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リアクション
14
ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が、恋人であるナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)にプロポーズをしてから早半年。
そろそろきちんと式を挙げたいと考えていたところに、ジューンブライドキャンペーンの話が舞い込んできた。
ナナにキャンペーンの話をし、この機会に式を挙げようとまとまって。
今日、ルースはナナと結婚できる。
結婚式といえば教会。
なので、選んだ場所は厳かな雰囲気が漂う教会にした。聖堂にあるステンドグラスがとても綺麗な教会。
つつましく行いたいという希望もあって、招待客として呼んだ数はあまり多くない。二人のパートナーや親しい友人くらいだ。
音羽 逢(おとわ・あい)、フロッ ギーさん(ふろっ・ぎーさん)、橘 カオル(たちばな・かおる)、李 梅琳(り・めいりん)。
見守られながら、中央の道を二人は腕を組んで歩いた。神父様の前に立つ。
「オレは、どんな時でも彼女を愛し続けることを誓います」
誓いの言葉を述べる。
隣に立つナナを見た。ステンドグラスから入る日差しに照らされたウェディングドレス。宝石のように輝いていて、とても綺麗だ。
「ナナは、一生をルースさんと共に歩んでいくことを誓います」
言って、ナナが笑った。ヴェール越しでも幸せそうな笑顔だということがわかる。
ルースも笑んで、ナナの手を取って指輪交換をした。
「そんなに高価なものではないので申し訳ないのですが」
「愛があれば問題ないのです」
「ですかね」
「なのです。ナナからも指輪を嵌めさせてください」
ナナの細い手がルースの手を取った。指輪が嵌る。この後に待っているのは誓いのキスなのだけれど、
――緊張する、なぁ。
キスなら今までに何回もしてきたのに、どうしてこんなに緊張するのだろう?
――そもそも男が緊張してるなんて情けないなぁ……。
思わず苦笑が漏れそうになった。が、こらえた。意を決してヴェールをあげる。ナナの目とルースの目が合った。ナナが身を任せるように瞳を閉じる。そっと顔を寄せて、触れるだけのキス。
「ルースさん」
口付けたときに、緊張が伝わってしまったのだろうか? ナナがルースを見上げてくる。
恥ずかしさと情けなさが混ざって、これはひとつ男らしいところを見せねばという気持ちになった。ナナを、抱き上げる。
「ルースさんっ?」
「お姫様抱っこです。いいところ見せないと、ね?」
「ふふっ」
ナナがルースの首に抱きついた。頬にキス。ああ、喜んでいる。やっぱりナナは、乙女趣味なところがあるなあと愛しく思った。
「ルースさん。ナナは嬉しいのです」
囁くように、ナナが言う。
「家族ができることが。こんなに、嬉しいという気持ちが溢れていることが」
満面の笑みで。
「今まで、あまり感情を表に出せませんでした。けど……ルースさんのおかげで……こんなにも、笑えるようになりました」
「ナナ……」
「ルースさんだけに向かって、心から幸せを感じたとき、自然と笑みが溢れるのです。それは、とても幸せなことだと思います。嬉しいことだと、思います」
「オレも、すごく嬉しいです。ナナが喜んでくれることが、これ以上なく。
ナナ。これからもいろいろあるかもしれませんけど……二人で幸せになりましょう。世界中の誰よりも」
「はいっ」
頷いたナナが、満面の笑みを祝福に来てくれた人々へ向け、ブーケを投げた。
幸せのお福分けをするように。
せっかくのナナの晴れ舞台。婚礼の儀。
とあらば腕を揮うしかあるまいと、逢は料理を作っていた。新郎新婦や、客人に振舞う料理だ。
豪華絢爛とまではいかないホームメイド風の料理だが、懐かしき優しさと暖かい家族が似合うような夫婦だ。よく合っていると逢は思う。
メニューは、ミートパイや七面鳥の丸焼き。新鮮野菜のサラダ。そして、ウェディングケーキには見劣りしてしまうが、木苺のタルト。
「拙者、渾身の力を込めた作。ご賞味くだされ!」
