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第3章 すれちがいとアップリケ

『妹? こっちに来るの?』
「ええ。是非セイニィにも紹介したくて。一緒に会ってみませんか?」
 地球から妹のキャロル・モリアーティが遊びに来る。せっかくの機会だから、彼女にも自分の愛する大切な人、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)を紹介したい。
 そう思って、シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)はセイニィに連絡を取った。
『ふぅん……、今日は別に予定もないし、いいわよ』
「ありがとうございます。では、現地で合流しましょう」

「……あら?」
 だが、待ち合わせ場所に行くと、2人の姿はどこにも無かった。
「どこに行ったんでしょう……」
 時計を見ると、約束の時間は少し過ぎたくらいだった。2人はもう会えたのだろうか……その筈だ。天真爛漫な妹は、シャーロットを待ちきれずにセイニィを連れ、この辺りを探検しているのかもしれない。
 キャロルの性格や行動パターンからそう考えたシャーロットは、2人を探しに行くことにした。2人の特徴を元に聞き込みをすれば、居場所も判るだろう。

 しかしキャロルは、1人だった。
「ここが空京かあー! 面白そうです!」
 シャーロットの推測は半分だけ当たっていた。待ち合わせ時間よりも早く空京に着いた彼女は、猫のように好奇心の向くまま、空京探検を始めていたのだ。ただそこに、セイニィはいない。そもそも、彼女はシャーロットがセイニィを誘っていたことを知らなかった。
「いろんなお店がありますねー……きゃっ!」
「わっ……!」
 街中を小走りで移動していたら、前方から来ていた誰かとぶつかった。バランスを取ろうとして取りきれなくて、キャロルは前のめりになって転ぶ。近くで、ぶつかった相手も転んだ音と、声が聞こえる。
「いたた……ちょっとあんた、大丈…………」
「……?」
 不自然に声が途切れ、キャロルはそのままの姿勢で振り返った。その先では、尻餅をついたセイニィが自分のお尻を凝視していた。何だろうと思ったのは束の間、理由はすぐに思い当たった。キャロルのスカートがめくれて、下着が丸見えになっている。今日穿いてきているのは、くまさんアップリケのついた下着だった。
「あんた、それ……」
「セイニィさんですねっ!」
 シャーロットから話を聞いたり写真を見せてもらっていたキャロルは、セイニィのことを一方的に知っていた。ぴょこんと立ち上がって、彼女は言う。
「いつもニコニコあなたの隣に這いよる混沌、キャロル・モリアーティです♪」
「…………。そ、そう……」
 キャロルを見上げたセイニィは、ぽかん、としたままそれだけ言った。それから気を取り直し、立ち上がる。
「とにかく気をつけなさいよ。じゃあね……って、ん、モリアーティ? もしかして、シャーロットの妹って……」
「そうですー! 偶然ですね!」
「なんでこんなところに。シャーロットと待ち合わせしてたんじゃないの?」
「待ち切れなかったんです! セイニィさんもお姉ちゃんと約束ですか? じゃあ一緒に行きましょうー!」
 無邪気にそう言って、キャロルは元来た道を戻り始めた。穏やかな印象のある姉とは対照的に、随分と元気で人懐こさを感じる子だな、とセイニィは思った。
「……ところで、あれ、何だか可愛い下着だったわね……」
「あ、あのくまさんのアップリケですか? あれは、地球でしか売ってないデザインのアップリケで、かわいいから縫い付けてみたんです!」
「え、自分でやったの?」
「はい! もう中学生だしお裁縫は得意なんですよ!」
 キャロルは無い胸を張って、嬉しそうに言った。
「へー、地球でしか買えないのね。どうりで見たことがないわけだわ……」
「あっ、セイニィさんもくまさんアップリケ好きなんですか?」
「! べ、別に……! 好きじゃないわよあんな……」
 その時、不意に強い風が吹いてセイニィのミニスカートがめくれた。その瞬間、キャロルはばっちりと彼女の下着を目撃した。
「やっぱり、好きなんですね……!」

 それからキャロルは、パラミタでの姉の様子やセイニィの事、色々な事を思いつくまま、好奇心が働くままに聞いてみた。話をしながら待ち合わせ場所に戻り、2人は揃って首を傾げる。時計を見ると、とっくに約束の時間は過ぎていて。
「お姉ちゃん、私を探しに行っちゃったんでしょうか?」
「そうかもしれないわね。シャーロットが遅れるとは思えないし」
「大変です! 探しに行かないと……!」
「え!? ちょ、ちょっと……! ここで待ってた方が……って、聞いてない!?」
 走り出すキャロルを、セイニィは慌てて追いかける。シャーロットが戻ってきたのは、彼女達が去った数分後だった。
「おかしいですね。こっちへ歩いてる2人を見たという目撃証言が幾つもあったのに……」
 私立探偵らしく通行人や路上販売の人に聞き込みをして、キャロルとセイニィが正面衝突の末にくまさんパンツで、一緒に歩いていったというところまでは分かっている。それが間違いでないのなら。
「すれ違ってしまったのでしょうか……?」
 そうして、シャーロットは再び待ち合わせ場所を離れていった。携帯を使って連絡を取れば早いのだがそこに思い至らず、手帳片手に聞き込みを再開する。だが、携帯の存在を忘れていたのはキャロルとセイニィも同じであり――
「あ! お姉ちゃん!」
「あー、もう! どこに行ってたのよ探したのよ!」
「私も探しました……。何か2人、仲が良いですね……?」
 笑顔で近付いてくる妹と、怒りながら早足で歩いてくるセイニィ。紹介するつもりだったのに、既に打ち解けているようだ。
(どんな話をしたのでしょう……?)
 妹相手だけれど、何だか妬ける。その感情は、むー、と外面に現れていて、キャロルはそんな姉を見て、「あれ……?」ときょとん、とした。
(お姉ちゃんがヤキモチやいてる……? 始めて見た!)
 いつも冷静なシャーロットの態度を新鮮に感じ、彼女は何だか嬉しくなった。