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リアクション
海岸線の攻防4
「よくわかんないんだけど、調査隊さんが行ってる遺跡さんがインテグラルさんに襲われそうになってるって聞いたよ!
というわけで、そんな遺跡さんの調査……あれっ、お姉ちゃんイコンさんに乗ってどうしたの?」
及川 翠(おいかわ・みどり)がウルヌンガル、シルフィードを見上げて素っ頓狂な声を出した。軽やかなイメージの風の精霊の名前を付けたイコン、が、その中身は重装・パワータイプのイコンである。名前とタイプがあっていないのは、イコンがよく解らないまま命名した翠のセンスが反映されてのことである。ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)はコクピットで翠の言葉はスルーしたまま一人考え込んでいた。
「一回は動作をとめたインテグラルがまた動き出した……。
ということはを操っている何者かがまだ居るって考えられそうだけれど……。
とにかく、今は遺跡を破壊に向かってきてるインテグラルの群れを止めなきゃ始まらないかしらね」
「えぇ〜っ!? イコンさんにのって防衛戦するの〜っ!?」
いつの間にかコクピットに這い上がってきて機内オペレーター席にちょこんと座っていた翠が叫ぶ。とはいえ彼女はイコンには疎く、何をすれば良いのかわかっていない。
「これはなんだろぉ……?」
「ちょっと翠っ! 勝手にわからないとこ触っちゃダメよっ!?」
「はぁ〜い……」
計器の調整のパネルに伸びた手を目ざとく見つけてミリアが鋭い制止の声を上げる。徳永 瑠璃(とくなが・るり)が翠の隣、同じオペレータ席で腕組みする。
「うーん。遺跡さんがまた襲われてるんですね……って、暢気に構えてる場合じゃありませんっ!
……あれっ? そういえば私どうしてイコンさんに乗ってるんでしょう?
……救助に行こうかと思ってたはずなのに……って操作マニュアルを読んでおかなくてはッ!」
瑠璃は付け焼刃的にイコンのマニュアルを呼び出すと、一夜漬けの学生よろしく必死で目を通し始める。サブパイロット席のスノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)が機器、武装類の最終チェックを行いながら持ち前ののんびりした口調で言う。
「ふぇ〜、インテグラルさん操ってる誰かも気になりますねぇ〜……。
でもぉ〜、わざわざインテグラルさん操ってまで消したい何かはもっと気になりますねぇ〜……。
遺跡なんて先回りして消せばできるのに、そうしないのも気になりますしぃ〜。
う〜〜ん。時間稼ぎできればぁ〜、答えは見えますかねぇ〜……?」
「そう、そこなのよ。引っかかるのはね」
ミリアが答えた。
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)がサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)に声をかけた。
「さーて、インテグラル・ナイト相手にイコン戦だ。いくぜ、相棒!
とはいえ防衛戦てーより時間稼ぎ……全部倒しちまえ……と、言いたいが言える数じゃねぇよな。
残念ながらブルースロート機の参戦もない。こっちの部隊数と補給時間もあわせて作戦考えねぇとなぁ」
「けど……インテグラルのこの動き……まだゲルバッキーの命令が生きているのかな」
サビクが眉間にしわを寄せる。
「さあ……な」
シリウスは手早く機器類のチェックをしながら答えた。
(ウゲンの野郎はニル子残して消えちまうし、インテグラルはまだ不気味な動きしてやがるし……前途多難だな。
だが香菜、ルシア、待ってろよ。お前らの背中はオレらで守ってやるさ)
激しい気性で口は悪いが世話焼きの炎のようなシリウスと、グラマラスなティセラカラーのシャムシエル風の容姿を持つ冷静なサビクはいいコンビだ。
「ま、今はそういう難しいことは考えなくていいだろ。とにかく目の前のこいつらを遺跡に行かせない。
オレらが今すべきことはそれだけだ」
「……そーだね! まあ最悪、倒しきれなくても遺跡に到達されなきゃいいわけだしね」
彼女らのイコンは近接戦仕様である。同じ近接戦向きの上社 唯識(かみやしろ・ゆしき)、おかっぱ頭に、唯識に比べて幼い顔立ちの戒 緋布斗(かい・ひふと)らのストーク稀緋斗のほか、遠距離支援実装の香 ローザ(じえん・ろーざ)のイコンロード・アナイアレイター、ミリア、翠らのシルフィードと組となっての戦闘担当である。
「そろそろ発進、行くぜ」
通信機からのシリウスの声に思わず周囲をきょろきょろと見回していた上社は、あわてて意識を引き戻した。
「ジェイダス理事長もイコンで出てるのか……どんな戦い方なんだろう……?
