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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

リアクション

「ひゃっはー!! 待たせたな、てめぇら!!」
 ピンク色のモヒカンを揺らしたゲブーがマイクを持って、彼の前に集まった客達を見やる。
 彼の背後には、畳一枚より少し大きいくらいのマットレスと、セルシウスから分けてもらった蜂蜜酒が置かれてある。
「蜂蜜酒といえば、飲むだけだと思ってるだろう? だが、実はエステにサイコーなんだぜっ!」
 ドヤ顔で叫ぶゲブー。
「えええぇぇぇー!?」
「俺様の言う事が信じられねぇのか? つまりだ、おっぱいに塗ってマッサージするとつるつるぴかぴかおっぱいが完成なんだぜっ!」
「信じられねぇよ!」
 酔った客の一人が叫ぶと同時に、呼応した声が聞こえる。
「そうだそうだ! 実演しろー!」
「おっぱい見せろーー!!」
 騒ぐ客を制して、ゲブーが笑顔で頷く。
「わかってるわかってる……てめぇら、見たいんだろ! おっぱいがぁぁーー!?」
「「「うおおおぉぉぉーーー!!」」」
「揉みたいかぁーーーー!?」
「「「うおおおぉぉぉーーー!!」」」
 騒ぐゲブーの一角の隣では、ルーシェリアのカウンセリングコーナーに飲み物を差し入れていた瑠兎子がいた。
「お隣さん、随分賑やかねぇ……」
「ですねぇ……私は少しお休み頂けて嬉しいですけどぉ」
「ワタシもかな? 夢悠に少し頼んでサボらせて貰ってるの。大変そうだけど舌ヤケドさせた罰よね」
 ルーシェリアが瑠兎子から差し入れられたジュースで喉を潤しつつゲブーを見やる。
 ゲブーは盛り上がる客達を更に煽動する。
「じゃあ、俺様が見せてやるぜ!! いつもは絶対断られるからな、英雄クラス拳聖の全能力をつかって無理やりオファーしようと思ってたら、何と! 今回は『ええ、私ならいいわよ』とアッサリOKしてくれた素敵なおっぱ……おっと、レディーをよぉ!! カモンッ!!」
 ゲブーが呼びこむと、長い金髪と胸を揺らし、上下に別れたピンク色のビキニ姿の少女が現れる。
「てめぇらの前に降臨した女神の名前は、雅羅・サンダース三世だぜぇぇ!!」
「「「うおおおぉぉぉーーー!!」」」
「ま……まままま、雅羅ちゃん!?」
 瑠兎子が叫ぶ。
「で、私は何をすればいいの?」
「ここに寝な! うつ伏せじゃなくて、仰向けにな!!」
 マットレスを指さすゲブーに雅羅が頷き、横になる。
「どどどどど、どういう事ーー!?」
 驚愕して頭を抱える瑠兎子にルーシェリアが優しく話しかける。
「悩み事なら聞きますよぉー?」
「……ちょっと、頭の中を整理させて……」
 瑠兎子が考える。きっと原因があるはずだ。第一、今の雅羅の顔はいつもの凛々しさが無い。悪いものでも食べたのか……? 例えば、体が内面から活性化されるような……。
「あッ!!」
 夢悠が与えたファイト一発の栄養ドリンク。そしてルシオン特製の体がポカポカする『蜂蜜生姜漬け』。
「食い合せ……か」
「悔い改めぇ?」
 ルーシェリアが首を傾げる。

