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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

リアクション

「トロールがトロールと戦っていますわね……」
 岩陰から戦闘を見ていたエリシアが呟く。
「と、止めなきゃ!?」
「待って、ノーン!」
 出ていこうとするノーンをエリシアが止める。
「エリシアちゃん、でも、このままじゃ!」
「見てください……あのトロールの男、決してトロールを攻撃していませんわ」
「え?」
 竜司は、トロールの武器の破壊や、足元を狙う攻撃をしかけるだけで、決して彼らに傷をつける戦い方は行っていない。
「まるで、自分の方が強いと認識させるのが目的みたいな戦い方ですわ……ん? 吉永竜司? 何処かで聞いた気が……」
「あ! わたし知ってるよ! 蒼木屋の流しの歌唄い兼警備員になるって言ってた人だよ!」
「ああ……いましたわね、トロールが紛れ込んでいるのかと思いましたわ」

「ヒャッハー!! どうだ!? まだオレとやろうってのかぁ!! ボスはどこだ、てめぇらのボスは!!」
 竜司がトロール達と距離を置いて挑発する。彼の頭部は汗が月明かりに光り、よくトロールと間違われる外見の彼を更にトロールっぽくしていた。
 竜司には考えがあった。トロールは集団の頭(ボス)さえ倒せば、手下共もまとめてこちらが支配する事が出来ると考えたのだ。その根底には、「集団の一番強いヤツに勝てば、オレが一番! オレの言う事を聞け!」というパラ実的考え方があった事も忘れてはならない。
「テメェラナニヤッテル」
 一際大きいトロールが現れる。
「あぁーん!? てめぇがこいつらのボスか!!」
「ニンゲンフゼイガ……」
 ボスは、常人が殴られたら即ミンチになりそうな太い腕で、金属製のトゲ付きこん棒を振り上げる。
ブンッ!!
「うおっと!」
 竜司がボスの一撃を避ける。
「ミードノマエニオマエヲコロス」
「はんっ! そいつはおめでてぇ発想だぜ! じゃあオレが勝ったらてめぇとその手下共、全員オレの舎弟になれよ!!」
「ワラワセル」
 牙を見せたボスが舌なめずりをしてこん棒を振り下ろす。
「ヒャッハー!!」
 竜司の血煙爪が受け止める。
 しかし、体格の大きさが三倍以上あるボスの一撃に、竜司が膝をつく。
「やるじゃねぇか!! ボスを名乗る事をオレに認めさせやがって!!」
 こん棒との力比べでは不利、と悟った竜司は、直ぐ様身を反転させ、その場から離れる。ボスのこん棒はパン生地の様に地面をぐにゃりと押しつぶす。
 血煙爪を構え直す竜司が、ボスと向き合う。
「(ヤベェな……コイツ、マジで他の奴らとはケタ違いに強えェ……隙があれば……)」
その時。
「プップププー!!」
 気の抜けたチャルメラの音が響く。
「な、なななちゃん!?」
「ふっふっふ。ノーンちゃん、このなななを差し置いて悪党退治なんてズルイわよ!!」
 リアカーを引っ張ってノーン達の元に現れるななな。
「ミード?」
「ミードダ!!」
 トロール達が好物の蜂蜜酒を持って現れたなななを一斉に見る。
「こういう時、彼らの心境はまさに鴨ネギ……ですわね」
 腰から魔道銃を取り出すエリシア。どんな事があってもノーンだけは守らなければならない、という覚悟が緑色の瞳に宿る。
「ナカマガイタカ……」
 ボスがノーンやなななをチラリと見る。
「ダガナンニンイテモ……!?」
 ふと目を離した隙に、竜司の姿は消えていた。
「オレ相手によそ見してんじゃねぇぇーーッ!!」
「ム!?」
 月をバックに飛び上がった竜司の蹴りがボスの顎を捉える。
「グゥオオオ!?」
 顎への衝撃は脳を激しく揺らし、一瞬のうちにボスはその巨体を揺らして倒れていく。
「ヒャッハー!! 勝ったぜ!! オレの勝ちだぁぁ!!」
 雄叫びをあげる竜司。
「オオ……ボスガ……」
 竜司の勝利に、手下のトロール達に動揺が走る。
 クルリと振り向いた竜司は、ニヤリと笑い、
「オレがてめぇらの新しいボスだ……異論があるヤツは今すぐかかってきな?」
「……」
 顔を見合わせるトロール達。竜司に力を見せつけられた今、彼らに選べる道は服従か死かのどちらかのみ。それが荒野の掟である。
「ふっふっふ、このなななの出番のよう……モゴォ……!?」
 唯一手を挙げたなななは、エリシアにより押さえ込まれる。
「ねぇ、竜司ちゃん?」
「あん?」
 ノーンが竜司に話しかける。
「トロールさん達を引き連れて、どうするの?」
「オレはこいつらを警備員として雇おうと考えてるんだ」
「警備員に!? 店の?」
 話を聞いていたエリシアが驚く。
「心配ないぜ! 今となってはオレの言う事は聞く。オレが店を襲うな、と言えば、襲わないぜ」
「……」
「そうだ、てめぇら、こいつらにも酒を分けてやってくれよ。根は悪い奴らじゃねぇんだ」
「何か“お代”がもらえると嬉しいかな?」
「……代金か……おい、てめぇら! 何かねぇのか?」
 竜司に呼びかけられたトロール達は顔を見合わせると、彼らのネグラから巨大な緑色の卵を三匹がかりで運んでくる。
「コレハキノウミツケタモノダ」
「ホントウハボスガタベルモノダ」
 トロール達は、その卵は、竜司が倒したボスが、リーダーの資質を証明するため危険な場所から持ち帰ったモノだと語る。
「ヒャッハー!! まぁ、いいじゃねぇか! こいつを蜂蜜酒の代金代わりに受け取ってやろうぜ? 蒼木屋に戻って、デカい目玉焼きってのも乙なもんだぜ」
「どうします? ノーン?」
「うーん……いいよ、じゃあこれわたしが貰うね」
「話はまとまったな! オイ、てめぇら!!」
 竜司がトロール達に呼びかける。
「今からてめぇらは蒼木屋の警備員だぜ! 店は襲わず、襲ってくるヤツをぶちのめせ!! いいな、そうしたら報酬として蜂蜜酒を分けてやるぜ!!」
 竜司の言葉に頷くトロール達。
「じゃあ、ボスは竜司に譲るわ! けど、副キャプテンはこのななながするわね!」
 なななの立候補は、他に候補者がいなかったため可決された。
「じゃあ、蒼木屋に向けて初出勤するぜ!!」
「プップププー!!」
 なななの進撃のチャルメラが鳴り、竜司は卑弥呼の酒場のテーマを歌いながら、トロールを連れて歩き出す。
 コツンコツンッ!
「ん?」
 トロールが引くリアカーに載せた卵から不思議な音が聞こえた気がしたノーン……が、すぐに彼女は竜司と一緒に歌いながら行進していく。
 和気あいあいと進む一同に、巨大な影と大きな羽音が襲いかかったのは、それから間もなくの事であった。