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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
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リアクション

 第27章 パーティーの終焉

   1

「ささらは友美さんと近くの高級レストランでバレンタインデートですか……私達は高級ホテルのパーティーをゆっくり楽しみましょう!」
 1000Gで食べ放題バイキング。『バイキング料理店の天敵』、『神速の箸使い』、『厨房殺し』、『食欲魔人』などその界隈で呼ばれる獅子神 玲(ししがみ・あきら)がこれを見逃すわけもない。
「私としては食わなきゃいけない、と腹の虫からの啓示を受けた様な気がします!」
 やる気満々で、背後に闘志の炎を漲らせ、玲は飛騨 直斗(ひだ・なおと)とホテル内を歩いていた。
「と、いう訳で、行きましょう! 直くん♪」
 パーティー会場に入ってスタッフに1000Gを払う。
「……なんだか、すごく変な女装筋肉質な方が居ますが……まあ、どうでもいいです」
 アフロでボロボロなドレスを着たむきプリ君には大した興味も示さず、いざ! と玲は早速箸を取る。よりどりみどりな料理を取りまくり食べまくりだ。一体どこに吸い込まれているのだと本気で首を傾げるスピードと量である。
 だが、直斗は食事よりも玲と2人きり、ということに舞い上がっていた。だって、玲は初恋の大好きな人なのだから。
 ――これって、デート!
 その状況が嬉しくて妙な妄想に忙しく、食べるどころではなかったりする。
(……お互いに『アーン』と食べさせあったり、流れでこのままホテルに泊まったり……ハッ! 煩悩退散!)
 何やら1人で首をぶんぶん振っている。しかし、玲はその彼の行動にも気付かない。
(……冷静になれ、だってほら……玲さんもう食べる事に集中しちゃってるもん……でも、美味しそうに笑顔で食べる玲さんは可愛いな)
 もりもりと、お皿に盛った料理を玲は次々に食べ進めていく。その表情は実に幸せそうで楽しそうで、こちらまでほっこりと幸せな気持ちになってしまう。
(それにしても、何だかすごい格好した人がいるなあ……むきむきの筋肉でどこから動見ても立派な男性なのに女装って……しかもボロボロって……、あれ? まてよ……)
 何かが記憶に引っ掛かった直斗は、むきプリ君に歩み寄った。アフロ頭で、聞いていた噂と少々違う気がしたが。
「もしかして、媚薬作ってるっていうむきプリさんでは?」
「ん? 良く知っているな! そうだ! 俺がホレグスリ製造の第一人者、むきプリ君だ!」
 ついに、自分で自分を『むきプリ君』と称してしまった。念のため言っておくが、第一人者は自称である。
 直斗はそれを聞くと、肩に力を入れ、両拳を強く握り締めて彼に言う。
「お願いです! 媚薬を分けてくれませんか! どうしても振り向かせたい人が居るんです!」
「振り向かせたい人だと……? つまり、お前は一人身なんだな」
「はい、そうです!」
 真剣な瞳で見上げてくる直斗を見て、むきプリ君はむむむと唸る。現在ソロであっても、ホレグスリを渡して想い人と結ばれでもしたら面白くない。だが、果たしてあの薬で普通にカップルとなることが出来るであろうか。答えは、否。
「ちなみにお前、今日はいくつチョコを貰った?」
「チョコですか? まだですけど……」
 しゅん、とする直斗。それが決め手となり、チョコを貰っていたむきプリ君は勝ち誇ったようにホレグスリを出した。
「よし! 持っていけ!」
「ありがとうございます!」
 直斗はホレグスリを受け取った。蓋を開けながらむきプリ君の背後で食事に勤しんでいる玲の方へと戻ろうとする。だが、その時――
「うわっ!?」
「ぬおっ!?」
 不意に躓きコケた直斗は、その拍子に瓶をむきプリ君の口に突っ込んでしまった。突然口内に入ってきたホレグスリを、むきプリ君は勢い飲み込んでしまう。
「しまった! 俺は……! おい、お前……。……ん? お前、よく見ると可愛い……うおおおおおおおおお!」
「うわあああああああ!?」
 女装むきプリ君は目をハート型にして直斗のズボンを無理矢理脱がした。そして、元気になったアレを――