……って、今はそれどころじゃないよな」
今回の作戦は遺跡が破壊されるのを食い止めるためではなく時間稼ぎだけのためのものであり、かなり厳しいものとなるだろうことは予測できた。上社はもともと温厚で好戦的なタイプではない。戦闘経験もまだ少ないが、実戦での経験を積むべきという考えと、ストークを持っている一人としてパラミタの存続自体に危機が迫っているのなら、何とかしたいという思いから今回の作戦に参加したのである。
「せめて薔薇の学舎の生徒として恥ずかしくない動きを……。せめて邪魔になる事だけは、避けなくちゃ」
緊張が心臓を締め付ける。
「発進、了解です」
プラチナブロンドの髪を無意識に掻き上げ、ローザは自機が格納された機動要塞からモニターに映し出された海岸線のナイトたちを残された右目で見つめていた。覆われた左の目は幼少時に病で視力を失っているのだ。銀色の髪を編み下げにし、生真面目そうな緑の瞳を忙しく各種データに走らせていたシェラ・リファール(しぇら・りふぁーる)は、ローザに呼びかけた。
「ローザ様、このナイトたちはどうやら今までのインテグラルの該当データにはないタイプのようです。
今までは個々に発見した『敵』に襲いかかってきていました。
ですが今回は白兵タイプと射撃タイプのものが連携を図っているようです。
それと……個体ごとの強さも均一ではないようです。かなり強力な個体もいるようです!」
「必ずしも倒す必要はありませんし、各々が連携が取れないように私たちはこの距離から牽制射撃を続けましょう。
相手の装甲が厚かろうとも、同じ箇所を狙い続ければ攻撃も通るはずです!」
わずか数年前までは箱入り娘だったとは思えない動きでフィーニクスタイプのイコンを操ると、待機距離まで艦を発進させる。
「行きますよ」
「はい、ローザ様」
4機のイコンは海岸線に接近する。攻撃と防御をかねて、まずシルフィードが動いた。最多くの対象を巻き込むべく、機体のセンサーに映し出されたインテグラルの密集エリアに向けて、絶対命中を上乗せした大型荷電粒子砲を発射して、すぐに高速移動で敵の反撃を避ける。同時に、ローザ機がインファント・ユニットとあわせてウイッチクラフトライフルでの遠距離射撃を開始した。
「少しでも、時間を稼ぎましょう」
「そうねっ! みんな無事に脱出してもらわないと!」
ローザの通信にミリアが答えた。素早く荷電粒子砲のチャージを開始し、ついでウィッチクラフトライフルでの狙撃に切り替える。
「高出力での攻撃を続けるとなると、エネルギー不足が心配ですねぇ〜。エナジードレインを使用します〜」
スノゥがてきぱきとパネルの上で指を躍らせる。
「ん〜〜っとぉ。こういう場合には……マニュアルの……33の項を参照のこと……?」
瑠璃がぶつぶつと目の前のモニターに該当ページを呼び出す。実戦中にマニュアルを参照しているのでは間に合わないのだが、危険な操作をされるよりはましと、ミリアは瑠璃放置している。
「……このへんのを〜こうしたらどうだろう〜?」
「……翠! 勝手にわからないとこ触らないの!」
忙しく攻撃と回避行動をとる合間も、ミリアの翠の行動チェックの神経は休まることはない。
「翠さん〜、ウィッチクラフトライフルの射程上限で攻撃です〜」
「はぁ〜い……」
スノゥの指示にしたがって、翠が操作パネルを叩く。
一方の近接部隊。シリウスのイコンは滑らかな動作で射撃タイプを優先して叩いていた。
「シリウスの決めてる通り、優先攻撃目標は射程の長い射撃タイプ。
捕えたら即時覚醒とデュランダルの規格外射程を駆使してで始末……いい作戦だね」
サビクが忙しく操作しながらシリウスに声をかける。
「遠距離攻撃での狙撃が一番怖いからな」
そんなシリウスのイコンの見事な動きを見ていた上杜にセンサー、レーダーと目視で敵の動きを慎重に見ていた戒が注意を促した。
「……近くに、敵が、います」
「わかった……。ええと……属性をうまく活かして攻撃しないと……」
実戦前に十分目を通した武装のマニュアルの内容を脳裏に浮かべ、上杜が斧を手にしたナイトの頭部に機晶ブレード搭載型ライフルで慎重に狙いをつけ、撃つ。だが敵は一体ではない。味方の弾幕をかいくぐって一体が突っ込んでくる。
「うわわわわ」
急いでレーザーマシンガンに切り替える。即座に戒が回避行動に移る。その動作はやや落ち着きをなくしている上杜とは対照的だった。戒の脳裏に日本の古い戦場で馬に乗り鎧を纏って激しい戦いに出ていた自分のイメージがぼんやりと浮かぶ。イメージの自分の頭には角があるが、他の人間に混ざって一緒に戦っている。今は記憶を失っているが、それは彼の過去なのだろうか。物思いに陥るのを防ぐため、戒は声に出して呟いた。
「今は目の前の戦場に集中しなくては……」
僚機の状況を通信から聞き取り、イコン操作に全神経を集中させる。
