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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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「神楽崎……」
 厳しい表情の優子の前に、国頭 武尊(くにがみ・たける)が立ち、真剣な目を向ける。
 彼は、優子と共に行動をしたい為に、ゼスタの誘いを受けて探索隊に加わっていた。
 ニルヴァーナとかブライトオブシリーズとかに興味があったわけではない、不純……いや純粋に、彼の頭の中は、神楽崎!! 神楽崎!! 神楽崎!! だった。
「君が吉永番長と特別な関係だとしても、以前オレが言った言葉に変わりはない」
「国頭……」
 優子は武尊が難病を患っていると思いこんでいる為、少し心配そうな目をする。
 なにか誤解もしているようだが、それを説明している余裕はなかった。
「痛いのも辛いのも苦しいのも全てオレが引き受けるってな。だから、要塞突入にはオレも付き合うぜ」
「……ありがとう。心強い」
 優子は少しだけ表情を和らげる。
「分校生達にも、いい土産話を持って帰ろうぜェ!」
 そう力強く言うのは、若葉分校の番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)だ。
 分校生も探索に協力してくれていたが、速度の出る乗り物を所持していなかったこともあり、大荒野で別れていた。
 優子は竜司の提案と頼みにより、分校生に大荒野での避難誘導の指示を出しいていた。
 分校生の中でも、竜司や優子を慕う気持ちが強いため、何が何でもついてこようとした者がいたためだ。
「ああ、彼らもこの作戦のメンバーだ。必ず、良い知らせを持って帰ろう」
 優子の言葉に、竜司は崩れたイケメン顔をもっと崩して笑みを浮かべ、強く頷いた。
「適当な外壁をぶっ壊して要塞内部に突入したとしても、迷って酷いことになるよな。制御室、操縦室、機関室辺りを目指せばいいか?」
 武尊も要塞破壊ではなく、内部を制圧し停止、着陸を目指すべきだと提案する。
「通路もない分厚い部分に穴を開けても仕方がないしの。目的を定めた後、アレナ殿と連絡をとり、決めた方が良いじゃろう」
 織部 イル(おりべ・いる)がそう口を挟んだ。
 どこに穴を開けて侵入すべきだろうかと、皆で検討を進めていく。
「乗り物の格納庫のハッチ等、弱そうな部分がわかればな。ただ、そこが制御室に近いとは限らないし、攻撃可能な場所とも限らないわけだ」
「そうだな、しかし乗り物を確保できれば、脱出時に助かるかもしれない」
 優子はそう言い、制御室、操縦室、動力源であるブライトオブシリーズがあると思われる機関室に近い場所、更に、崩せそうな場所について多方面からの報告を受けながら、考えていく。
「時間はないが、戦力は把握しておかないとなァ。突入に志願する奴は装備を整えて、こっちに来い。オレの優子はヘッドとして指揮をとらなきゃならねェ。援軍や宮殿、アレナとの連絡は誰がやるんだ?」
 竜司は優子の隣に仁王立ちして、ロイヤルガードや教導団員に問う。
「友人が援軍に加わるはずだ。アレナとの連絡も取れるようにしておく」
 答えたのは呼雪だった。
 円、刀真も、アレナとはテレパシーやパートナー通話で随時連絡が取れる。
「そっちは任せていいようだな。っと、あー、そっちのてめえは支援の方が合ってるな」
 集まった者のうち、武具を持っていない者、装備品に不安がある者は竜司が同行を拒否する。
「ゼスタも行くのか?」
「ん、まー。優子チャンがどうしてもって言うし」
 竜司の問いに、ゼスタはため息交じりに答えた。
「無理すんなよ。パートナーが怪我したら、優子が困るし、分校生も心配するだろ?」
「そーなんだよな。誰か神楽崎を止めてくんね? ま、無理だと解ってるけどさ」
 ゼスタは同行に乗り気ではないようだった。
「ロイヤルガード……の志願は断る理由はないか?」
 竜司が優子に目を向ける。
「そうだな」
 答えつつ、優子は集まった者の装備や能力を確認していく。
「ま、ロイヤルガードじゃなくても、志願するけどな」
 そう言ったのは、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)。凄まじい破壊力を持つ男だ。
「突入時のバリアや壁の破壊にも貢献するぜ?」
「頼りにしてる」
 優子は強く頷く。
「出来る範囲で、要塞の砲台や攻撃手段を把握しておく必要があります。突入するには当然接近しなければなりませんが……突入に適した乗り物など、誰も所持していませんから」
