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神楽崎春のパン…まつり

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神楽崎春のパン…まつり
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「引越し、早く終わらせてパンパーティ早くしたいねー」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、校門前で自分が担当するダンボールの到着を待っていた。
「そうですわね。パンだけではなく、デザートなどもあるようですし」
 答えたのは、貴音・ベアトリーチェ(たかね・べあとりーちぇ)
 パートナーの天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)と一緒にヴァイシャリーを訪れていたのだけれど、ヒロユキは男性でありアレナ達と面識もないため、こちらには来なかった。
「あたしパンナコッタ大好きなんですー。最近食べてなかったから、沢山食べたいなぁ」
「パンプキンパイや、パンケーキもあるそうですわね。楽しみですわ」
「優子さんの手作りパンももちろん楽しみー」
「数も種類も沢山用意してくださいそうですわ」
 荷物を待ちながら、2人はパン…類を想像しながら、嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
「衣類はこちらで最後です。どうか、お気をつけて」
 校門までの運搬を担当している女性と一緒に、ロザリンドが現れる。
 彼女の表情はとても厳しかった。
 校内で変質者っぽい人物が出たとか、小さな悲鳴をなんども聞いたとか、ぼろぼろの服で、抱き合っておびえている少女達を見たとか、そんな噂を聞いたから。
「既に、新たな事件は始まっているのでしょう……」
「それはともかくとして、よろしくー」
「早く終わらせようねー。パン〜♪ パン〜♪」
 厳しい表情のロザリンドとは違い、彼女のパートナーのテレサメリッサはいつも通り陽気だった。
「えっと……ロザリンドさん、疲れてますか? 大丈夫です、あたし達に任せてください」
 歩が受け取ったダンボールは、主にズボン類が入ったダンボールだった。
「アレナさんはワンピースってイメージだったからなぁ。パンツはいてるのは優子さんってイメージだったかも……。でも結構きりっとしそうで良いかもねー」
 確認した歩は、そんな感想を漏らす。
「アレナさんは、十二星華のサジタリウスさんなのですよね。最近はネットでもお写真をお見かけすることあるのですが」
 貴音もダンボールを1箱受け取りながら、ふと思い出したことを口に出していく。
「そういえば、サジタリウスさんのお姿を拝見したヒロユキが、数年前に死んだ妹に似ていると言っていましたわ。剣の花嫁だから誰かに似るということは、よくあることですが……アレナさんは、神楽崎優子さんの大切な人の姿をしているのでしょうか」
「どうなんだろうね……。契約の時に、大切な人の姿になるものだけれど」
 歩がロザリンドを見るが、ロザリンドも知らないと首を左右に振った。
「そうですか、与太話失礼いたしました」
 貴音はそう微笑んで、受け取ったダンボールを台車に乗せた。
 作戦については、皆と相談済みだった。
 彼女が受け取ったダンボールはダミーだ。
 後数箱、校門前にはダンボールが置かれている。
 これもほとんどダミーというか。
 普通に未使用の下着が入っている。使ってないけれど、今回アレナと優子の為に用意されたのもなので、2人の所有物の下着ということになる。
 本人達が選んだものでもないのだけれど。
 こちらは、最終的に引越しを手伝った女性達で分ける予定だった。アレナや優子の手に渡るものもあるだろう。
「次、運ぶよー!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と共に、走って戻ってきた。
「どんどん任せてね。何往復だってするんだから……」
 美羽は微笑んでいたが、目は笑っていなかった。
「よろしくお願いします」
 美羽は信頼できる人物だ。厳しい顔つきでロザリンドがダンボールを任せる。
 ダミーのダンボールだが、中にはそれっぽい物が沢山入っている。
「任せて……!」
 美羽は強く瞳をきらめかせてダンボールを受け取ると、一旦開いて、持っていたスーツケースを混ぜ込んだ。
「これで最後?」
 天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)とパートナー達が、空から下りてくる。
 沙耶達は空から見回って、街の様子や、変態達の動きを確認した後、最後の荷物を運ぶために下りてきた。
 人が多すぎず少なくもなく、出来るだけ見通しの良いところを通って、宿舎に向かうことにしている。
「無事に運ぶことを目標に頑張ろうね!」
 クローディア・アッシュワース(くろーでぃあ・あっしゅわーす)は、ダンボールをひとつ、自分の飛空艇に乗せていく。
「4人一緒に移動して周囲に注意していれば、接近には気付くと思いますけれど……理解の出来ない方々のようですし、十分用心しておきませんとね」
 シャーリー・アーミテージ(しゃーりー・あーみてーじ)も、厳重にダンボールを飛空艇に括りつけていく。
「あたしは、荷物運びは無理そうだから、周囲の警戒しっかりやるね」
 アルマ・オルソン(あるま・おるそん)は、一人だけ空飛の箒に乗っている。
「皆さん、気をつけてくださいね。それじゃ、パーティ会場で!」
 歩が担当するダンボールはそんなに大きくはないこともあり、歩いて運ぶことにした。
「それではまた後ほど」
 貴音も歩と一緒に歩いて向かうことにする。
「うん、パーティ楽しみだね。それじゃ、先に行ってるよ」
「あとでねー」
 沙耶が飛空艇を発進させる。
 アルマも浮かび上がって、沙耶より前に出た。
 荷物を積んだ、クローディアとシャーリーが2人の後に続いていく。

「前の方も、周りにも何も見当たらないわ。変な気配も今のところないけど……」
 箒に乗って飛びながら、アルマはなんだか嫌な予感を感じてしまう。
「見通しも良いですし、そう簡単には襲撃などはされないはず、だけれど……!?」
 アルマは下方にキラリと光るものを見た。
「何か来るわっ!」
 飛空艇に乗っている皆は箒に乗っているアルマより、地上がよく見えなく小回りもきかない。
「うわちゃっ!」
 沙耶は通過していったものに驚く。
 それは、矢だった。
 塔からの攻撃のようだ。
「相手も必死というわけねっ! 渡さないんだから」
 クローディアは、速度を上げて沙耶の横へと出る。
「こちらは、私が守ります!」
 シャーリーも反対側の横を守る。
 箒も、飛空艇も戦闘に適した乗り物ではないから、これ以上高度を上げて有翼種の変態に囲まれたりしたら、分が悪くなる。
 低空飛行は更に狙われやすくなるだろうし……。
「とにかく急いで宿舎に……あっ!」
 矢の接近を察知し、クローディアは咄嗟に自らの飛空艇で防ごうとしうた。
 矢は彼女の後ろに積んであった、ダンボールに突き刺さり、大きな穴が開いた――。
「こっちにも……っ」
 別方向から迫る矢は、シャーリーが防いだが、同じくダンボールに傷がついてしまう。
 2つのダンボールから中身がこぼれ落ちていく。
「地上に降りよう! 先に行った皆もいるし」
 既に宿舎近くまで着いていた。4人は急いで乗り物を降下させて地上に降りていく。
「こっちは大丈夫。皆、ありがとね」
 地上に到着して直ぐ、沙耶は自身が預かっていたダンボールを確かめた。
 沙耶達が持っていたダンボールの中で、アレナが普段使っている本物の衣服が入っていたのは、沙耶が持っていたものだけだ。
「ダミーも出来れば、宿舎に届けたかったけどね」
「早く運んでパーティの準備手伝おうっ」
 アルマが沙耶を手伝って荷物を降ろす。
「アレナさんの手に渡すまで、油断できないね」
「宿舎の周りに潜んでいる可能性もありますから」
 シャーリーとクローディアは最後まで油断せず、2人を守りながら、急いで宿舎へと駆け込んでいった。