 その頃、チャイナドレスを着て美少女に変装したミヒャエル・ホルシュタイン(みひゃえる・ほるしゅたいん)は、半ば無理矢理連れてきた神無月 勇(かんなづき・いさみ)と一緒にパーティ会場に向かっていた。広告を見た時に『あれ? ここってムッキーが闘神に掘られたホテルでは?』と気が付いたからだ。そこからむきプリ君の臭いを感じ取り、こうして来てみたわけである。海で手に入れたホレグスリを混ぜたチョコも持ってきている。
「ムッキー……ガイドに『身体前面にオイルを塗って海でナンパする→誰にも相手にされない』と書いてあったけど、僕達が相手をしてあげたじゃないか!」
 そんなメタ発言を繰り出しつつ、ミヒャエル達は会場に到着する。……正直すんません。でもほら! ナンパしたモブという名の女子には相手にされてなかったから! モブ抜かしても絡んだの3組だけだったし! ……いえほんと、すみませんでした、はい。
 そして、地の文が謝罪している間にミヒャエルはむきプリ君の姿を見つけた。本能の獣となったある意味ピュアな瞳で、いたいけな少年を追い回している。
 そのむきプリ君を見て、主なところでは服装を見て、ミヒャエルは思わず吹き出した。
「ムッキー……あれで男の娘のつもりなのか?」
 現時点のミヒャエルには判りようもないが、事後であるが為にむきプリ君はノーパンである。スカートで良かった。でなければ蒼フロ倫に触れていたところだ。
 勇がぼーっとしている中、彼は笑いを必死にこらえながらむきプリ君に話しかける。それは結果として、惚れられ追われていた直斗を助けることになった。
「待て! 待ってくれ! 俺とずっと一緒に……!」
「や、やあ、ムッキー」
「ん? お前は…………女!」
 特技の誘惑を使って気を惹くと、むきプリ君は見事に釣られて突進してきた。持っていたホレグスリを口に突っ込もうと襲い掛かる。
「ムッキー、僕だよ僕。ほら」
 飲ませるのと飲まされるのは小さいが大きな違い、というわけでミヒャエルは急いで正体を主張した。分かりやすいように「ボコる……。凹る……。……受け」とか呟いている勇を隣に据える。
「……? そいつは……? お? ぉ? ……おお! 久しぶりだな!」
(……あれ?)
 正体を認識した途端、むきプリ君は友人に会ったような屈託の無い笑顔を向けた。会う度にピーな事をしているだけに警戒されるだろうと思っていたら、拍子抜けである。
「どうしたんだ? その格好は! 今日も――蒼フロ倫――をしにきたのか?」
「え? う、うん、まあ……」
 どうにも調子の狂う展開だ。ミヒャエルは今回も、『闘神の書』がむきプリ君の尻を狙ってくると予測していた。というか、現時点でパーティ会場に居る。という事で彼から護ると約束して警戒を緩めさせる作戦だったのだが、今日はその必要は無いようだ。
「そうか! では共にするか! ちょうど何か物足りないと思っていたのだ!」
 今のむきプリ君はいつもと変わらず女も好きだが、ホレグスリで男に惚れた事で後ろの方もOKになっていた。
「きっと、さっきは俺が攻めだったから物足りなかったのだな! さあ、攻めてくれ!」
「え、ああ、そうだね」
 やりづらい。なんだかすごくやりづらい。のでミヒャエルは当初の予定通り勇に吸精幻夜をかけさせることにした。彼の意図を察したのか、勇はご機嫌なむきプリ君に噛み付いた。むきプリ君の目の光が徐々に無くなって、とろんとしていく。
「さあ……ムッキー、寝室に行くんだ……もう何度目かだし、開発されてるよね?」
 幻惑されたむきプリ君にホレグスリ入りチョコを食べさせ、ミヒャエルは耳元でそう囁いた。言われるままに会場の外に出て行くむきプリ君。ミヒャエルと勇もそれに続き――
「「…………」」
 その一部始終を見ていた闘神とラルクだったが、その展開にしばし言葉を失った。このパーティーの主催者であるむきプリ君。無理矢理自主規制なことをされていたら助けようと思っていたが、先程から積極的に自主規制な事をしている。――ちなみに、2人には直斗がコケた時はちょうど薬を飲んだシーンが死角に入っていて見えず、闘神はむきプリ君が浮気をしたのかと少々ショックを受けていた。
 本能の赴くままに実に楽しそうであったが、今のは“助ける”べきか否か。
「操られてするのはムッキーの意思とは違うんだぜぃ!! ラルク、ムッキーを助けるぜぃ!!」
「おう! 行くぜ!」
 そして、遅ればせながら闘神とラルクも会場を飛び出した。

