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第16試合

 
 
『続いて、第16試合です。
 イーブンサイド、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)パイロット、緋山 政敏(ひやま・まさとし)サブパイロットのコンビによる黒月
 対するオッドサイドは、AI制御による凄まじい枕です』
「待て、なんなんだあれは、ふざけてるのか!」
「えーっと、多分そういう機体ですから……」
 敵イコンを見て憤慨する緋山政敏に、色物相手に何を言っているのかしらとカチェア・ニムロッドがちょっと溜め息をつきながら言った。
 黒月はベーシックなプラヴァー・ステルスだ。その特性を生かして、主にのぞきに特化している。壁に穴を開けるためのソードブレーカーや、拡大するためのスコープ、逃げるときのためのエナジーバーストなど、それむけの機能が満載だ。
 対する凄まじい枕は、巨大な枕である。それ以上でも以下でもない。
「これじゃあ、敵を撃破して、壊れたコックピットであられもない姿をしている女性パイロットを、ステルスモードでじっくりと記録してから、大丈夫ですか、お嬢さん。どうですか、この後でお茶でも、互いの健闘をたたえ合いま……」
「もう、黙っててください! 出ますよ!」
「待て、せめて、シャレさんにアプローチを……」
「この間、彼氏いるからってきっぱり振られたでしょうが。もう」
 諦めの悪い緋山政敏を無視して、カチェア・ニムロッドがステルスモードの黒月を発進させた。左右に開いた大仏殿から、カタパルトがのびて黒月が射出される。眼下は、桜の咲きほこる古都であった。葦原島か、マホロバの風景であろうか。風に、ひらひらと桜の花びらが舞っている。
「風流だねえ……うっ」
 のほほんとしていた緋山政敏が、前方に凄まじい枕を見つけて言葉を詰まらせた。
「もう、涙すら涸れ果てたわ。馬鹿野郎。カチェア、一撃で吹っ飛ばせ!」
「分かってます」
 ステルスモードで射程距離内に接近する黒月であったが、その周囲に桜の花びらではない何か白い物が漂っていた。その数が急激に増えて、黒月を押しつつむ。
「なんだこれは!?」
 あわてる緋山政敏たちの前方で、凄まじい枕がボンボンと自分の身体を叩いていた。そこから、質の悪い羽毛が抜け出て空中に漂っていく。
「こんな物……」
 強がる緋山政敏であったが、羽毛が邪魔で光学センサーが役にたたない。それどころか、せっかくステルスモードで隠れているのに、移動と共に漂う羽毛が乱れ、黒月の位置が丸見えであった。
「カチェア、ツインレーザーライフルだ……うおっ!?」
「きゃっ!」
 攻撃しようとした黒月が、激しい衝撃で吹っ飛ばされた。凄まじい枕が、敵を見失っていた黒月に激しい体当たりをしかけてきたのである。
 墜落した黒月が、地上の建物を薙ぎ払うようにしてすべっていき、五重塔にぶつかって止まった。
「被害は?」
「遮蔽ユニットをやられ……くるぞ!」
 緋山政敏の言葉に素早く反応したカチェア・ニムロッドが、バーストダッシュでその場を離脱した。直後に、凄まじい枕のボディプレスで、崩れた五重塔が粉々に粉砕される。
「色物機体が、なんであんなに強いんだよ!? これで、もし、負けでもしたら……」
「称号に、色物に負けた奴とか、凄まじい枕以下のイコンってつきますね、絶対……」
「もう失う物はないと思っていたが、そんな称号は嫌だあ!」
「私だって嫌です! お返しです!」
 カチェア・ニムロッドが、エナジーバードを発動させて凄まじい枕に体当たりをかました。
「!」
 凄まじい枕が、中央を黒月に貫かれ、大穴を開けてあおむけに倒れた。直後に大爆発を起こして羽毛を散らした。
 
    ★    ★    ★
 
『勝者、黒月です!』