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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第27章 一年越しの決心

「建物の壁や天井、屋根は石で出来てるんだって。どれくらい時間かかったんだろうね」
 椎名 真(しいな・まこと)はモノトーンの町の光景を眺め、双葉 京子(ふたば・きょうこ)と一緒に散策する。
「今みたいな建て方とは違うのね?」
「そうだよ。人工建築だとピラミッドより高い建物もあるたいだし。確かレーベンハイル大聖堂のほうだったかな」
「凄い建物がいっぱいあるね」
「展示品や舞台演奏とかあるみたいだから行ってみよう」
 芸術鑑賞をしようとマハトヴォール城へ向かう。
「この壁絵がるところにそって行くみたいだね」
 今にも動き出しそうな君主の行列の壁画の傍を通り城の中へ入る。
「油絵よね?絵の奥行き感が階段、それに椅子に座ってる人たちもよく表現出来てるわ」
「なんか写真みたいな迫力があるね。この中で人が動き出しそうな感じがするよ」
「本当に動いたらびっくりしちゃうけどね」
「でもここはイルミンスールの中だから、ありえないことはないと思うんだけど」
「考えすぎよ。何でもそう思ってばかりいたら身動き出来なくなっちゃうじゃないの?あっ、開いた窓の傍で手紙を読んでいる女の人の絵、表情が読めないわね」
「どういうこと?」
「なんだか手紙の内容が、嬉しいことなのか切ないのか、よく分からないのよ」
 描かれているその女の表情は喜びと悲しみ、どちらともとれる表情だ。
「これは描いた人じゃないと分からないかもね。俺もさっぱり分からないよ」
「うーん、そうよね。こっちに陶器があるみたいね?」
 京子がそこへ行くと上の方にいくにつれて急なアールがかかったホワイトの柱や、天井のシャンデリアが通路の置くまで点々と続いている。
「ねぇ白い陶器があるよ、京子ちゃん」
「キレイだけど何だか荒々しい雰囲気ね」
 中央の台座に立つ富と栄光を手にている王のところに、市民が台をよじ登ろうとしている光景が表現されている。
「2階で舞台演奏が始まるから、そろそろ行こうか?」
「えぇ、分かったわ」
 2人は音楽鑑賞しようとコンサートホールへ入る。
「寒くない?喉乾いていたりとかは大丈夫?」
「ううん、平気よ」
 席につくと交響曲第9番が流れ始めた。
 バリトンや管楽器の楽しげな演奏を聴き、ゆったりとしたひとときを過ごす。
「249小節かな?この辺り、いい感じだね」
「私は241の方かしら。ちょっと幻想的な感じが素敵ね」
 数分間、会場内に響き渡るオーケストラの演奏に酔いしれる。
「終わったみたいね」
「最後にグリプスヒルフェ大聖堂に寄ってから帰ろうか」
「んー、そうね。それだけ見て行こうかしら」
 城を出ると2人はグリプスヒルフェ大聖堂へ向かった。
 暗い大聖堂の中をランタンや蝋燭が照らし、天井絵や淡く輝いている。
 灯りの反射でステンドグラスが建物内を美しく彩る。
「とってもキレイなところね。静かな雰囲気が素敵だわ」
「(ここは・・・大聖堂・・・バレンタインだよな・・・。今日くらいは、許される・・・よね・・・父さん・・・)」
 中の様子を楽しんでいる京子の方へ顔を向けてる。
「(一年前の俺は、想いを伝える勇気も受け止める覚悟もなかった。まだ未熟だけど・・・気持ちを伝える程度の勇気はやっとできた)」
 去年返事出来なかったことを、今この時に伝えようと彼女の元へゆっくりと近づく。
「何?真くん」
「あ、あの・・・。えっとバレンタインのプレゼントをあげようと思ってね」
「私にくれるの?ありがとう、真くん。大事にするわ!」
 真からチョコとブレスレットをもらい、アクセサリーをさっそく腕につけてみる。
「京子ちゃん・・・」
 蝋燭のほのかな明かりに受け、真剣な眼差しで彼女を見つめる。
「俺は・・・京子ちゃんが好き・・・なんだ・・・」
「私からの答えは…今は待ってもらってもいいかな?しばらくたって・・・真くんが答えを聞く心の準備ができたら、答えを聞いてほしいの」
 しかし彼女は首を縦に振らず、チョコの入った包みを握って顔を俯かせた。
「答えを聞くまで、今の関係のままでいてほしいの。主と執事・・・真くんの主として・・・」
 バレンタインの雰囲気の飲まれて告白したと思われたくない京子は、返事を返さないまま大聖堂を出た。
「うん・・・分かったよ」
 結局、告白の返事は保留にされてしまった。
 その後日、真は彼女から返事を聞いた。