              ◇◇◇◇◇◇

「な、何なの? このパーティー。主催者、ちょっといろんな意味でヒドくない?」
 むきプリ君達が去った後のパーティー会場。あまりの光景が展開されたが為に人々は皆茫然とし、そこには妙な静寂が広がっていた。バイキングの食べ物が着々と減っていき、それと共に帰宅者続出の会場だったが、残っていた者達の多くが『さっさと帰れば良かった』と心底から後悔した。
 そんな中、場内の無音を破ったのはシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)に誘われてパーティーに来ていたセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)である。彼女達は、むきプリ君が周とナンパを始めた頃――つまりむきプリ君が本領を発揮して暴れ始めた頃からこの場にいたのだが、数々の乱痴気騒ぎを見せられてセイニィは少しご立腹ぎみだった。
「女の子の口調でチラシを作ったかと思えば男で、しかも女装してて、会場を走り回ってナンパしてボコられて、爆発して、今度は……ごほん」
 それ以上を口には出来なかったらしく、彼女は咳払いで誤魔化した。
「まあまあ、お料理自体は確かなものでしたし、それなりに楽しめたじゃないですか」
 それを取り成すように、シャーロットはセイニィに柔らかい微笑みを向ける。事実、シャーロットはこのパーティで起こった騒ぎのそれぞれを楽しんでいた。
「まあね。料理は最高だったわ。今は殆ど残ってないけど」
 セイニィは料理やケーキの並んでいたテーブルを見る。玲に片端から食べられ、取り皿に乗せて食べられそうなものは既にごく少数だ。
「ていうかあの変態って前、あたし達に変な薬飲ませようとした奴よね。ボコってやったけどさ」
 いつぞやの夏を思い出してセイニィは言う。そこで、シャーロットは手作りのチョコレートを差し出した。それを見て、彼女は一瞬表情に躊躇いを見せた。
「何よこれ、チョコレート?」
「パーティーの終わりに渡そうと思っていたんです。受け取ってもらえますか?」
「受け取るだけなら、受け取るけど……」
 セイニィは笑顔とはいかない顔で、チョコレートを受け取った。
「あたしがクリスマスに言ったこと……覚えてるよね?」
 若干真剣な目で見つめられ、シャーロットは返事の代わりに軽く目を閉じた。会場全体を見渡しながら、おとぎ話を語るように、どこかの詩を諳んじるように、彼女は穏やかな口調で話し出す。
「あるところに、狙った獲物は必ずしとめる犯罪者を曾祖父に持ち、その後継者として育てられた少女がいました……」
 セイニィが怪訝そうな表情になるのが分かる。だが、彼女は話し続ける。この物話を、最後まで聞いてほしかったから。自分が『狙った獲物は必ずしとめる犯罪者』と呼ばれた曾祖父の後継者であり、遺産として曾祖父が作り上げた組織や人脈を引き継いでいるという事実を、自らの口で告白したかったから。
 去年のクリスマス、人口雪の降る広場でセイニィは言った。答えを待ってほしい、と、ニルヴァーナ探索隊が帰ってきたら返事をすると言ったその後で。
『それから……私が裏切りを嫌いだってこと、知ってる……よね?』
 と。
 シャーロットは考えた。“裏切り”――それは誰に対しての、何に対しての事なのか。
 セイニィに対して、という事であれば絶対にありえない。
 ――だけど、私自身の事で、まだセイニィに告げていない事がある。
“私立探偵を表の顔とし、犯罪者を裏の顔とする”……のは、後継者を作ろうとする『彼ら』を欺くための嘘。実際のところは真偽が逆で、私立探偵として活動するために曾祖父の後継という立場を利用している。
 ――この事について私のとっている態度や行動は『裏切り』と呼べるだろうし、真実がどうであれ、『裏切り』に見える行動をとった事も無くはない。
 隠していた訳じゃない、でも知られたくないと思っているのも事実。
 告げる事で嫌われるのは正直怖いけど、セイニィに対して誠実でありたい。
 ――だから告げよう、私と向き合ったセイニィが答えを出せるように。
「……おしまい」
「…………」
 最後まで、セイニィはその物語を黙って聞いていた。不機嫌なような、それでいてもどかしいような、そんな表情。そして、彼女が言ったのは。
「……そう。それが何?」
「……え?」
「そういうお話もどこかにはあるかもしれないわね。でも、あたしは興味無いわ。そんな事」
 シャーロットを見据え、冷めた目をしてセイニィは言う。もしかしたら、少し怒っているのかもしれない。
「名前とか曽祖父とか、関係無いわ。その名前を誰がどう使ってようと、気にしないし責める気もない」
「でも、それじゃあ……」
「ちがう。そうじゃないの」
 戸惑うシャーロットに、セイニィは1つだけ最後に告げた。
「あたしはロイヤルガードよ。……分かってる?」