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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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 グラキエスの調査によれば、深紅海の水質は、見た目に反して、人体への毒性はほとんどない、とのことだった。
「より精密な調査が必要、と。なるほどね」
 秘刀・秘湯の飛刀の力を借りて水面に立った黒崎 天音(くろさき・あまね)が、ぽつりと呟いた。
「まるで神話の風景だね。かき混ぜてみたくなる」
 真っ赤に染まった海の景色は、不思議に詩的な気持ちを思い起こさせた。
「浸っている場合ではないぞ。より深い場所のサンプルを採取するのだろう?」
 ちゃぷん、と水面から跳び上がってブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が聞いた。その腰から下には水中装備……人魚のしっぽ……がとりつけられ、さながらタツノオトシゴだ、と天音は心の中で思った。
「そうだね。早速……」
 と、言いかけた天音の足下で、ちゃぷん、と何かが跳ねた。
「見るぎゃ! こいつ、尻尾が二つあって美味そうだぎゃ!」
 ……と、水中から顔を出したのは、長い尾びれを二本はやした平べったい魚をつかんだ親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)である。が、夜鷹は一瞬、きょとんとしたあと、、
「……ん、何ぎゃ。人影があるからアルかと思ったら、全然違うぎゃ」
「ヨタカ、ちょっと夢中になりすぎたみたいですね」
 間違えられたことが不満である、ということを隠しもせず、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)が、アンプルの中の赤い水を確かめながら言った。天音の方には、目も向けない。
「君も、調査隊かい?ちょうどよかった。僕たちも今から、水質の調査のために深部の水を取ろうと……」
 と、天音が話しかけても、アルテッツァはまるで無視だ。水着姿の夜鷹から、魚を受け取る。
「すばる、データを」
「はい」
 と、進み出た六連 すばる(むづら・すばる)が彼の持つアンプルを受け取った。その間に、アルテッツァは魚のデータを取得する。
「おい……」
 まるで自分たちが居ないかのような振る舞いに、しびれを切らしたブルーズが声をかける。が、アルテッツァは、小さく首を振った。
「今、調査中ですので」
「……こう言ってるんだ、僕たちも調査を続けよう」
 言外に拒否の意を感じ取った天音がブルーズを引き留めて、水中活動用のマスクを取り付けた。
 こうして二組は、互いにすぐ近くにいながら、別々に調査を始めたのだった。


「……そう、意固地にならずに。今回のことは、学校間の利益だけで語れる活動じゃないんですから……」
 と、アルテッツァに注意をしているのは非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)。報告を受け取ったが、教導団所属の隊員と協力しようとしない態度に困らされているのである。
「こればかりは、譲るわけにはいかない。とにかく、調査は問題なく行ったんだ」
 調査レポートをさしだして、アルテッツァは背を向けた。周囲には音子の指揮する教導団の人間がかなりの数、いる。これ以上同じ空気を吸っていたくないというのが、本音だった。
「あまり態度を硬化させていたら、自分が助けてもらう番になった時に後悔するかもしれませんよ!」
「……もう、行かれてしまいましたわよ」
 説教を続けようとする近遠の袖をユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が引っ張った。
「やっかいではあるが、そういった心がけが動力源になっているのかもしれん」
 分析データに目を通しながら、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)も小さく漏らした。
 と、そこへ、アルテッツァと入れ替わるようにして、天音らがやってきた。
「こちらで分析した水質のデータです」
「どうやら、この海の赤みは鉄分が原因らしいな」
 と、ブルーズ。
「血液に似た成分に思える……そのせいか、この海の生物は呼吸器の発達が独特だな。この赤い水を使って呼吸するようになっている。他の海水に移すと、呼吸困難に陥りそうだ」
「そうですか……よかった」
 ほう、っと胸をなで下ろすのは、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)
「骨まで溶かしちゃうような酸とか、神経をマヒさせて徐々に腐らせるような毒だったらどうしようかと思ってました」
「考えすぎだ、アルティア」
 不安にさせるんじゃない、とイグナが小さくフォローを入れた。
「なるほど……分かりました」
 近遠が天音から渡されたデータと、アルテッツァのレポートを見比べた。
「……皆さんが協力できなかったのはちょっと残念でしたけど、でも、これでデータの正当性が高まりましたね。先ほどのチームからも、動揺の報告を受けています」
 二組の研究結果はぴたりと符合した。この海が鉄分を多量に含んだ独特の成分をしているのは、疑いようもないらしい。
「私たちが最終的な確認をしますけど、ひとまずの危険性がないと分かれば、さらに調査を続けられます。お疲れ様でした」
 安全性が確認できたことで、近遠も小さく安堵の息を漏らした。
「……でも皆さん、無茶をしがちですし。あまり、危険な行動をしないようにして欲しいのですけど……」
「この地を最初に探索しているのは僕たちなんです」
 と、天音。
「好奇心を抑えられないのは、当然ですよ」