 そう言ったのは、度会 鈴鹿(わたらい・すずか)
 自身はワイバーンを連れていたため、良い方だが、普通の小型飛空艇や、空飛ぶ箒での接近は、戦艦にスクーター、戦車に三輪車で挑むほどの能力の差がある。
「時間がありませんが、班を決めて、突入のタイミング、順番、連携について擦り合わせておきましょう」
「ルシンダ殿の力は、どのように活用されるつもりかな?」
 パートナーのイルが、優子とルシンダに尋ねる。
「彼女は私とゼスタと共に行動し、情報を皆に送ってもらうつもりだ」
「はい。テレパシーの能力も持っています」
 優子とルシンダがそう答えた。
「ところで、ルシンダ殿は今回から探索隊に加わったわけじゃが、どこかで見たことがあるという者が多い気がするんじゃが? シャンバラで活動されていたことがあるのかの?」
「あ、はい……。その」
 ルシンダは優子の顔をちらりと見て、少し言いにくそうに言う。
「百合園女学院のお茶会で、神楽崎優子さんや、会に参加していた方々にお会いしたことがあります」
「なるほどの」
 どういう経緯で参加したのか等を聞いている余裕まではなかったが「ああ」という声がところどころから上がる。
「ボクも志願します」
 真口 悠希(まぐち・ゆき)が、駆け付ける。
「ブライドオブシリーズの存在も気になりますが、確実に要塞を止めることが最優先です」
 悠希は真剣な目で語る。
 空京には今、百合園生が沢山集まっているはずだ。
 戦えない人々も、地球人も沢山いる。
 その全てを空京から避難させることは、不可能だから。
「最悪の場合は……内部から破壊し、起爆させてでも止めるべきだと考えます」
 悠希の言葉に、優子も真剣な目で頷く。
「その覚悟も必要だと思う。ただ、覚悟だけでは足りない。準備をしている時間もないという状況だ。この状況に適した装備をしている者が優先となるだろう」
「はい。ですが、出来る限りのことはするつもりです。皆を守るために、ボクにも出来ることがあるはずですから」
 悠希は強い意思を込めていう。
「ええ、覚悟は必要です。ですが、死ぬ覚悟だったらありません」
 そう言ったのは志方 綾乃(しかた・あやの)
「生きて帰ってくるという覚悟しかないです」
 綾乃ははっきりと言い放つ。
 ロイヤルガードではない者達も沢山集まっていた。
「私は要塞内突入の先陣に志願します」
 彼女のまっすぐな目を、優子もまっすぐ受け止める。
「……そうだな。キミにはラルク同様、突入時の先陣を任せてもよさそうだ」
 優子の言葉に綾乃は真剣な顔で頷いた。
「空京に、大事な人がいる」
 続いて、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が志願をする。
「一般人の避難を手伝うと言っていた。きっと最後まで、空京に残るだろう……だから、要塞を近づけさせるわけには、空京を攻撃をさせるわけにはいかない!」
 グラキエスは最初に契約をした親友であるパートナーから、空京にいるという知らせを受けている。
 親友を助けるために、要塞をなんとしてでも止めたかった。
「主……焦っておられるのか?」
 その隣で、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が戸惑いの表情を見せる。
 主であるグラキエスは、普段焦りを見せることはない。
(主にとって、空京にいるパートナーは他のパートナーとは少し違う存在のようだ)
 そう理解して、アウレウスはグラキエスに言葉をかけていく。
「気持ちはわかるが、あまり焦ると攻撃にまで焦りが出る。状況判断も正確には出来なくなる。一刻も早く突入を果たしたいのであれば、落ち着くことだ」
 そうでなければ、突入班員として選ばれることもないだろうと、アウレウスはグラキエスを諭す。
「解っている……イコンがあれば……いや、イコンの力では止められないからこそ、突入が必要なんだ」
 グラキエスは深呼吸をして心を落ち着かせていく。
 イコンでの援護は、教導団と付近にいた契約者の部隊がやってくれるはずだ。
 自分達は、その攻撃に合わせて、突入することだけを今は考えればいい。
「中から、確実に止める。なんとしてでも! その為に、俺達は役立てる」
 優子に向き直り、グラキエスは強い目で言う。
「要塞を破壊するにせよ、動力部だけを止めるにせよ、要塞内の探索に向いた能力をもつ人員も必要なはずだ」
 そして、自分とパートナーのアウレウスは探索、捜索に適した能力を有していることを説明していく。
「素早く目的地に辿りつくために、必要な能力だ」
 グラキエスの言葉に優子は頷いた。