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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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第二章 ホーティ盗賊団 3

「ちっ! いったい何が起こってるんだい!」
 お宝の隠されている部屋にいたホーティ盗賊団のホーティは、敵の攻撃を受けて振動を繰り返す飛空艇に怒りを飛ばした。
「それは、謎の飛行生物たちが飛空艇を襲ってるからだよ!」
 説明してくれたのは、緑の髪をツインテールにした小柄な少女だった。
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。飛空艇に乗り込んだ契約者の一人だ。美羽たちは、武尊とレジーヌから盗賊団を見つけたという報告を受けて、お宝を袋に詰めこんでいた盗賊団たちのもとにやって来たのだった。
「飛行生物! どういうことだい!」
「どうもこうもありません。要するに、私たちは狙われているということですよ。謎の敵に」
 ジア・アンゲネーム(じあ・あんげねーむ)が冷ややかに言った。
 その反面、ホーティ盗賊団の巨漢のバルクは、ジアの言葉を聞いてわめきだした。
「ね、狙われてるってなんなんだ! お、俺たち、これでおしまいってことか!」
「落ち着きな、バルク! 慌てたってどうしようもないんだよ!」
 ホーティに言われ、ようやくバルクは落ち着きを取りもどした。
「とにかく、この船が壊れたらあんたたちだって無事じゃ済まない。ここは一つ、協力するのが得策だと思わないか?」
 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)がホーティたちに言った。
 ホーティはぐっと黙りこんだが、いつでも逃げ出せるようにバルクとルニに目配せをした。が、それを察知した燕馬のパートナー、サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)が銃を突き出し、ローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)が手足を縛るための枷を懐から取りだした。さらに、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)までもが銃に手を伸ばす。
「待ってください! 争いごとは駄目ですよ!」
 ホーティたちとの間に割って入ったのは、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)だった。
「月夜。お前もだ。銃は抜くんじゃない」
 月夜には、樹月 刀真(きづき・とうま)が諭すように言う。
「…………わかったわよ」
 月夜はむっとした顔をしながらも、素直に銃から手を離した。
 サツキが、威嚇を続けながら言った。
「お話は最後までお聞きなさい。燕馬が、どうやらあなた方にまだ話があるようですので」
「話? これ以上、なんの話があるっていうのさ」
 ホーティが怪訝そうに言う。燕馬は肩をすくめた。
「まあ、聞いてくれ。あなたたちは出来ればこの船のお宝が欲しい。さらに言えば、もっと高価なお宝だって欲しい。そうだろう? だったら、この船に乗ってるのは利口だ。知ってるかもしれないが、この船はいま未確認の浮遊島に向かってる。そこにはきっと、誰もが知らないお宝が眠ってるはずだ。俺たちに協力する代わりにその浮遊島につけるなら、安いもんじゃないか?」
「ほ、本当なんだな! す、すごいすごいっ! お宝の島だ!」
 話を聞くと、バルクは子どもみたいにルニの手をつかんではしゃいだ。
 だが、ホーティだけは、じっくりと考えを巡らせているようだった。
「その浮遊島にお宝が眠ってるってどうしてわかるんだい?」
「そりゃ、宝島ってのがあるぐらいだからな。お宝ぐらいありそうだろ。お宝探しは俺たちが協力してもいいし……。でもま、仮になかったとしても、だ。この船にあるお宝はあんたらが持って行けばいい」
「なるほどね。一石二鳥ってわけかい」
「そういうこと。どうだ? 協力する気になったか?」
 燕馬がたずねると、ホーティはしばらく頭を悩ませた。その間に、サツキが燕馬にこそっと聞いた。
「本当に、お宝探しを協力するつもりですか?」
「まさか。協力『してもいい』とは言ったな。可能な限り善処するとも」
「おお、政治家の答弁ですね」
 サツキが感心する。ローザはフォローするように言った。
「それじゃあまりにかわいそう。……教導団に見つからない程度には動いてあげましょうよ」
「ま、やれる範囲でな」
 燕馬が言う。すると、いつの間にかホーティの傍に、奇妙な巨大招き猫がいることに気づいた。
 マネキ・ング(まねき・んぐ)とかいう招き猫の置物みたいなポータラカ人だ。マネキは、ホーティたちの周りを動き回りながら、なにやらぼそぼそと囁いていた。
「フフフ……目的地のあの場所には莫大な財宝が眠っているのだよ。この作戦に乗らない手はない」
「な、なんだい、あんたは!」