「ひゃっはー!! てめぇら、よく見ておくんだぜ!!」
 ゲブーは横になった雅羅の胸に蜂蜜酒を垂らす。
「あ……」
 雅羅が小さな悲鳴をあげる。
「冷たいか? ちょっと我慢してりゃ、すぐ熱くなるぜ!!」
 ゲブーは蜂蜜酒を垂らしながら、ある男の事を考えていた。
「(セルシウスにもマッサージの手伝いをさせて指導してやろうと思ってたのに……あのバカ)」
 ゲブーの理想としては、セルシウスとの二人三脚による実演販売だった。
「バカ野朗、愛が足りねぇんだよ、おっぱいをもっと全身全霊を込めて愛せよっ!」
「む……こうか?」
「そうだ! リズミカルに、宝石を磨くように、優しく、的確にだぜ!!」
「おお、わかってきたぞ!!」
「ひゃっはー!! 流石俺様が見込んだ男だぜぇぇ!」
 ゲブーは自分で浮かべた未来予想図と現在の違いを「ちっ……」という言葉で打ち消す。
「ちぇ、パラミタ1のおっぱいじゃねぇじゃねぇか」
「……誰だ?」
 パラ実仕込みの殺気でチャチャを入れた客を睨むゲブー。
「な……なんだ!?」
 ツカツカと客の元に歩み寄ったゲブーは、客の胸ぐらを掴み、彼にしてはマジな顔をする。
「おっぱいは……おっぱいはなぁ! 全て大きさ形に関係なくすばらしいものなんだよぉぉッ!」
 ゲブーは男にガンタレを決めて叫ぶ。
「大きさに悩むおっぱいはやさしくモミあげて大きくしてやるぜーってなもんだ! それが漢だろうがぁぁ!! バカにするやつは俺様が全てぶっとばす! わかったかぁぁッ!?」
 あまりの迫力に客はヘナヘナとその場にへたり込む。
 『蜂蜜酒をかける事が出来たらエロ野朗どもが買うよな予感がする』。そんな単純な動機で始めた実演販売だったが、既にゲブーの志は匠の域まで達していた。
「てめぇらと俺様は違う!! いいか、俺様の技は全ておっぱいのためにある!!【武医同術】とは、人体つまり、おっぱいにもくわしい! 【金城湯池】とは、邪魔な攻撃をかわして、おっぱい! そしてぇ【雷霆の拳】とは、先制ですばやく、おっぱい!!」
 叫びと共にテカテカと蜂蜜酒で妖しく光る雅羅の胸をマッサージするゲブー。だが、彼は同時に2つ以上を考えられない漢のため、エロは無い!! 真面目に、真剣な表情でマッサージを行う。
「これが俺様の技だぜ!! くらえ【鳳凰の拳】(すばやく左右の、おっぱい)!! 続けて【則天去私】(心身の調和を取って、おっぱい)!!」
「「「おおおおぉぉぉ!!」」」
 客達がどっと沸く。少しだけ前のめりで……。
「【閻魔の掌】(おっぱいの急所をやさしく、おっぱい)……は、まだ早いぜ。どうだ? 雅羅?」
「え……えぇ、何だか気持ちいいかも……」
「ひゃっはー! そして健康と美容にもいいのさ!!」
「そこまでよぉぉーー!!」
 ゲブーが横から飛んできたタックルに雅羅からはじき飛ばされる。
「ぐぇ!? だ、誰だて、てめぇは!?」
「ワタシは瑠兎子……想詠瑠兎子よ!! ごっめんなさいねぇ! この子、女の子しか駄目なんですの〜」
 そう言いながら雅羅を回収しようとする。
「俺様の商売の邪魔するんじゃねぇよ!!」
「どこが商売よ!! こちとら、雅羅ちゃんの胸に注目しすぎる自分の煩悩を抑えるため、現在精神修行中だっていうのぃ……あんたって人はぁぁーー!!」
「ひゃっはー!! 煩悩を修行中だ!? 笑わせるぜ、煩悩は心臓の鼓動と同じ!! 永遠だぜ!!」
「それは死ぬまでという事ですかぁ?」
「新手か!? くらぇぇ! 【ドラゴンアーツ】(どんな邪魔も力で押しのけて、おっぱい)!」
 掛け声とは裏腹にゲブーの手がソフト体に添えられる。彼はおっぱいには優しい。
「随分とぉ……無信心な方ですねぇ……痛い目にあっていただかないとぉ……」
「こ、このおっぱいは……」
 ゲブーが見ると、笑顔を絶やさないルーシェリアが立っている。こめかみ辺りがヒクついているのは気のせいだろうか?
「ノーマル、いや手の平サイズだな、だが、まだまだ遅くはないぜ? 俺様に任せれば、豊胸手術よりも大き……」
 ルーシェリアが自分の胸に当たるゲブーの手をゆっくり取り、やはり笑顔のまま……。
「悔い改めるですぅぅぅーーー!!」
【則天去私】をゲブーに向かって全力で叩きこむルーシェリア。
「ひゃっっっっはぁぁぁーーーーッ!!」
 客席を飛び越えたゲブーが店の窓ガラスを突き破り、外へと吹き飛んでいく。
「ふぅ……ああ、私ったらぁ……思わず……」
 ルーシェリアが自分のしでかした事に顔を赤らめるが、彼女に対して、マトモな常識人たる客達からは賞賛の声と拍手が起こった。
 そして、ゲブーがやっていた実演販売の続きをやろうと雅羅に提案した瑠兎子は、
「なんでワタシ実演販売しちゃ駄目なのよ! ワタシならもっと上手くやるわ! 上上下下左右左右って!!」
「どうどう、瑠兎姉! これ以上やると卑弥呼さんにクビにされるって!」
 ……と、騒ぎを聞いて出てきた夢悠に羽交い締めにされてもまだ暴れていたのであった。
 尚、外へふっ飛ばされたゲブーは、翔とアリサのジェフェルコンに踏み潰されたとか、踏まれなかったとか……。