「……次、来ます」
「了解!」
上杜が言って、深呼吸をする。落ち着いて。慎重に行かなければ。
「後方の森から新手出現です! 荷電粒子砲で攻撃しますが、白兵タイプが多い模様。気をつけて!」
ミリアから緊急通信が入った。すぐにビームによる攻撃が炸裂したが、敵の数が多い。その上強化個体が混ざっていて、通常攻撃が通っていない。
「まずいです……そろそろ撤退しなきゃいけないのに」
シェラの声が響く。
「ここはひとつ……アレの出番だな。さぁて……いくぜ!!」
シリウスが言い、サビクに頷きかけた。
「オーケー」
二人はついで声を合わせる。
「リアクター、アウェイクン!!!」
機体が淡い光を帯びた。
一方の上杜も事態を見てヴィサルガ・イヴァの使用を決めた。
「よし……ヴィサルガ・イヴァ発動っ!」
「……発動します」
戒の言葉と同時に稀緋斗が強い光を放った。強い光を放つ機晶ブレードを構える。
敵陣に突っ込み、剣をハデに振るう。さすがの強化型インテグラル・ナイトも覚醒攻撃の前にばたばたと倒れた。
「覚醒は天学留学以来か……カンは鈍ってなかったな。……悪くないね。この剣も」
サビクがこともなげに言った。
ローザの機体が、撤退コースの座標を告げ、急ぎ4機は機動要塞に向けて撤退を開始した。
撤退してくる第2波を機動要塞のイコン整備デッキのモニターで見つめながらイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は呟いた。
「時間稼ぎだけでいずれ飲み込まれることがわたっか上での作戦、兵站を支える後方の私たちは任務重大ね。
しかもあまり準備時間のない状況での防衛戦……厳しそうね。少しでも稼働率をあげるよう頑張らなきゃ……!
準備万端とは全く言えないけど……それでもできる限り稼働率を上げていかないと……」
ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)がそんなイーリャを見て腕を腰に当て、尊大な態度でイーリャに言う。
「なーんか最近、すっかり整備班が板についてきちゃってるわねー。
ま、あたしが出るまでもない人材が育ってきてるのはいいことよね!」
ジーヴァはイーリャの娘といっていい存在であるが、親の心子知らず。長らくジーヴァはイーリャを劣等種族として軽蔑してきていた。だがそれは人の親子関係における思春期の子供と同様の心の動きとあるいは同じなのかもしれない。幾多の事件を共に乗り越えることで、少しずつではあるがジーヴァの心も成長してきている。
「今回もあたしは整備機体の状況把握と報告を担当させてもらうわ。ジーヴァは高圧的な態度を崩さず続けた。
あたしのテクノパシーやソートグラフィーは把握と伝達に便利だし機晶技術の知識はマ……。う、ゴホッ。
……イーリャほどじゃないけど持ってるしね。イーリャは後方の予備パーツ格納スペースの自機プロトタイプ・ストークを見やった。
(……何度も共食い修理――使えるパーツを同機種の修理用にあてることだ――しては後方でパーツ足してを繰り返してるから、もうプロトタイプだった頃の部品なんて殆どないけど……多少の役には立つかもしれない)
「ジーヴァ、大破した機体を共食い整備に使わせてもらってもいいかの確認を取って頂戴。
修理が間に合わなくなるかもしれないから、事前確認しておきたいの。
私は開発担当として第三世代機についてのアドバイスにも借り出される可能性があるから、頼むね」
「……わかった。ん〜〜〜。
今回数も多いし○×問答で機体状況を振り分けられるチェックシートとか用意できるといいんだけどな……」
「それなら湊川さんがトリアージプログラムを作ってくれて、出動するイコンにインストールしてくれてるようよ。
大分手間が省けると思うわ。ただし、目視とセンサーでの2重チェックも怠らないで」
「えー、なんでよ? そんな便利なものがあるなら任せておけばいいじゃない」
「プログラムはあらかじめ定められた項目のチェックしかしない。ダブルチェックする必要があるの。
それにそのデータをフィードバックすることで、プログラムの効率化を図ることもできる」
「……思ったより色々考えているのねっ!」
おそらく最後の一言は精一杯妥協したジーヴァなりの褒め言葉なのだろう。イーリャはジーヴァに微笑みかけ、データのチェックを再開した。亮一のトリアージプログラムをインストールした帰還中のイコンが、損傷率を送信してくる。そのデータの分析と状態分類を行いながら、併せて他の補給・修理拠点を持つ機動要塞とも逐次連絡を取り、おのおのの整備施設や人員の空き状況、部品の在庫状況などの連絡を取り合えす体制を整えた。
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