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海の都で逢いましょう

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海の都で逢いましょう
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●震える海……その後

 脅威の全裸愉快快楽犯が伝説級の出現を遂げ、これまた伝説級の退場をしたのち、ふうとスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)は息をついた。
「彼の暴走は褒められたものじゃないけど、大いに盛り上がったのは事実だね」
「あれは盛り上がったんじゃないわよ。騒ぎになっただけ!」
 鬼羅に最初の一撃を決めた興奮が冷めやらないのか、蓮華の声は上ずっていた。
 本日、蓮華は水着姿ではない。軍服を着てきっちりと軍務のつもりで参加している。
 最近、彼女はユージン・リュシュトマ少佐の正補佐官たる役目を前任者から受け継ぎ、拝命した。それはいい。しかしその役割の重さ、さらには、魍魎島での戦いの後始末から自身の力量不足を学んだことがもたらす焦燥からか、このところずっと蓮華の表情は冴えなかった。軽く言えばしかめっ面、もうすこし重く言うなら苦悩する顔つきがとれなかったのである。
 気晴らしに、とスティンガーがこの交流会の話を持ってきてくれたのだが、
「パラミタが大変な時に遊ぶなんてとんでもない! 団長が頑張ってるのに末端が遊んでどうするの!」
 せっかくの提案なのに、彼女は意固地になってこれを断ろうとしたのだった。
 しかしスティンガーは蓮華の扱いを心得ている。だったら、と提案したのだ。
「警備としていけばいい。で、ついでに肉もたべたらいいさ」
 上手く丸められた格好だが、これでは蓮華も了承せざるを得なくなり、こうして『警備を兼ねて参加』という立場になったのだった。
「まあこれで不埒者も捕まえることができたし、それ以外の問題は天学の風紀委員がきっちり対処してくれてる。多少は交流会らしいこともしておこうか」
 社交的なスティンガーが上手く誘導して、二人は複数の学校の者がいると思われるコンロについた。
「ここ、いいかな?」
 よりによってそこに行く、と蓮華は思った。なぜならスティンガーが選んだ場所は、いかにも取っつきの悪そうな少年の隣だったからだ。少年は学ラン、リーゼントにした頭で目突きが悪く、ガツガツと肉を焼いて食べている。番長とかそういう表現が似合いそうなバンカラだ。彼は言った。
「構わねえぜ。ただ、肉は自分で焼いてくれよ」
「三鬼、そんな無愛想じゃだめじゃん。ほら、ご挨拶ご挨拶」
 そのパートナーらしき、妙にけばけばしいセンスの少女が彼に言いきかせると、
「……別に無愛想にしたつもりはねぇんだがな」
 と言ってからリーゼントの少年は浦安 三鬼(うらやす・みつき)と名乗った。パートナーの少女は魔威破魔 三二一(まいはま・みにい)だという。タダ飯につられて波羅蜜多実業高等学校から来たそうだ。
「バンカラは泳がねぇんだ」
 かく断じて、三鬼は自分が水着でない理由を説明した。三二一が普通の格好なのもそれが理由らしい。普通……といってもハートマークがやたらと散らされたスカートにジャケットが、普通なのかどうかはちと疑問が残るが。
「おまえらコスプレか?」
 肉は自分で焼け、と言ったにも関わらず三鬼は焼きたての肉を蓮華たちに取り分けながら問うてきた。
「コス……コスプレに見える?」
 軍人です、と言わんばかりに胸を張っていただけに、蓮華はこの言葉に落胆する。
 スティンガーが問うた。
「単刀直入に聞くんだねえ。これは本物だよ。よければコスプレと思った理由を聞かせてくれないか」
 すると焼きトウモロコシをガリッとかじって三鬼は言ったのである。
「おまえじゃなくて女のほう……董だったか? その董は最初からずっと、肩に力が入りすぎてるように見えたからだ」
「力が……?」
「不良の世界には二種類あんだ。喧嘩が強いヤツと、強いフリをしてるだけのやつと。喧嘩が強いフリをしてるヤツはすぐわかる。力が入りすぎてっから」
「だからコスプレっぽく見えたわけ……ちょっと、頑張りすぎてたのかもね……」
 ふっと蓮華は微笑した。すると変に張りつめていた気合いが抜け、いくらか自然体になる。それでも背筋はしっかり伸びているし、目線も真っ直ぐだ。
「それなら軍人に見えるぜ」
 ほらこれも食べ頃だ、と言いながら三鬼は、肉の他にスライスした玉ねぎの焼きたても取ってくれた。ぶっきらぼうで口も悪いが、案外と面倒見のいい性格のようだ。
「美味しい」
 食べてすぐに蓮華は幸せそうな顔になる。でも、少しもの足りないではあった。
「でも……七味かトウバンジャンはないの?」
「へぇ、辛いの好きなの?」
 三二一がトウバンジャンの瓶を手渡してくれる。
「あたしはダメ、辛すぎると味が分からないし、パレードになっちゃう」
「パレード?」
「辛すぎてヒーヒー走り回るってこと」
 三二一はケラケラと笑った。ざっくばらんだが彼女もフレンドリーだ。
 第一印象で見た目だけで判断するものじゃないな――蓮華はつられて笑いつつも恥ずかしい気持ちになっていた。
 結局彼らとは親しくなり、連絡先まで交換して別れたのである。

 これは交流会が終わってからの話だが、
「第一印象に惑わされぬ観察眼をつけろ……そのことを教えたくてスティンガーは彼らの隣を選んだのよね?」
 蓮華はスティンガーに聞いたのだ。
「え? たまたま近い場所に行っただけだよ」
 ……というのが、彼の回答だったわけだが。