ずいっ、と皿に乗せたタルトをナナとルースに差し出した。
「逢様……」
ナナが逢の名前を呼ぶ。が、それを逢は手のひらを向けて制した。
「拙者の名は、ミス・ブシドー……またの名を、マスク・ザ・ブシドー」
逢の言葉に、ナナが目をぱちくりさせている。
「主でありお慕い申し上げるナナ様のご婚礼を機に、今後はこの仮面を着け、そっとナナ様の幸せをお守り致す所存」
目元から鼻まで覆うマスクに触れながら、決意の言葉を。
けれどナナは、逢の言葉を受けて首を横に振った。なので今度は逢が目を瞬かせることになった。
「ミス・ブシドー様。今度はナナのためではなく、自身の幸せのために生きてくださいませ」
「ナナ様……まさか、拙者の行動は迷惑でござるか?」
「いいえ、いいえ。そんなことはございません。ナナは、ただ、ミス・ブシドー様にも導きがあることを祈っているのです」
「…………」
思わず黙ってしまった。導き。それはどのようなものだろう。逢としては、ナナの幸せを守り通したいのに。
沈黙が落ちたとき、オルガンの音が響いた。
「っかー! めでてー席だぜー!」
フロッギーが、オルガンに向き合って演奏しながら声高々に告げている。
「ナナ・マキャフリー! それからルース……ルース・マキャフリー! オレからの贈り物だぜええぇぇ!」
激しくも場違いではない、不思議なメロディが場を包んだ。
「オレの歌を聞けーっ!!」
響くはフロッギーの歌声。幸せを願い祝福する歌。
「拙者は……いえ、拙者らは。何よりもナナ様の幸せを願っているでござる」
「ミス・ブシドー様……」
「ですが。ナナ様が願うなら、拙者も……自分の幸せを探してみるでござる」
そうすることが、ナナの願いなら。
叶えないわけにはいくまい?
話が終わったタイミングで、オルガンの前から降りてきたフロッギーがナナに近付いてきた。
「これからも、その綺麗な歌声で多くのファン達を魅了してくれよな! 導かれし冥土福音、ナナ・マキャフリー!」
グッと親指を立て、笑顔でフロッギーが言う。
「フロッギーさん様。ナナに更なる音楽の楽しさを与えて下さりありがとうございます。これからも、時にはソロで時にはご一緒に、まだ見ぬフロッギーさんファンのみなさまへと、歌を届けるのです」
ナナも慣れないながらに親指を立てて微笑む。
暖かな雰囲気が、教会を包み込んでいた。
式が終わり、披露宴も終えた帰り道。
「ルースもナナさんも幸せそうだったなー」
歩きながらカオルは言った。繋いだ手の先には梅琳が居る。梅琳のもう片方の手にはナナの投げたブーケがあった。
「そうね。素敵な式だったわ」
楽しそうに笑って、梅琳が言う。
――梅琳は、結婚についてどう思ってるんだろ。
カオルは梅琳のことを大切な人だと思ってる。梅琳がどう思っているかはわからないけれど、好かれてはいるはずだ。
いわゆる相思相愛の関係だけれど、結婚となるとどうなのだろう。
――つっても、まだ早いけどさ。
「なーメイリン」
「なあに?」
「メイリン、結婚についてどう思う?」
「結婚って……カオルとの?」
小さく頷いた。梅琳が黙り込む。考えているようだった。
しばらく歩いてから、「私は」と答えが切り出された。
「カオルと一緒にいるのも楽しいけど、それと同じくらい今、教導団で充実しているの」
「ん……そっか」
「そう。だから、カオルと一緒に教導団で頑張っていたいの」
「了解」
微笑むと、梅琳がカオルの顔を覗き込んできた。
どうした? と首を傾げると、
「がっかりした?」
梅琳が問う。
「なんで?」
「たぶん、カオルの望んでいた答えじゃなかっただろうから」
「はは。別にそんくらいでがっかりしたりしないよ。それに」
「それに?」
梅琳は、将来の目的をしっかりと持っている。
そして、カオルはそんな強く真っ直ぐな彼女のことを、支えていきたいと思っている。
「オレ、メイリンのこと応援してるんだ。だからかな、メイリンの意思を尊重したい」
「カオル……」
「いいよ、今は隣に居られれば。それで幸せなんだ」
手を繋いで、笑い合って、一緒に時間を過ごして。
今はそれで、満足。
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