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リアクション
〜〜試練の塔〜〜
「いいかげんにしろ! この――」
馬鹿兄貴!! と続けようとして、できなくて。代わりに風祭 隼人(かざまつり・はやと)は右の拳を繰り出した。
ストレートに決まるかと思った、しかし風祭 優斗は迫り来る拳ではなく二の腕を右拳で殴り、その勢いのままに肘打ちを顔面にブチ当ててきた。
「ぐっ……」
眉間に喰らった為か、視界が僅かに飛んだ。それ以上に体も宙に浮いていたが、隼人はどうにか空中で反転して着地した。
――俺なら蹴り上げる。
思ったままに横に跳び避けた。優斗の脚がすぐ横で空を切った。
「だっ!!」
狙いは体を支える一本脚。身を屈めたままに蹴り払った。
――よし! ここだっ!
渾身の力を込めて繰り出した拳に、正面から、尻を着いた体勢のままに優斗は拳で返してきた。
「ぐっ……」
ぶつかったままに力比べ。押し切って思い切り殴ってやる、そう思っているのに動かなかった。
――こんな所にまで出て来やがって…… どこまで迷惑かければ気が済むんだ。
武器を捨てて戦った。全く同じものを装備していたのに優斗が先に全部を捨てたから。双子の兄弟『戦うなら拳で』だろ? といった所なのだろうか。
――ったく、妙なところで男らしい……
力だって拮抗してるんだ、決着だってなかなかつかない、見てみろ、拳が痛くなってきたじゃないか。
――その男らしさを……
考えていたらバカらしく思えて、苛立ってきた。
――こんな所で俺にみせてどうする。
色んな人の顔が浮かんできて、優斗のパートナーたちの顔も浮かんできた所で―――爆発した。
「その男らしさを! ちったぁ女の前で示しやがれ!! そうすりゃみんなを悲しませる事にはならねぇだろうよ!!!」
「!!!」
「ぉぉぉおおお!!!!」
瞬間に力が緩んだ、その隙に。優斗の頬へ拳を叩き込んだ。
力なく横たわった優斗の体は煙となって消えていった。
「ふぅ」
どうにか勝てた。本物ではない優斗が動揺するかどうかは賭だったが、どうにか上手くいってくれたようだ。
「………………」
本当は怒りをぶつけただけ……。いや、挑発して隙を作るために言っただけでその、普段は絶対にあんな言葉で怒鳴ったりしないし……
「はぁ……」
成仏するように消えゆく優斗の様を見ながら、「俺…… 溜まってるのかな……」と漏らす隼人であった。
――ばかな! ありえない!
青葉 旭(あおば・あきら)は思わず顔を上げて見上げみた。そうして見てもそれは何も変わらずに、いやむしろ先程よりもずっと思い詰めた顔をしていた。
己の聞き違いを疑う旭、それを遠目に見ているのはパートナーの山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)だった。
――さぁて、どうするのかにゃぁ。
跪くは旭、それを見下ろしていたのはミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)だった。
「この国のために、お前は今ここで死ぬべきだ。死をもって償いとするのだ」
ミルザムが言った言葉。彼女を心から尊敬し、また敬愛する旭にしてみればそれは「自害しろ」という事を意味している。彼女の手を汚させるような方法を旭がとれるはずはないからだ。
――試練、まさに試練だにゃ。
口は出さない、そう決意して旭についてきた、だから旭がどんな答えを出そうともワタシはそれを見届ける。ミルザムが現れた事にも彼女の発した言葉にも、にゃん子の心は少しも揺らされる事はなかった。強い決意と共に、ここに立ったのだから。
一瞬で崩された。旭の決意はどうやら表面だけが堅い殻だったようだ。
どんな試練が待ち受けていようとも自分は決して屈しない、そう心に誓ったはずなのに。今は、信じるものさえ見失いかけていた。
「この国の王はネルガル。王に逆らう真似をした者は死罪に値する」
旭はもう、頭を上げてはいられなかった。
――ミルザム様がネルガルに与するような真似を……
頭の隅で叫ぶ者がいる『これは塔の試練なんだ! 目の前に居るミルザム様は偽物だ』と。
それでもしかし彼女の顔は、死を命じた彼女の顔には『死を命じる事への覚悟と悲壮感』が混ざっていて。それは正に数々の死線をくぐり抜けてきた彼女の、彼女だから出来る顔だった、旭にはそう見えた。
――俺は……………… 死ぬ。
この命は彼女に捧げるためにある。
――俺は………… 死ぬ。
彼女が出した結論ならば。
――俺は…… 死ぬ。
彼女を疑うその前に。
――俺は、死ぬ。
『クレセントアックス』の刃で己の首を刈り斬った。
噴き出した血が地に溜まった時、2人は現世へと帰還した。それでも旭だけは48時間もの間、死んだように眠り続けるのだった。
「解けてきたぜ、ラグズグさんよ」
距離や大きさを見誤せられる火球の謎。マントもワンピースの裾も何度も焼かれてボロボロだった。
しかし仮説は立てた、あとはそれを確証に変えるだけ。
再びに古龍ラグズグの口から放たれた火球を瓜生 コウ(うりゅう・こう)は一歩も動かずにじっと見据えた。
――本当に見せたくないものは目立つものの傍に隠せ。
誰の言葉だっただろうか、ふと思い出した言葉が脳裏によぎった。して、それが仮説を後押しした。
火球の中央に紅く燃える核、そしてその周りに炎を纏っている。が、これを信じるから見誤る。
『魔銃モービッド・エンジェル』で纏った炎のさらに外側を狙撃した。視覚に頼るなら、そこには何もない、銃弾は空を裂いて突き進むはずだ。結果、銃弾は火球の真横で焼失した。
「やはり」
中央の核、その周りに纏う炎、そしてさらにその外側に炎を纏っている、それが避けても避けられない炎の正体。
初めは赤かった炎も温度を上げると青白くなる。銃弾を一瞬で焼失させるほどの高温度に加え、透明度を増すような仕掛けも当然あるのだろう。しかしカラクリが分かれば、どうという事はない。
溶けたマントの長さから計算すれば、見えない炎の範囲も割り出せる。火球に向けて駆けだして、大きく避ける、そして一気に龍の懐へ飛び込んだ。
無傷で火球を避けきった所で世界は崩壊を始めていた。謎を解ければ勝ち、という事だったのだろう。
「ふぅ」
安堵に吐いたため息と共に疲れがドッと押し寄せた。力なくそのまま座り込んでしまった。
「あ―しんどい」
一体どれだけ走っただろう、跳び回っただろう。
つ―か、一体どれだけ火球吐けるんだっての。老龍だって聞いてたから最悪謎が解けなくても持久力で勝てるかも、なんて思ったりもしたのに。
「まぁ、さすがに終盤は炎の範囲も小さくなってたみたいだけどな」
全盛期の体力があったなら謎を解く前に直撃を受けてやられてた。へっ、それでも勝ったのはオレなんだ、文句は言わせねぇ。
「今回の知恵比べはオレの勝ちだ」
次があっても絶対に負けない。
新たなライバルを得たような、そんな清々しさを感じてコウは階上への階段を目指して。ゆっくり歩き出した。
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