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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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 宴会の声やステージの歌は、店の裏の事務室まで聞こえていた。
「あー、みんな楽しそう……」
 店の裏の事務室で、書類とにらめっこしていたルカルカの呟きに、電卓を弾いていたルカアコが顔をあげる。
「アコ達も参加する?」
「……出来ればね。ハァー、今回は色々暴れたからなぁ……後始末が大変よ」
「悪かったな。店の近くにクレーター作って」
「ううん、別に唯斗の事言ってるわけじゃないのよ?」
 仕事後ルカルカのところまで給料貰いに来ていた唯斗がいた。その手にはミニグラスに入った蜂蜜酒が持たれている。
「そっちはずっと事務仕事か?」
「そ。閉店後は売り上げの帳簿付けと金庫への入金と掃除が待ってるのよ」
「それはお疲れさんだな。出来ればイーグルの肉くらい差し入れてやりたかったが……」
「筋ばった肉は調理が難しい。エクスでも煮込み以外は提案出来ないんじゃないか?」
 ローカロリーなツマミをデジカメに撮ってきたダリルが、事務室のパソコンにそれを取り込みながら言う。尚、このデータは店内ポスターやメニューに印刷しラミ加工するらしい。
「エクスは? 姿見えないけど?」
「絶影のコクピットで寝てる。ずっとイコンの中だったから疲れたんだろう」
 ルカルカは苦笑して、唯斗に給料の入った袋を渡す。
「はい。じゃあこれお給料ね。イコンの補修費は保険で落とせるから、後で見積もり持ってきて」
「ああ、助かるよ。じゃあ俺はこれで家に帰る」
「宴会はまだ朝までやるみたいだけど?」
「エクスは家事万能で紫月家の要なんだ。あいつが家に居ないと、ゴミ屋敷化は容易い」
「そう。じゃあエクスにも宜しく言っておいてね」
「ああ」
 唯斗は片手を上げて事務室から出ていく。
「さて……と、もうひと頑張りやりますか!」
 唯斗を見送ったルカルカがパソコンに向かう。
「うん! 年も明けたし、頑張ろう!」
 ルカアコも再び電卓を弾き出す。
「(厨房が落ち着いたら、まかない料理でも作るか)」
 ダリルはそう考えつつ、ローカロリーなおつまみを欲していたセルシウスの事を思い出す。
「ところで……セルシウスは何処に行ったんだ?」
「携帯、渡したでしょ?」
 ルカルカが背中で答え、ダリルは携帯をかけてみた。
トゥルルルル……ガチャ!
「セルシウスか?」
「ぬぅ!? ……私の名を言い当てるとは、誰だ?」
「ダリルだ。そして何故俺が名前を当てられたかというと、携帯にかけているからだ」
「おお! そうであったな!」
「今、何処にいるんだ?」
「うむ。新年が明けて直ぐに仕事があるのを思い出してな……現在、エリュシオンに向けて走っているところだ。ああ、それと蜂蜜酒の追加注文もしてこようと思う」
「……そうか」
 ダリルが携帯を切った後、事務室のドアが開いて菊が顔を出す。
「セルシウスー? あれ、ここにもいないか……なぁ、セルシウス見なかったか? これからローカロリーなおつまみの試食会しようと思うんだが……」
「菊。セルシウスはエリュシオン帝国に戻った」
「何ーーッ!? どうするんだよ、おつまみは!!」
「……美味しければ、全品採用というのはどうだろうか?」

(暫し後……)
 『CLOSED』の看板になった蒼木屋だが、中ではまだ酒や眠気に強いタフガイ達の宴会は続いていた。
「ふぁぁぁーー」
 欠伸をするルカルカが、最後の文字をパソコンに打ち込む。
パソコンの画面には、彼女が考えた蜂蜜酒の『うまい! もう一杯蜂蜜酒』のプランが示されている。それは、二杯目からは通常料金である他にも、持ち帰り用のビン詰め、水筒詰めも販売する『冒険のお供に蜂蜜酒プラン』やダンジョン攻略と酒場のルート確立を目指した『剣と魔法と蜂蜜酒プラン』等である。
「あれ? ダリル? アコ? カルキノス? ……あぁ、そっかみんな帰ったのか」
 ずっと中に居てたせいか、外の空気を吸いたくなったルカルカは、未だ盛り上がっている宴会に軽く手を振りつつ外に出ていく。
 空はゆっくり明け始めていた。
 地平線の先がオレンジと赤の混じった不思議な色合いになっている。
「綺麗ね……」
 呟く彼女の前に、好物であるチョコバーがスッと差し出される。
「……垂?」
「よ、いつも遅くまでお疲れさん」
 垂はいつも事務処理などをしているルカルカの事を待っていたのだ。
「どうしてここに?」
「別に理由はないぜ。ただ、俺達がああやって飲んだり騒いだり出来る店を支えているおまえにこれを渡したかっただけだ」
 チョコバーを受け取るルカルカは、垂の手が氷のように冷たい事に気付くが、素知らぬ顔で、「ありがとう」と答える。
「初日の出って綺麗だな」
「ええ……」
「今年は去年よりも良い年になりますよ〜に……いや、絶対に良い年にしてみせるぜ!!」
 垂は大きな声で昇り始めた太陽に向かって叫ぶのであった。