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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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 父と仲間への報告
 
 
 
 佐賀県唐津市。
 海と山に囲まれた海産物豊富な片田舎に、鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)松本 可奈(まつもと・かな)を伴って墓参りの為に帰省した。
 真一郎がパラミタで暮らしている為、地球にある実家は父の親友であり、自分の元同僚でもある榊 和巳に管理を頼んである。墓参りの前にまずはそちらに挨拶をと、真一郎は和巳の家を訪れた。
 
 帰るという報告はしてあったので、和巳は家で真一郎の訪問を待っていた。
 彼は真一郎がパラミタに渡る前の傭兵時代、副隊長だった。父の鷹村司とは同郷の友であり、父の戦死と共に和巳は傭兵を引退した。
 白髪の目立つ短髪は変わらない。顔も、皺の数こそ増えたが精悍な顔つきも傭兵時代のままだ。
 部隊の半数を失う事故から、真一郎を後継者にと望む1人ではあったけれど、真一郎の『パラミタに渡る』という意思を尊重してくれた。他の者を説得してくれたのも、パラミタ行きを支援してくれたのも和巳だった。
「ご無沙汰しています」
 そう挨拶する真一郎に確かめるように視線を走らせると、和巳は満足そうに頷いた。以前会った時の真一郎と今の姿とを重ね、その成長を喜ぶように。
 
 挨拶が終わると、真一郎と和巳は連れだって司の墓前に参った。
 墓周辺が綺麗に掃除されているのは、和巳の管理のお陰だろう。大雑把で豪快な父と好対照に、和巳は思慮深く誠実な人格だ。幼かった真一郎は和巳を師匠と仰いでいた為、真一郎の人格形成には大きく和巳が関わっている。
 菊に飾られた墓を前に手を合わせ、真一郎は亡き父へ、そして父を通して部隊の仲間へと語りかける。
 年端もいかない自分を親代わりとなって育ててくれた部隊の者へは、未だ感謝しても仕切れない。その皆の期待に未だに応えられずにいる自分を不甲斐なくも思う。
「けれど、パラミタでは一応、仮にとはいえ士官になれました。傭兵時代の様な、戦争とその準備に追われる日々では見えなかったモノも見えてきたような気がします……」
 パラミタは平和な場所とは言えないが、それなりに充実した日々を送れている。
 それに、と真一郎は父に伝えたいと思っていたことを口にする。
「護る者も出来たので、今度来る時には良い報告が出来そうです」
「それはめでたいことですね。楽しみにしていますよ」
 ふ、と和巳は顔をほころばせた。父が生きていたら、こんな風に受け止めてくれただろうという表情で。
 あれこれと父に語りかける真一郎の言葉を、和巳は静かに聞いていたが、
「今後の事はまだハッキリとは決めていませんが、パラミタ統一までに部隊に戻るか、パラミタに永住するかを決めようと思っています」
 父の大好きだった日本酒を供えながら真一郎が言った時だけは、眉をぴくりと動かした。
 和巳は真一郎が最終的に成長して帰還し部隊に戻ることを望んでいる。けれど、その望みを真一郎に押しつけることはせず、ただ、彼の結論を待っていてくれる。それが真一郎には何より有り難かった。
 
 墓参りを終え、来た時よりもすっきりとした顔で真一郎は立ち上がる。その姿を気がかりにも頼もしそうにも眺めると、和巳は真一郎をそっと見守っていた可奈に頼んだ。
「息子を宜しく」
 ――と。