葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

マレーナさんと僕(2回目/全3回)

リアクション公開中!

マレーナさんと僕(2回目/全3回)

リアクション

13.東園寺さんの災難

 噂では最近、夜露死苦荘住人の東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)に、隠し子の疑いがもたれているそうな……。
 
 ■
 
 その「陰謀」の仕掛け人桐生 円(きりゅう・まどか)は、単なる暇つぶしに、その計画を思いついたのだった。
「ひまひまー、何でこんなに暇なんだよ!」
 円は部屋をぐるりと見回す。
 答えは返ってこない。
 それもそのはず。
 ここにいる2名のパートナーは、どちらも下宿のモットーに従い、真面目に勉学に励んでいるからだ。
 
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は法律の勉強をしている。
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は漫画の勉強をしている……ん? 漫画?

「うん、『首刈り上等』とか
 漫画を全部読んじゃうよぉ!
 ひまひまだしね!」
 ……単なる暇つぶしだったようだ。
 
 2人は満足しているようだが、円はなにせつまらない。
「オーナーになれば、もっと面白いこと出来て遊べたのにさぁ!」
 そう、彼女は、元をただせばオーナーになって遊ぶために、この夜露死苦荘に来たのだった。
 前回の悔しさが、脳裏によみがえる。
「これも全部、あの東園寺ってやつのせーだ
 畜生、復讐してやる!」
 それは八つ当たりというものだろうが、円は良い考えのように思った。
 何よりも面白そうだ
「そういえば、東園寺の部屋に女の人来てたな
 噂の恋人だろうか……」
 すくっと立ちあがって、ちぎのたくらみで5歳の子供となった。
 オリヴィアに声をかける。
 
「オリヴィアー、変装グッズー持っていくよー?」
「変装? まぁいいわ持っていきなさいな。
 夕飯までには帰ってくるのよー」
 オリヴィアは勉強に忙しく、机から目を離さない。
「うん、ありがとうね」
 そうして円は、変装グッズ、つまり……
 
 5歳用の可愛い系の洋服(黄色いワンピース)、
 黒髪用のカラースプレー、
 黒のカラーコンタクト、
 
 に変身すると、涙用の目薬持って
「準備完了よし!
 じゃ、行ってくんね?」
 窓から飛び降りて、裏から玄関に向かうのだった。
 
 同じ頃。
 
 何も知らない東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は、自分の部屋に恋人のシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)を招待していた。
 シャノンは、特に夜露死苦荘で部屋を借りている訳ではなかったが。
 雄軒がここで部屋を借りてるっという事で、私服で遊びに来ていた。
 部屋には、四畳半の為、はっきりいってぎっしりといった感はある。
 が、雄軒のパートナーであるバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)も一緒で、それは興味深げに2人を観察している。
「ふむ、男女の仲は分からんな。
 これを機に、良くよく観察しておくぞ! ミスティー」
「ええ、覗きではないのよ。
 将来のために、必要なお勉強って奴だもの!」
 
「……オーナー争いには負けましたが、私には恋人がいます」
 2人の注目を浴びつつ、雄軒はシャノンを引き寄せる。
「シャノンという、素晴らしい恋人ですよ!
 だから、実質私の勝利です。ええ、きっとそうです」
「そうかな?
 嬉しいな、雄軒。ふふふ……」
 シャノンは人目もはばからず……いや、雄軒のパートナー達をじと見している。
(へえへえ、わかりましたよ)
 豆腐にぶつかって、死んじまえ! と言わんばかりの形相だ。
 バルト達が目を背けたすきに、2人は再びイチャイチャし始めた。
 
 髪の毛をなでたり。
 ぎゅっと抱きしめたりー。
 
「雄軒……せっかくだし。
 お手伝いでもしてこうかな? 買い出しとか」
 シャノンが甘い声で誘う。
「あまり得意じゃないけど、料理も……」
 フフ、なんだか夫婦みたいだね?
 シャノンの普段の知的で冷静さはどこへやら。
 いまは1人の可愛い女である。
 
 そこへ、マレーナに手を引かれた子供――円が、ドアを開けるや悲壮な顔で、叫ぶのだった。
「パパ! 雄軒パパ!
 どうしてママのところに戻ってくれないの?」
 
 ■
 
 同刻。
 
 マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)は、ニヤニヤとしながら2階にある雄軒の部屋へと向かっていた。
「二人っきりのところ邪魔しちゃ悪いけど、
 少しだけ様子を見てこよう♪」
 要するに、面白いからのぞきに行こう!
 という魂胆らしい……。
 ドアノブに手をかけて、やな予感。
「リジェネレーションでもかけておこうかな……」
 そんなバカな! とは思うが、万一ということもある。
「ハハハ、まさかね?」
 
