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エデンのゴッドファーザー(後編)

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エデンのゴッドファーザー(後編)

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 そしてマルコ達がついに、ロメロの棺の元に辿り着いた。

「あれっ……部下が全員死んでる……」

 司は驚きに声を上げた。
 連絡が途絶えもしやと思っていたが、探索に駆り出した者が1人も生き残っていない。

(くぅ……連絡がないからもしやとは思っていたが……飛都……やられたのか)

 30、40、50階と階段をマルコと共に上がり続けた彼の秘書神凪 深月(かんなぎ・みづき)は、同じファンタスティックのメンバーを見て顔を背けたくなった。
 しかしそうできないのは、身元を晒すわけにはいかないからである。

(どうする、やっちゃうの?)

 深月の影に溶け隠れた深夜・イロウメンド(みや・いろうめんど)が彼女に問う。
 今は全員がロメロの棺に意識を向けており、誰もマルコを気にかけていない。
 そのマルコもこれが金庫なのかという面持ちで立ち尽くしていた。
 今なら殺せる――。
 しかし、殺した後にどうするか――。
 鍵は奪うだろう。
 そこまでの見通しは立っている。
 しかしながらここに金庫があり、マルコと同行した契約者達もいる。
 戦ってどうにか逃れられるのか――。
 逃れたとして今度は金庫の問題も出てくる。
 場所はいくつかある非常階段のうちの1つで、しかも狭い空間の踊り場。
 ただこのままではマルコが間違いなく鍵を使って開けるのは明白で、行動を起こさずに事態を維持するのも不可能だ。

(……やるしかないであろう)

 深月が意を決し一歩踏み出そうとした時だった。
 彼女の本に成りすましていたクロニカ・グリモワール(くろにか・ぐりもわーる)が、強烈な殺気を感じ制した。

(壁から……きますッ! そして棺の傍にも1人隠れています)

 次の瞬間深夜が深月の影から姿を見せ、棺の傍に隠れている人物に向かってアポミネーションしながら噛み付きに行き、それとまた同時に、階段へ続く扉が壁事ぶち破られた。

「くっ、あと少しってところで――!」


 不幸だったのは、給仕を仕切る長から確認をとるまでもなく、タイミングを見計らったかのようにロッソが取り巻きを勢揃いさせて現れた事だった。
 ロッソは祥子の顔を見てひとまずは頷いて見せた。
 こいつはウチの構成員だと手で周りを制してくれたのだが、
「乗れ」
 彼は祥子に近い車の後部座席のドアノブを開いて、座るよう促してきたのだ。
 乗れるわけがない――。
 全ての車に罠を仕掛けているのだから、もし後部座席に腰を下ろすようなことがあれば、トイレのウォシュレット並みの噴射ならば尻の火傷で済むが、月まですっ飛ぶことになる。
 祥子が躊躇ったのを見逃さなかったロッソは、取り巻きの1人の首根っこを掴んで後部座席に放った。
 ――ボウフッ!
 案の定取り巻きは月まですっ飛び、一斉に銃を向けられた祥子だったが、爆破に気を取られた一瞬の隙に光学迷彩を発動させ、逃げ出した。
 兎にも角にも、ロッソの暗殺は失敗に終わったが情報は得た。
 これをベレッタに届ければいい。
 オールドの契約者は全マフィアの中で最も多いが、その分――。
 もしかすると、という注釈付きではあるが、カジノで一つ事が起きた時、オールドのボスは確実にすり替わるだろう。
 そうなければ一枚岩にはならない可能性は大いにある。
 考えを巡らせ、ロンドの庇護を受けられる場所まで走った。


 隠形の術で姿を消し、金庫の傍で機を窺っていたのはロンドの契約者の1人、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)で、


 冴王が作り出した機を無駄にはできない。
 六黒は煙幕の中一気にベレッタへ詰め寄り、顔を突き合わせるほどの距離をとって言葉を交わす。
 それはベレッタの首を狩るのと同じレベルで大事な事だった。
「どうした、私の首はいらないのか?」
 こんな状況であるにも関わらずわざわざ小声でこちらを見透かしたように言うのだから、慣れているのだろう。
 獲物を前に舌なめずりする者や――そう、寝返る者の存在と対応に――。
「簡潔に聞くこう。おぬしはエデンのこの状況を続けるのか、終止符を打ちたいのか――」
 この状況とはマフィアが乱立し、凌ぎを巡る状況のことだ。
 もし、独裁者のような一人の王を生みたいのならばそれはよろしくない。
 その1人を倒せば全てが終わるからであり、また、非常に明確な目標物として『正義』の標的になる。
「成る程。日向の介入を許したくない者としては当然の心配、危惧だ。だが安心するがいい、エデンに万人が愛するクソったれな言葉と行動は存在させない。私は薬莢の臭いと音を愉しめればいい。我々は子供ではないのだ。玩具が壊れれば親が買い与えてくれる存在ではない。玩具を有効に、有意義に、壊さないように扱う存在だ」
「……今、わしが剣を振るって受け止められる存在は傍にいるか」
「1人――。保険で依頼をした殺し屋が姿を隠して側にいる」
「良かろう――。わしはシェリーをゴッドファーザーにする契約を受けておる。そしてそれを達した後はおぬしのような者が愉しめる事を約束し、力添えしよう。聞け、これが――」
 六黒が剣を振るうと頭上から唯斗が飛び降りてくるのが見え、そこに合わせる様に薙いだ。
 これが――わしの金打よッ!


「ようやく見つけたぞマルコ――。おぬしを殺し鍵を得、わしが永遠にエデンを保つゴッドファーザーになろう」

 壁を破壊して登場してきたのは三道 六黒(みどう・むくろ)とその仲間達だ。

「くそッ、最悪の混ぜ物が出来上がったぜ――ッ」

 舌打ち交じりに小さく呟いたのは、イコナラチャン側の源 鉄心(みなもと・てっしん)だった。
 しかしながらそれは誰もが思う所であった。
 1つはカーズであるマルコをゴッドファーザーに押し上げようとする面々――。
 そして自身がゴッドファーザーを目指す組が3つに、ファンタスティックのメンバー――。
 仲間以外ほとんどこの場にいる誰もが相手の現状を知らないのだから、ほとんどが敵に見えてしまう。
 故に攻撃の一手なのか、撤退の一手を打つのか決めかねていた。