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ユールの祭日

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ユールの祭日
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●●● The Emperor’s Shadow


楽師である高漸麗と、作曲家フランツ・シューベルトの対決は恐ろしいものであった。
シューベルトは先の戦いで、ピアノを投げるという荒業に出ている。

漸麗は、友に届けと筑を撃った。

不意に、自分を見つめるものの気配を感じた。
おそるおそる目を開くと、見えないはずの目だというのに、不思議と景色が見えた。
そこには荊軻が立ち、筑に合わせて歌っていた。

まるで周囲に他の誰もいないかのように、二人は笑い、歌った。
後に『傍若無人』として知られるようになった故事である。


その様子をみて、シューベルトもまたピアノに座った。
「歌曲の王の力は、そのようなものではありませんよ」

シューベルトの楽の音が、筑と歌に混ざった。
そのシューベルトの曲が、じわりと筑の音を侵食していく。

その曲はシューベルトの代表曲、『魔王』であった。


漸麗は不意に、観客席でじっと自分を見つめる気配に気づいた。
荊軻は僕の傍にいる。
それ以外に、僕にこの視線を向ける英霊とは誰だ?

答えはわかっていた。ただひとり、秦の始皇帝しかいない。

始皇帝
「可愛い漸麗、朕とともにまいれ。
 楽で朕を喜ばせてくれ。
 阿房宮は朝歌夜絃
 みずがねの仙薬だってある」

漸麗
「荊軻、荊軻!
 始皇帝の誘いが聞こえないの?」

荊軻
「落ち着け漸麗、
 冬の風に枯れ葉が舞っているだけだ」

始皇帝
「麗しの楽師よ、朕とともにまいれ
 我が宦官がお前の面倒を見よう
 お前は筑を撃つだけでよい」

漸麗
「荊軻、荊軻!
 あれが見えないの?
 始皇帝の兵たちが!」

荊軻
「漸麗、しかと見たぞ、
 あれはただの兵馬俑だ」

始皇帝
「お前が欲しい、その筑の音を聞かせてくれ。
 いやとはいわせぬ、天命なるぞ」

漸麗
「荊軻、荊軻!
 始皇帝が僕をつかみかかるよ!
 始皇帝が僕を苦しめる!」


すべての曲が終わったとき、高漸麗は息絶えていた。


●●● レジェンド・オブ・アロー


ヘイリー・ウェイクの表情は凄絶なものがあった。
ヘイリーがこの戦いに加わったのは、かつての怨恨が原因である。

ノルマン人によるイングランド征服によって、『油断なきヘリワード』は領土を奪われ、それ以来ノルマン人とその征服王朝に復讐を誓ってきたのだ。

そのイングランドの歴史において、最大の王者、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが今、手の届くところにいる。


ヘイリーは出し惜しみせずに、騎龍デファイアントを使うことにした。
白いワイバーンはヘイリーの荒ぶる心に感じたのか、長々と咆哮した。

「サクソン人の白い龍、ですか」

グローリアーナは特になんの感慨もないといった具合だ。

「ならば私もこれで相手をしましょう、ウェールズの赤き龍で」

グローリアーナが命じると、同じく巨大な赤龍が姿を現す。
『ウェルシュ・ドラゴン』、ウェールズの象徴であり、今日でもウェールズ旗にその姿を見ることができる。
チューダー王朝はウェールズ王家の末裔であった。


「ザ・ウェイクは許さない!
 征服者を許すことは絶対にない!」

白龍にまたがったウェイクがそう叫ぶと、白龍が炎を噴いた。
グローリアーナに迫る炎を、赤龍の翼が遮る。

「ウェールズの栄光にかけて!」

赤龍の爪が唸る。
それが白龍の胴に食い込む。

「今がその時か!」

ヘイリーはさっと弓を構え、グローリアーナを撃った。
二頭の龍はもみ合い、赤龍は女王を守れない。

あっ、と叫びをあげて、グローリアーナの体は落下していった。
「女王陛下をお救いしろ!」

ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)フランシス・ドレーク(ふらんしす・どれーく)はグローリアーナの落下地点を予測し、救助のために走っていった。


これでヘイリーの復讐は成った。
だが心は一向に晴れない。


●●● 大いなる決闘

ついに関羽雲長と馬超が相撃つ時が来た。

関羽は言わずと知れた青龍偃月刀を手に、赤兎馬に乗って悠々と歩を進める。
馬超は愛馬に乗り、くろがねの槍をぶるんと振ってみせる。

互いに腕前は承知しており、いまさらくどくどと語ることもない。

両雄は同時に馬に蹴りを入れ、互いを目指して猛進する。

「えい!」
「おう!」

互いの武器が相手を狙い、受け流し、あるいは馬で距離を取る。
かと思えば馬が相手を蹴りつけようとし、ごく近い距離で拳が飛ぶこともある。

関羽は再度仕切り直そうと、赤兎馬に後退させる。
馬超もまた後退し、必殺の一撃を繰りださんとする。
離れた場所から加速を付けてからの一撃のほうが、それだけ威力が増すのだ。

馬そのものは関羽に、騎馬の技量では馬超に分があった。

衝突するその瞬間、馬超はひときわ強く馬の腹を蹴る!
馬は大きく跳ね、関羽と赤兎馬を跳び超えた!

「なんと!」
予想しなかった動きに、関羽が叫ぶ。

馬超はそこから関羽の後ろ、赤兎馬の上に飛び降りると、関羽の腰をつかんでえいやと振り落とした。

関羽はすぐさま体勢を立て直し、呵々大笑した。

「これは思いつかなんだわ!
 馬超、今日のところは勝ちを譲ろう!」