 ガチャッ。
 ドアを開ける。
 
「雄軒兄さん、お久しぶり……」
 言い終わらないうちに、マッシュはサイコキネシスで飛んできた包丁の餌食となったのであった。
「でぇ! なんで……ほ、包丁!?」
 復活したマッシュの目に、修羅場な恋人達の姿が映る。
 
 ■

「マレーナさん、そのお子さんは???」
「あら、私……その、雄軒さんの御子様だと名乗られたものですから。
 つい……」
 マレーナは困惑して、2人を見比べる。
 
「パパ、会いたかったー」
 その子供は、雄軒に抱きついた。
「雄軒パパ、あたしだよ東園寺真美だよ。
 ママの所に帰ってきてぇ」
 シャノンさんを見上げて、目を丸くする。
「パパ? この女の人だぁれ?
『また』知らない女の人と住んでいるのぉ?
 この女の人もきれー」
「ゆ、雄軒……」
 シャノンの美しい顔が、次第に凍りついてゆく。
「ち、違うんですシャノン!
 誤解です!
 大体唐突すぎるでしょう!?」
 雄軒は必死で説得を試みる。
「私はパパではないです!
 大体シャノンの前の女性は……その……そういう欲求を満たす向けの場所の女性ですし……」
 真美は一瞬俯く。
 手に持った目薬をこっそり差すと、そのままうるうるとさせて。
「あたしの事は嫌いになってもいいから!
 ママの事は嫌いにならないで。
 ママ、パパが出て行ってから毎日泣いてるの。
 あたしじゃどうにもできないの……」
「貴方は何を言ってるんですかぁ!
 その口にピーマンをぶつけてやるぅ!」
 真美はピーマンを見ると。
「ひゃあ! !ピーマン嫌い」
 窓から一目散に飛び降りて逃げて行くのだった。
 そのままなぜか姿が見えなくなる。
「ふん! 光学迷彩ですか?
 どこのどなたか知りませんが、しゃらくさいです!」
 
「雄……軒……」
 それぞれのパートナー達は、既にその場にはいない。
 空気を読んで、出て行ってしまったようだ。
 2人きりの気安さからか? 張り詰めていたものが一気に崩れてしまった。
 頭を両手で抱えて、その場にうずくまるシャノン。
「愛してるって言ってたのに……あなたの事信じてたのに!
 私と一緒にいて幸せだって……あれは嘘だったの!」
 取り乱したシャノンほど、美しいが手に負えぬものはない。
「愛していたのに……いたのにぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「シャ、シャノン?
 もしもし?」
「あなたが、手に入らないのであれば……雄軒。
 雄軒を殺して、私も死ぬっ!」
 
 覚悟!
 
 そして部屋中を暫しの間、サイコキネシスで操られた包丁が、雄軒を追いかけるのであった。
 
 
 
 ……閑話休題(シャノンが落ち着くまでの間、お待ち下さいませ)。
 
 
 
「落ち着きましたか? シャノン」
 ぜえぜえと肩で大きく呼吸をして、げっそりとした雄軒がたずねる。
 本気のシャノンから逃れることは、実に命懸けだ。
「で、では、いまのこと総て。
 私の勘違い、てこと?」
 落ちついたシャノンは武器を落として、ガクリと両膝をつく。
「うん、タチの悪い奴の、単なるイタズラですよ。
 シャノンは悪くないです」
 
 ああっと。
 シャノンは両手で顔を覆った。
 
 言葉にならない感情が、彼女を包む。
 
 この人は、私の魂の片割れ――。
 一緒にいる時間が、とても心地よくて、
 私にとって、かけがえのない人。
 だから、彼がどこかへ行ってしまうのがすごく怖いんだ……。
 
「嫌いにならないで……雄軒……。
 私、馬鹿だよね? ごめんね……」
「馬鹿ですね? シャノン」
 雄軒はシャノンの額にそっと唇をあてる。
「だから言ったでしょう?
 素晴らしい恋人ですって!」
「雄軒っ!!」

 そうして、ラブラブに戻った2人を窓から眺めて、円は、
「あー面白かった!」
 そう言って、傍らのマレーナを見上げるのであった。
「マレーナさん、本当はお見通しだったんでしょ?」
「さぁ……?」
 マレーナは寂しげに笑って、管理人室へと戻って行くのであった。