リアクション
日が落ちてから。
空京のロイヤルガード宿舎前で、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)はアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)と待ち合わせていた。
康之もアレナも普段着。
いつも通りの2人。
いつも通り、顔を合せて微笑み合って、一緒に街へと歩き出した。
「人が多いな、クリスマスイブだしな……」
祭りの時ほどではないけれど、街中には人が溢れていた。
逸れないように、と。
康之はアレナと手を繋いで歩いていく。
「ぴかぴか光ってて、綺麗で。街の人達も楽しそう、で」
アレナは康之に笑みを向ける。
「嬉しくなりますね」
「ああ、いつも賑やかな空京がもっと賑やかになるよなぁ。こういう皆が幸せいっぱいって雰囲気大好きだな!」
「はい」
幸せそうな人々に交じって2人は歩いて……。
広場に置かれ、街の人々に寄り飾られたツリーの前に訪れた。
ツリーの周りには、2人掛けのベンチがいくつも置かれている。
まだ少し早いこの時間には、若者達の姿が多い。
両親に手を引かれ、はしゃいでいる子供の姿もあった。
康之とアレナはベンチに並んで腰掛けて、大きなツリーを幸せな空気に包まれながら、眺めていく……。
「康之さん」
「ん?」
がさごそ、アレナは鞄の中から何かを取り出して。
自分に目を向けた康之に「はい」と差し出した。
「クリスマスには、ケーキを食べるということなので、康之さんの分です」
半透明のラッピング袋の中に、チョコチップが乗ったカップケーキが入っている。
「お友達とパーティやるかもですので、ちょっとだけ、ですけれど……クリスマス、プレゼント、です」
「あ、りがと。もしかして、手作り?」
康之が驚きながら尋ねると、アレナは少し恥ずかしそうに首を縦に振った。
「サンキュー……。すげぇ嬉しい、嬉しいぜ、アレナー!」
康之が満面の笑みを浮かべると、アレナもとっても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「くぅ、食べたい。だが、今食べちまうのは、なんかもったいないぜっ」
カップケーキを眺めながら、康之はしばし葛藤した。
「あ……でも、実は」
彼女からのプレゼントをもらう前に、食べる前に――話しておかなければいけないことが、ある。
それから2人は、人々の手で飾られた美しいツリーに、また目を向けた。
互いを見ていない時にも、今確かに隣にある、互いの存在を感じていられるように。
手を繋いで。