 ホーティが戸惑った声を出す。しかし、マネキの隣にいる冷 蔵子(ひやの・くらこ)が、マネキを褒め称えた。
「さすがお母様! こんな社会の役にも立たないゴミくずどもをに助言を与える慈悲と母性に、痺れるし憧れますデス!」
 どこからどう見ても冷蔵庫にしか見えない機晶姫と、招き猫の置物にしか見えないポータラカ人の騒ぎに、ホーティはげんなりした顔になった。
 と、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が、そんなホーティをフォローする。
「コイツらの妙な言動はあまり気にしない方がいい……。苦労が増えるだけだ」
「そ、そうなのかい? それなら、いいんだけど……」
 セリスはいつまでも妄言を吐き続けるマネキたちに呆れながら、ホーティをさりげなく避難させた。
「それで? どうする? ホーティさん。俺たちに協力するか?」
 燕馬が言うと、ホーティは「しかしだね……」と悩んだ声を出した。
 すると美羽が「ホーティさん……」と呼んだ。ふり向いたホーティの目に、決然とした顔つきの美羽が映った。
「無転砲が発射されたら、世界が崩壊するっていう話だよ。そうなったら、お宝どころのさわぎじゃないでしょ。だから、お願い。浮遊島に行くためにも、手伝って欲しい」
「美羽の言う通りだ」
 刀真が続くように言った。
「どちらにせよ無事に地上に戻れなければ、金銭の使い道もない。この飛行生物たちの群れをどうにか突破しないとな」
「そりゃそうだけど……」
 ホーティはまだしぶっている。しびれを切らしたように、刀真が赤く輝くあるものを投げた。
「ルビーだ。まあ、こっちの信頼を得るためってわけじゃないが、前払い程度にはなるだろう。それで、なんとか手伝ってもらえないか?」
 ホーティは手のひらに乗ったルビーを見ながら、しばらく考えた。
 それから、しかとうなずいた。
「わかったよ。このホーティに二言はない。あんたらに協力してやるさ」
「ホーティさん……」
 美羽が嬉しそうにつぶやく。ホーティにそれに笑みを返して、それから刀真たちに言った。
「さあ、ブリッジへ案内しな!」

 ホーティ盗賊団がブリッジにやって来たとき、すでにベルネッサたちの受け入れの準備は整っていた。
 円たちが、刀真からテレパシーで連絡を受け取っていたのだ。
 ホーティはベルネッサの隣に立って、通信士や操縦士たちから状況を聞き、対策を考えた。
「なにか、良い方法はある?」
 ベルネッサがたずねる。あごを撫でながら考えこんでいたホーティは、顔をあげた。
「あるには、ある。アレを使えば、なんとかなるかもね」
「アレ?」
 ベルネッサたちが怪訝そうな声をあげる。
「バルク!」
 ホーティは手下の巨漢男を呼んだ。
「アレを使うよ。さっさと動力室に行って、取り付けを開始しな」
「あ、あいあいさー!」
 バルクは敬礼すると、慌てて動力室に向かった。
「いったい、何をするつもりなの?」
 ベルネッサがたずねると、ホーティはにやりと笑った。
「まあ、見てな。あたしらホーティ盗賊団のやり方ってやつをね」
 ベルネッサたちは戸惑った顔でお互いを見合った。なにをするつもりか知らないが、いまは任せておくしかなかった。
 ほどなくして、動力室からの通信が入った。モニターにバルクの馬鹿でかい顔が映り込み、「姉貴ぃ! 取りつけ完了しましたー!」と画面の向こうからさけんできた。
「取りつけ?」
 ベルネッサが聞くと、ホーティは素直に答えてくれた。
「ああ。ヒラニプラのとある研究所から盗んだものでね。『超ハイパーグレードチャンピオンゴールデンブースト』とかいう、もの凄いブースターさ。これなら、飛行生物たちの群れなんてすっ飛ばしていけるはずだね!」
 バルクに向かって、ホーティはさけんだ。
「バルク! ブースタースイッチオン! かっ飛ばしな!」
「了解いいぃ!」
 途端、飛空艇が一瞬だけ動きを止めたかと思ったら、ゴオオオォォォ! と、音を立てて一気に加速した。
 まるで超空間ワープに入ったみたいだ。地震でも起こっているみたいに視界が揺れて、飛空艇は飛行生物たちの真ん中を突っ切っていった。ぐんぐん、ぐんぐん加速する。
「すごいいいぃぃ! このまま、浮遊島まで一直線かもおおぉ!」
 ベルネッサたちが歓喜の声をあげる。
 飛空艇はどんどんスピードをあげ、このまま浮遊島までたどり着く。
 と、そう思った矢先、ガクンッと音を立てて、飛空艇のエンジンが停まった。
 ぷすん、ぷすん……ぷしゅー…………。急に止まったものだから、ベルネッサたちは勢いで横転した。さらに、飛空艇全体のエネルギーがどんどん減少していく。
「い、いったい何が起こったの!」
 ベルネッサが立ちあがってさけぶ。すると、モニタにバルクが映った。
「あ、姉貴ぃ……『超ハイパーグレードブースト(略称)』が壊れちまったよぉ……。しかも、巻き込まれた動力が破損して……飛空艇がまったく動かなくなっちまったぁ……」
 乗組員たちはみな、呆然となった。
 ホーティだけ、無駄に冷静に「うーん」とうなる。
「……やっぱり、試作品を盗んでくるもんじゃなかったね」
「アホオオオオオオォォォォォ!!」
 ベルネッサほか、全員の悲鳴が飛空艇内にこだました。