葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

【終焉の絆】滅びを望むもの

リアクション公開中!

【終焉の絆】滅びを望むもの

リアクション



先へ

 押し寄せる敵の波を前に水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は冷静だった。
 ゆかりはすぐにジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)に応援を要請し、後方にいたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)カル・カルカー(かる・かるかー)等と共に敵をせき止めることに従事していた。
「挟撃とはやってくれるわね!」
 ゆかりが防衛計画を練っておかなければ、スムーズにカケラたちを先へ行かせることは出来なかっただろう。
 ゆかりは今も尚戦況を把握するため、襲い掛かってきた敵が何体入るのか、その種類は何なのかを分析していく。
 一方、パートナーマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)はこの混乱に乗じて襲いくる伏兵がいないかを確認していた。
 閉所での戦闘。こちらからは確認しにくい場所などに潜む可能性もある。
 また、これだけの激戦ならば死体も転がる。
 それに紛れて不意をつこうとしている敵が入ることも考えられる。
 あらゆる可能性を示唆しながら、戦場を見渡す。
 幸いそこまで頭が回る敵はいないようだった。
「今の所潜んでいる敵はいないみたいだよ!」
「了解よ。聞いたとおりです! このまま攻撃を続けて下さい!」
 最前線で戦うジェイコブへゆかりが叫ぶ。
「そのつもりだ。フィリシア、後方を頼む」
 ジェイコブに名前を呼ばれたフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)は静かに頷く。
「わかりました。……皆さん! 怪我をしたらわたくしが治します! 怯まず戦いましょう!」
 いつものたおやかな彼女とは違い、凛としたフィリシアがそこに立っていた。
 その様子を見たジェイコブは心置きなく前で戦うこと出来るのだ。
 洞窟の壁という壁を自由に行き来するジェイコブ、まるで飛んでいるかのようだ。
 その動きをバスターゴブリン達は捕らえることができず、無駄に弾を乱射し、
 挙句の果てに兆弾をその身に受けて悲鳴を喚き散らす始末だ。
 それでもジェイコブを捕えようと、遮二無二構わず銃口を右へ左へと動かしていく。
「……なかなか頑張るじゃないか。だが」
 ジェイコブが横の壁を思い切り蹴りつける。
「オレは少しばかり気が短いんでな」
 鳳凰の拳がバスターゴブリンを打ち貫く。
 殴られたバスターゴブリンの骨格は今にも歪まんばかりだ。
「大人しくしてりゃあこんな目に遭わずに済んだのにな?」
 敵を急襲したジェイコブはすぐさまその場を離脱、その際に【シュバルツ】【ヴァイス】を踊らせつつ、銃弾を射出。
 バスターゴブリン達の悲鳴が重なり、洞窟内を埋め尽くす。
「微力ながら援護します!」
 同じく、【シュバルツ】と【ヴァイス】を手にしたゆかりが敵をロックオンする。
 最早人の領域では扱えない拳銃が同じ箇所に二対四丁。相手にとっては絶望的だろう。
 ただ銃を乱射するバスターゴブリンの攻撃は当たらず、
 射撃精度を高めたゆかりの攻撃は的確に急所を撃ち抜いていく。
「あと少しです。押すは今ですよ!」
 フィリシアは負傷した兵の下へ駆け、傷を癒していく。同時に心のケアも忘れない。
 流れは完全に契約者達側。
 押し寄せてきていたバスターゴブリンの波が、引く。

 これを見て、共闘していたカルはゆかりとトマスに叫ぶ。
「ここは僕達でどうにかする! 退路も絶対に確保する! だから先に行って!」
 カルの強き宣言にトマスとゆかりは頷き、先行しているコリマたちを追いかける。
 二人が先に進んでいく姿を横目で確認し終えたカルが、パートナーである夏侯 惇(かこう・とん)ドリル・ホール(どりる・ほーる)に叫ぶ。
「ここを切り抜けた後、退路の確保に移る! 二人とも全力で行こう!」
「そのつもりだ。総員、気持ちを十分引き締めてかかれ!
 ここ一番は攻め、次点では即座に守りつくぞ!」
 惇が部下達に活を入れる。
 四人一組の小隊を編成させ、常に連携を取らせながらバスターゴブリンの対処にあたらせる。
「こりゃ、想像以上に数が多いな。背後から来られたらおっかねぇよなぁ。
 だがまあ、そういう羽目にならないように、俺達が守らなきゃな、背中をよ」
「そうだ! トマス少佐、水原大尉は信じてここを任せてくれた……。
 その思いに報いなきゃ、僕は一生後悔する。だから死ぬ気で戦う!
 フライシャッツ隊、行くぞ!」
 カルの漢の咆哮に、惇は「ほう……」と漏らし、ドリルは「へっ言いやがる」と嬉しそうに鼻をさすった。
 きっと洞窟の入り口で待機しているジョン・オーク(じょん・おーく)がこれを聞いたら、「おやおや……」と暖かく微笑むことだろう。
 カル達、フライシャッツ隊が先頭に踊り出る。
 押され気味であるバスターゴブリン達だが、彼等にとってもここは重要な場所。
 取り返さないわけにも行かず、必死の抵抗。
 だから引かない。決して引かない。
「そこを、どけぇ!!」
 荒れ狂う敵からの銃弾を避け、弾きながら強引に進むカル。
 先頭に立っていたバスターゴブリンの懐へ滑り込み、
 口から内臓を全て吐き出させる気概で、右脇腹を抉り上げる。
 痛烈な一撃を見舞われたバスターゴブリンが宙に浮いたのも束の間、
 飛び込んできたドリルの拳がゴブリンの腹をぶち叩き、敵が群がる中心へと叩き落とす。
「二人とも横に飛べ!」
 惇の声に脊髄反射で反応し横っ飛びになる二人。
「総員、掃射ッ!」
 惇の号令と共に、部下達が手に持っていた銃を発砲する。
 バスターゴブリン達の照準の定まらない、意志の篭らない銃撃とは違う。
 必ず倒すという意志が込められた銃弾は、バスターゴブリン達を貫いていく。
「これで……!」

「「「終わりだっ!!」」」

 カル、惇、ドリルが同時にパンツァーファウストを発射する。
 
     ズガンッ!
ドガァン!!
            チュドーン!

 それぞれ三人が狙った位置へと被弾し、爆発がバスターゴブリン達を囲む。
 爆発に喰われた敵は黒こげになるか、半焼となり意識を混濁させた。
「油断するな! すぐさま通路の確保!」
 カルの掛け声に部下達はすぐさま自分の指示された持ち場へと走っていく。
 だがこれだけでは退路確保とはならない。
「後は任せた。トマス少佐……」
 先を進んでいったトマスの名前を呟き、作戦成功をしばしの間祈るカル。