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2021年…無差別料理コンテスト

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第4章 エリのためにエリだけに

-コンテスト当日-

「急いで準備だけ済ませちゃいましょう♪」
 大切な任務のために神代 明日香(かみしろ・あすか)は大急ぎで、キャベツを大きすぎないように、包丁でザッザクと切る。
 それは・・・。
「きっと今頃、1人で着れなくって困ってるでしょうね、フフフッ」
 エリザベートに浴衣を着付けをするという、最重要事項を遂行するためだ。
「お肉も切り終わりましたし。そろそろ・・・・・・」
「明日香〜っ。ちゃんと浴衣を着てきていますねぇ?とっても似合っているですよぉ〜♪」
 少女の方から現れ、ひょこっと屋台の傍から顔を覗かせる。
「あらあら。今、行こうと思ってたんですよ?」
「浴衣が上手く着れなくって・・・。手伝って欲しいですぅ〜」
「いいですよ。向こうでお着替えしましょうか♪」
 和室へ連れて行き、着付けを始める。
「両手を肩の辺りまであげて、ちょっとじっとしててくくださいね」
 裾の外にくる側を右の腰骨に合わせておく。
「は〜い」
「着崩れにくくしといてあげますね〜」
 裾を入れ替えて、内側の裾を斜めに引き上げる。
 外側の裾を被せて少し引き上げて腰に紐を結び、脇のところから両手を入れて背中のたるみをとる。
「いつもありがとうございますぅ〜」
「いえいえ。エリザベートちゃんのためなら、これくらい当然ですよ♪」
 ニコッと微笑みかけ、彼女の浴衣の襟を左右引いてさばき、お腹の辺りを整えて襟を合わせる。
 胸紐を結んで両手で背中の皺をぴしっととる。
「そのままじゃ食べづらいですよね?私がセットしてあげますね」
 少女の長い髪を優しくクシでといてやり、三つ編みに結わいてあげる。
「はい、完成です♪」
「フフッ。では、さっそく審査してきますねぇ〜」
「まだ何も食べてないんでしたら、私のところに来ませんか?」
「行くですぅ〜!!」
 お腹ぺこぺこなエリザベートは、トコトコと明日香の後についていく。
「ぱぱっと作っちゃいますからね♪」
 取り皿を手に待つエリザベートのために焼きそば作りに戻った彼女は、豚肉とキャベツを一緒に鉄板で炒める。
「いったん火を弱くしておきましょうか」
 肉が硬くならないように火加減に気をつけながら、麺を水でほぐしパッパッと水をよくきる。
「味は濃いめでお願いしますよぉ〜」
「分かりました〜♪」
 麺を加えて少しだけ火を強め、ヘラを使い麺がつぶれないように、持ち上げるように・・・。
 挟み込むようにジュージューッと混ぜ合わせ、エリザベートのお好み通り、濃いめにソースの味付けをする。
「エリザベートちゃん、お皿をこっちにください」
「はいっ」
「得盛ですよ♪」
 皿に盛りつけて紅しょうがと青のりも、いっぱい大サービスする。
 “在り来たりであるがゆえお祭りらしい焼きそば”でも、エリザベートだけ量が違いすぎる。
「ほどよい焼き加減も、味付けも最高ですぅ〜。私のために作ってくれたところも、素晴らしいですねぇ〜♪」
「ん〜・・・。でもこれじゃ、無差別級には程遠いね。もう少し工夫した方がいいんじゃない?」
 エリザベートとは真逆にミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は辛口コメントをぶつける。
「お水もどうぞ、エリザベートちゃん♪」
 しかし明日香は酷評を気にせず、エリザベートの世話ばかり焼いている・・・。



「クナイは気になるお店ある?」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は逸れないように浴衣姿の彼と手をつないで歩く。
「そうですね、どこもまだ準備中のような気がしますけど。ん・・・向こうで焼きそばを作ってるみたいですよ」
 彼の浴衣の袖をちょいちょいっと引っ張り、明日香の屋台を指差す。
「定番もの出すなんて気になるね」
「とてもいい香りがしますね。行ってみませんか」
「うん、何か工夫してるかもしれないし」
 あえて出店の定番料理を出してきたのが気になり、試食してみることにした。
「試食させてもらってもいい?」
「2人前ですね、味付けはどうしますか?」
「ちょっと薄めがいいかな。他の店でも試食したいし、お腹いっぱいにならないようにね」
「ソースを少なめにして・・・はい、お待ちどうさま」
「そっちの、すっごい大盛りだね・・・」
 明日香にもらった量を見比べた北都が、目をまんまるにする。
「人によって調節してくれるんじゃないんですか」
「う〜ん、そうなのかな?そんなに、いっぱい食べるわけじゃないけどね」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)の言葉に、そういうものなの?と首を傾げて得盛を頬張るエリザベートを見つめる。
「見た目は普通の焼きそばですね。北都、味はどうですか」
「美味しいと思うけど。ねぇ、特別に工夫してることとかあったりする?」
「えーっと。お祭りの雰囲気に会わせてみようかと思いまして。工夫といえば・・・焼き加減に気をつけたり、上品な味付けにしないとか・・・野菜の大きさとか・・・。そのあたりですね」
「確かに大量に作って売ってるような焼きそばより、美味しいかも」
 明日香の説明になるほど、と頷き普通のよりぜんぜん美味しいのかなっと言う。



