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リアクション
19.数日後・朝〜北の探索隊・滝の下へ〜
……ニルヴァーナ探索隊は、数日かけてようやく「湖」に辿り着いた。
大変巨大な湖だが、調査の結果「塩湖」と判明した。
これは荒野以外では、初の大きな地形的発見となる。
滝の壁についてであるが、これは思いのほか遠かった。
この湖を超え、さらに遠くまで進まなければならない。
そして本探索に予定されていた期日は、とうに過ぎている。
ニルヴァーナ探索隊は、これをもって、回廊前にある本部まで、戻らなければならなかった。
本日が探索の最終日となる。
■
ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)とオリオン・トライスター(おりおん・とらいすたー)は多くの見学者達と共に、塩湖を見に行った。
ほとんど観光気分である。
ちなみに2人は、立川るる(たちかわ・るる)のパートナーであったりなんかするが、彼女の姿はない。
たまには男どうしで、男の会話をしよう! きっと、そういう目的に違いない……。
最後の野営地から、塩湖まではやや距離があった。
なにしろ、生まれて初めて見るニルヴァーナの塩湖なのだ。
ラピスはわくわくする気持ちを押さえて、押さえようとするあまり。
「るるちゃんが、『ポータラ歌人は常に歌をうたって気持ちを伝え合ってたって言ってたよ。
回廊の方でやるっていう演劇ミュージカルもその流れなんだって!
僕らもポータラ歌人に会ったときに備えて、歌を練習しておこうよ!
上の句と下の句があって、交互に言い合うんだよ」
と言うようなことをオリオンに聞かせた。
色々とツッコムべき内容ではあるが、オリオンはそうなのか、と合点したようだ。というより、黙々と歩いて行くのもつまらないと思ったのだろう。
……で、やって見た☆
上の句:「ニルヴァーナ キマクみたいな 大荒野」
下の句:「バイクかチャリで突っ切れば楽!」
上の句:「滝の向こう 一体誰がいるのかな?」
下の句:「女が三十人くらいかな」
上の句:「……もー、もっとちゃんとやってよオリオンさん!」
下の句:「ちゃんとやってる ちゃんとやってる」
上の句:「こんなんじゃポータラ歌人に嫌われちゃうよ!」
下の句:「七五調なら何とかなるだろ」
「もー、つまんない!
歌でも歌ってた方がましだよ!!!」
ラピスはぷうっと膨れて、勝手に歌を歌いはじめる。
「何? 歌だと?
ふ、ラピスはオコサマだな。
男はこんな時、月をながめるもんさ」
オリオンは空を見たが、雲ひとつない青空で、月は浮かんでない。
「月か……。俺の昔の女も月の女神だった」
無理やり思い浮かべてみたらしい。
「いいかラピス。
最大の敵は父親だと決め付けるな。
思わぬ伏兵に遭うからな」
ラピスは楽しそうに自作の歌を歌いつづけている。
「…………」
塩湖につくと、オリオンは辺りをキョロキョロ。
「なにしてんの? オリオンさん」
「ああ」
オリオンはこほんっと咳払い
「いいか、ああいう滝のふもとの泉ではニンフを数人引き連れた女神が水浴びしてるんだ、神話的に考えて」
……さすがは「オリオン」。
星座の英霊なだけはある。
「で、何か見えたの?」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、つまらんもんだ……」
左右を指さして。
「あっちの一帯はぼんやりと光っていて、
そっちの方は……石像か? たくさんありそうだが……」
「ということは、回廊前から見て、
北西(塩湖の西端)側に、夥しい像らしきものがあって、
北東(塩湖の東端)側に、一帯が光る「何か」がある……
……って、そういうことだよね? オリオンさん」
「うーん、そういうことになるな」
再び咳払い。
「そんなことはどうでもいい……」
オリオンの小言は続く。
お前もガキンチョぶってばかりいないで、ぼちぼち男としての成長をだな……。
な、あんたもそう思うだろ?
あぁ、俺はオリオン。オリオン座の英霊だ。
何か最近じゃ、姓ってのがいるらしくてな、「トライスター」ってのは自分で考えた。
ふふん、カッコいいだろう。
まぁ何が来るかわかんねーし食い物もあんまねーけど、そうピリピリすんな。
ホラ、1本やるよ。
ん? これかい? ココアシガレット的シガレットチョコレートさ……
■
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はミア・マハ(みあ・まは)と共に、塩湖の近くを調査していた。
彼等は元々滝や、水と食料の確保に興味があったが、滝は今回は無理だということで、塩湖を調査していた。
まあ、水の可能性、ということだ。
レキはイナンナの加護で危険に備えた。
ミアはディテクトエビルで警戒する。
「これだけ、警戒していることだし、
そうでなくても、周りに仲間達もいる事だしね……」
最終日の、しかも最大の発見と言うことで、さすがに要員達の多くはここに集中している。
「ま、大丈夫だとは思うけど」
塩湖の周囲は自然の地形の為、それなりに起伏がある。
レキは万一に備えて「ダークビジョン」を使う。
っ!!
「ミア、大発見かも?」
「え? 何じゃ? レキ」
レキは暗がりをそっと指さした。
ミアがのぞく。
なにやら、もふもふとした黒い生物が、2匹で巣をつくっている。
「黒い、マリモかな?」
「だが、まりもは普通『植物』じゃ」
ミアは動物だよ、と言いたいのだ。
その証拠に愛らしい小さな目におちょぼ口があり、手は丸くニクキュウがあるようだ。
2匹はどうやらカップルのようで、雄が白い粘液を口から出す度、夫婦でペッタンペッタンと手で粘液をもち付いているのだった。
一通り作業が終わると、雌が子供を中にうみつけていく……そんな光景が、ここでは幾つか見られた
「うん、お餅みたいだよね?」
「……巣か、食べられないかのぉ?」
土方 伊織が立ちよったのは、丁度その時だった。
伊織も「滝に行けないなら、湖!」の1人だったが、ここにたどりつけたのは馬謖 幼常のトレジャーセンスの「勘」が、運よく当たったことによる。
「はわわ、もふもふを見つけられたのですね! 感激です!」
伊織達は感動する。
「はわわ、あれはきっと食べられると思いますよー」
躊躇しているレキ達に勧める。
彼女は博識のデータから割り出した。
「とはいえ、専門家ではないので、賭けではありますが」
「食べてみるしかあるまい! レキ」
レキ達は、その不思議な生物が居なくなった隙を見て、巣に近づき食べてみた。
それが、「ニルヴァーナの甘い餅」として世に知られることになるのは、数日後のことである……
■
……こうして、探索隊は調査の全日程を終了した。
彼等は仲間が一生懸命に作った地図や、データを基に、翌朝また回廊前に帰って行くこととなる。
最終日と言うことで、回廊前に残してきたパートナー達から学生達に、慰労の電話がかかってきた。
「ん? そうか……劇は大成功だったんだな」
隊員達はホッと安堵し、あるものは劇の様子を音声で聴く。
それは撮影係のロザリンドが、パソコン用に編集したものであったが、音がそこここから流れても、ニルヴァーナの荒野は静かなままだった。
そして、夜が明けてゆく――。