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【2021クリスマス】大切な時間を

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第17章 仕事の後に

「やっぱり一人で仕事してるー」
 薔薇の学舎の校長執務室に顔を出したのは、ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)
 紙袋を手に下げ、トレーを持っての登場だ。
「やっぱりって?」
 振り向いたのは、校長のルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)。手にはペンを持ったままだ。
 机の上には分厚い書類が置かれている。
「年末だから、忙しいよね。でも、今晩は皆に休みを出してるんじゃないかと思ったんだ」
 ヴィナの言葉に、ルドルフは口元に笑みを浮かべる。
「君にも家族がいるだろ」
「そうだけど、家族からも言われたから。ルドルフさんを手伝ってあげてってね」
 荷物を置くと、ヴィナはルドルフに近づいて、積み上がっている書類やファイルの整理を始める。
 そして開けた空間に、トレーの上の温かな珈琲が入ったカップを置いた。
「校長の仕事は代行できないけれど、書類を確認して整理したり、必要なデータを集めてサポートすることくらいは、出来るからね。俺もテクノトラートだから、足手まといにはならないと思うよ」
 そう言うと、ルドルフはすまなそうでありながらも頷いて、ヴィナに手伝ってもらうことに。
「こちらの書籍の確認は終わっている。こっちの書類は作成中。こちらは承認済みの書類で、こっちは……」
 ルドルフの説明に、ヴィナは思わず呆れてしまう。
「随分とまぁ……独りで抱え込んでるものだね」
「いや、一人で抱え込んでいるわけではなく、皆でやるはずだったんだけど……」
「休みを出してしまったんだね?」
 ヴィナの言葉に、ルドルフは苦笑する。
 ヴィナはため息をついて、書類を整理しながら言う。
「いつも言ってるでしょ、あなたは勤勉で一生懸命なところは、俺の好きなところではあるけど、そういうところが心配なところでもあるって」
 手際よく片付けていくヴィナを見ながら、ルドルフは「すまない」と口にして、ヴィナが持ってきてくれたカップに手を伸ばす。
「少しは周囲を頼りにしないと大変だよ? あなたただでさえ、校長なんだし」
「そうだね。……でも、頼りにしてないわけじゃない。こうして、君に頼ってるし」
 言って、ルドルフは珈琲を飲みながらヴィナに笑みを向けた。

 今日の分の仕事を終えた後で。
 ヴィナの誘いで、最上階に向かった。
 街に飾られているツリーが見える部屋のテーブルに、クリスマスの料理と、ワインを並べて。
 椅子を窓辺に移動し、グラスにワインを注ぎ。
「綺麗に飾られているね。ツリーの下には多くの人々がいて、見上げているんだろうけれど」
 ここは絶好の位置だ。
 こうして上から見た方が、美しさ全てを堪能できる。と、ルドルフは言った。
「そうだね」
 とヴィナ言って、乾杯をしてワインを口に含む。
 苦味のあまりない、甘口のワインだった。
「こうして軽く抓みながらお喋りっていうのも中々趣があっていいでしょ?」
 言って、ヴィナは用意してきたクリスマス用のオールドーブルと、チキンをルドルフに勧める。
 ルドルフはチキンやサラダを皿にとって、食べ始めながらふと、ヴィナに眼を向ける。
 彼はただ、穏やかな目でルドルフを見ているだけだ。
「……いいのか? 大事な時間を、こんな場所で過ごして」
「は? 何が」
 ヴィナは思わず聞き返す。
「いや、仕事が終わったんだし、君も帰った方がいい。僕とここでクリスマスを過ごしても、面白いことはなにもない」
「いや、俺は十分楽しんでる。嬉しいよ」
 別にクリスマスだからってわけではなく。
 少なくても嫌われていない。……頼りと言ってくれる。
 好きな人が隣にいて、助かったとも言ってくれる。
「それって、嬉しいことじゃない?」
 そう、微笑んだ。
「君には助けてもらうばかりだな」
「ん? 俺は十分、ルドルフさんに返してもらってると思うんだけど」
「……ありがとう」
 ルドルフはワイングラスをとって、外のツリーを見ながら甘いワインを飲んでいく。
「この美しいツリーと、街の姿を。今日、この場所で見たのは僕達だけだ。今日のことは忘れないよ」
 グラスを傾けて、ルドルフは甘い笑みを浮かべた。