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【2021クリスマス】大切な時間を

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第22章 あなたの傍らで過ごす1日

「寒くないか?」
「寒くないですよ!」
 婚約者の山葉 涼司(やまは・りょうじ)の問いに、火村 加夜(ひむら・かや)は上気した顔で答えた。
「やっぱその格好で絶叫系はやめておいた方がいいよな」
「え? 大丈夫ですよ。涼司くんが乗りたいのなら私も乗りたいです」
 2人は空京の遊園地に来ていた。
 今日のデート費は全て涼司もち。彼から加夜へのプレゼントだ。
 涼司はセーターにジーンズ。灰色のジャケットを纏った、ラフな格好。
 加夜は白いコートを纏い、水色のニットのセーターにミニスカート……生足だった。
「だって気になるだろ」
「これくらいで風邪を引いたりしませんよ」
「それもそうなんだけど、ほら。他の男の目がさ」
 時々、すれ違う男性の目が加夜に注がれていることが、涼司は気になって仕方なかった。
「逸れないように、もっとこっちに」
 そう言って、涼司は加夜と手を繋ぎ、自分の方へと引っ張った。
「はい……っ」
 加夜は嬉しそうに返事をして、彼にくっついて歩き出す。
 アトラクションとショーを楽しんで。
 お昼には、ちょっと高いハンバーガーを食べた。
 それから、園内を巡回しているバスに乗って、景色を楽しんで。
 ベンチに座って、温かな飲み物を交換しあって飲んで……。
 ちょっと加夜が震えると、涼司は抱き寄せてジャケットの中に、加奈を包み込んでくれた。
「涼司くん、これ……プレゼントです」
 加夜が鞄の中から取り出したのは、ラッピングされた長方形の箱。
 中には、ネクタイのセットが入っている。
「手作りの物と迷ったんですけど、これから使う機会も多くなると何本あってもいいかなって思ったので」
 涼司の好みも考えて、選んだ品のあるネクタイだ。
 校長になっても、制服を着ていることが多い涼司だが、スーツを着る機会もこれからどんどん増えるだろう。
「堅苦しい席とか、苦手そうですから。ネクタイを直すときとかに、今日のことや、応援してる人もいることを、少しでも思いだしてくれたら……」
 そして、加夜は間近で涼司の顔を見上げて、微笑む。
「私は、いつでも涼司くんの味方ですよ」
「ありがとう。使わせてもらうぜ!」
 涼司は加夜からのプレゼントを喜んで受け取る。
「涼司くんからのプレゼントの一日、もうすぐ終わりですね……」
 既に日は落ちて、空では沢山の星が瞬いている。
「楽しんでもらえたか?」
「勿論です。楽しかったです。涼司くんの傍が一番安心できる場所ですから」
 今日はずっと一緒に居てほしいという加夜の気持ちに、涼司は精一杯答えてくれた。
 年末で忙しいはずなのに、1日中、加夜と一緒にいてくれたから。
「俺も楽しかった」
 と、涼司は加夜の冷たくなった頬を両手で挟み込んで、笑い合って。
 ベンチから立ち上がって、お土産を買って帰ることに。

 園内は明るかったけれど、外は暗い。
 涼司が隣にいるから、今はそんなに寒くはないけれど。
 彼がいなくなったら。今日の、一人の夜はとっても寂しいだろう。
 だから。
 加夜は涼司の手をぎゅっと握りしめて。
 彼を見上げて、鼓動を高鳴らせながら言う。
「あの、涼司くん……、もっと一緒にいたい……です」
 恥ずかしさで耳まで赤くなりながら言う加夜に。
「……俺も、同じだけど」
 涼司はちょっと目を泳がせて、考えて。
 ばつが悪そうに、こう言った。
「仕事が、あって」
「そう、ですよね……でも」
 加夜は笑顔で涼司を見つめる。
「2人きりで過ごせれば、どこでも嬉しいんです。学校の、校長室だって」
「サンキュ、加夜」
「仕事、手伝いますよ。私の為に昼間を開けたせいで、夜、忙しくなっちゃったんですよね」
「いや、そんなことはない。俺も今日は加夜と過ごして息抜きしたくなってな。今日は、ありがとう。けどあと、半日……朝まで、一緒にいてくれるか?」
 涼司の言葉に、「喜んで」と加夜は答える。
 月だけが見ている道端で。
 涼司は加夜を優しく抱きしめた。
「こうして、ずっと一緒に過ごせたら幸せですよね……」
 抱きしめ返しながら、加夜がそう言うと。
「幸せだな」
 掠れた涼司の声が、振ってきた。
 
 それから一緒に、蒼空学園へと戻り。
 涼司の傍らで、加夜は一睡もせずに、彼の応援とサポートを続けた。