油はダメなのかねぇ?」
 目は真剣に火を見つめながら、弥十郎が言う。ただいま調理の真っ最中なのだが、焚火だと火加減が目視と勘になってしまうため非常に神経を使うのだそうだ。
「よく燃えるから、武器に使われたりするかもしれないんだと」
「あー、最近色々な噂が流れてるもんなぁ。ここを襲撃しようとしているチームがあるとか、隠れて武器や弾薬を持ち込んでいるんだ、とか他にも色々。いっぱいありすぎて、今はもうどれがブラフで、どれが事実なのかワタシにもわかんないしねぇ」
「おかげで、風紀委員は胃が痛くてたまらないんだってさ」
 つい先ほど声をかけた風紀委員のやつれた顔を思い出して、思い出し笑いをする八雲。
 反抗的な態度を取って風紀委員に取り締まれる者も少なく無いが、うまい事立ち回ってそれなりに生活をしてみせる人も少なくない。佐々木達もそんなうちの一人である。
「おーい、肉いらないか、肉」
 そんな二人のところに、瓜生 コウ(うりゅう・こう)がやってくるなり、そんな言葉をかけてきた。
「肉? なんでこんなところで肉が取れるんだ?」
 化石を見つけられない採掘者の食料は、虫やら雑草やらである。雑草はともかく、虫は食べてみると案外おいしかったりして、新たな味の道に目覚める人も出てきていたりする。
 それはともかく肉なんてものは、久々だ。そのせいか、物凄いご馳走のように思えてしまう。
「さあ、上から落ちてきたんじゃないか?」
「上ねぇ………」
 見上げた崖は、かなり高い。頑張れば上れそうではあるが、凄く目立つので逃走経路としては使えそうに無い。あの上から、牛か馬でも降ってきたのだろうか。
「キャンティのところからもらったんだが、こっちでも食いきれないしな。みんなに分けようって話になったんだ」
「保存できるように加工すればいいんじゃないかなぁ。燻製とか、干し肉とか」
「燻製するには、チップがないし、干してたら誰かに食われちまうだろ」
「それもそうか。じゃあ、ありがたく頂かせてもらうよ」
「あらかた回ってきたから、これ全部使って大丈夫だぞ。久々に腕の見せ所だな」
 何の肉かはわからないが、とにかく肉である。
 コウから肉を得た弥十郎は、さっそくコレをどう調理するかで頭を悩ませる。
 一方、得体の知れない肉に疑惑の目を向ける八雲。それに気付いたコウが、
「とりあえず毒は無かったみたいだぞ」
「ん、いや、それはいいのだが………で、これは一体何の肉なんだ?」
「鶏肉じゃないな。牛にしては堅いし、豚………か? 桜肉はもっと油が入ってるから違うだろうし」
「君の博識でもわからないものなのか?」
「わかんないな。けど、食えるしうまい、らしいぜ?」
「そんなに心配しなくても、大丈夫だよ。とりあえず、人間の肉とは違うみたいだからねぇ」
「………なんで、これが人肉じゃないってわかるんだよ」