「料理ものだけじゃなくって、デザート系もいっぱいあるみたいですね。―・・・あっ、涼司くん!」
 どこの屋台で試食させてもらおうかな、と考えていた火村 加夜(ひむら・かや)が、焼きそばが出来るのを待っている山葉 涼司(やまは・りょうじ)を見つけた。
「おっ、加夜じゃないか。こっち来いよ!一緒に食おうぜっ」
「うん・・・!」
 ニカッと爽やかな笑顔で呼ぶ彼の傍へ、ぱたぱたと嬉しそうに駆け寄る。
「濃い味の焼きそば、どうぞ」
「美味そうだな!加夜、先に食うか?次出来るの待ってるからいいぜ」
 明日香からほかっほかの出来立てを受け取り、俺はもう1つ注文するからと加夜に渡そうとする。
「えっ?ううん、涼司くん先に食べて。冷めちゃいますし」
「そうか?」
 奥ゆかしく遠慮する彼女に、涼司は先にむしゃむしゃと食べる。
「私ももらおうかな・・・。ちょっと薄味のを、1つください」
「はーい。薄味1人前、お待ちどうさまです」
「ありがとうございます。うん・・・美味しい」
「定番だけどさ。出店っていったら、やっぱり焼きそばだよな!ここは注文に合わせて、味付けしてくれるしさ」
「うん、香りもとてもいいですし」
「問題があるとすれば、あれだな・・・」
「え・・・っ、とっても美味しいですよ。涼司くんだけ、何かたりないのがありました?」
 彼が手にしている焼きそばと自分のと比べてみるものの、紅しょうがとかもちゃんとあるのに・・・と、不思議そうに首を傾げる。
「そうさ、たりないんだ・・・量がっ!!」
 ズビィイイイッ。
 エリザベートが食べている大盛りを指差す。
「私のは特別サイズなんですぅ〜」
「そんなのひいきだろ!」
「やめて涼司くん!また注文すればいいじゃないですか」
「これは明日香が私のために作ってくれたんですからぁ〜。ねぇ〜明日香♪」
 止めようとする加夜を無視して、エリザベートは火に油を注ぐようなことを言う。
「おかわりとか言う前に、全部なくなりそうな気がするんだけどっ」
「これは私のですぅ〜っ」
「フフフッ♪そうですよ〜エリザベートちゃん。もう1つ得盛お待ちどうさまです!」
「あれか?エリコンなのかっ!?」
「エリザベートちゃん、お口あ〜んしてください♪」
 涼司の声を無視して明日香はエリザベートに焼きそばを食べさせる。
「とても美味しかったですぅ〜」
「食べ終わりましたか?お口を拭いてあげますね」
 満足そうに言う少女の口をティッシュで拭いてやる。
「ちぇっ。俺も人前でそんなことないのにさ・・・」
「―・・・えっ!?」
 ぼそっと言う涼司の呟きに、加夜は林檎飴のように頬を赤らめる。
「なっなんでもない!さっさと食っちまおうぜっ」
 彼女に聞かれて急に恥ずかしくなったのか、一刻も早くその場から逃げたいと慌てて焼きそばを食べきる。
「ふぅ・・・ごちそうさまっ。さてと、次は何食おうかな・・・」
「あっ!待って」
 ささっと屋台から離れようとする彼を呼び止める。
「ん?どうしたんだ、加夜」
「えっと・・・もしよかったら。一緒にまわりませんか?」
「いいぜっ、一緒に行こう!」
 加夜の手を握り、美味しそうなのがないか探す。
「りょ、涼司くんっ」
「何だ?―・・・おわっ!?ごめん!!」
 彼女の声に今にも沸騰して頭から湯気が出そうなほど、赤面してぱっと手を離す。
「―・・・ううん。ちょっとびっくりしちゃっただけです」
「そっか・・・。なぁ、どこの屋台に行ってみようか?何か美味そうなのがあるといいな」
「う〜ん、デザート系も食べてみたいですね。(やっぱり手をつなぐのも・・・まだ照れちゃいますね)」
 加夜の顔を見ずに片手を差し出す涼司と手をつなぎ、恥ずかしさをごまかそうとする浴衣姿の彼を見つめる。