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第6章 風の巡り合せ

「予想以上に雲の流れが早いわね……」
 空が雲に覆われはじめた。
 天気図を確認してスカイレイダーのリネン・エルフト(りねん・えるふと)はため息をつく。
「今からだと嵐に突っ込んじゃうか」
 時刻は12時を少し回ったところ。
「……時間もいいし、ちょっと休んでいきましょうか」
 愛馬ネーベルを自由にすると、公園の方へと歩いて行った。
 空の様子を把握しておくことと、お店を面倒事に巻き込んだりしないためにも。
 そして、レストランで昼食をとるよりも、風を感じていた方が、寛げるような気がして。
 ワゴン販売で、ピザにサンドイッチに、おかずセットと、お茶とスポーツドリンクを購入して。
 リネンは公園のベンチで、のんびり過ごすことにした。
「昼間っから、カップル多いわね……」
 まあ、自分も大好きな人と、空旅の途中で公園に寄って。のんびり昼食をとれたら、嬉しいのだけれど。
「あら……」
 ふと、目を留めた先のベンチには、女性が独りで座っていた。
 帽子を目深にかぶり、スマートフォンを操作している。
 顔が見えなくても、仕草だけで記憶がよみがえっていく。
「御神楽環菜、さん?」
 名前を呼ぶと、その人物はすぐにリネンの方に顔を向けた。
「あ、やっぱり。外見は少し変わったけれど、変わらないところもあるわよね」
 そうリネンは軽く微笑んで、環菜に近づいた。
「よければ一緒に食べませんか? これも何か……風に呼ばれた縁ってことで」
「……そう、ね。喉が渇いたと思ってたの。お茶を戴けるかしら?」
 環菜はそう答えて、リネンの為に少しずれて座りなおした。
「どうぞ」
 お茶を渡して。から揚げにに卵焼きといった、定番のおかずが入ったパックを開けて、プラスチックのホークと共に、環菜へと差し出す。
「ありがとう。……あなた、リネンよね?」
「え? 勿論そうですけど」
「そう。なんか随分と変わったわね。あなたもナラカにでも行ってきたの?」
「まさか」
 ふふふっと笑った後。
 スポーツドリンクを飲み、リネンは軽く息をついた。
「変わった……かな? 喋るのは今でも苦手です、初対面の人とか」
 環菜と関わっていた頃。
 リネンは内気――というよりも、全くの無口、無感情の戦闘少女であった。
「まぁ……好きな人が元気だから、そのせいかな? 大人しくしてたらおいて行かれちゃうし」
「“好きな人”があなたを変えたのかしらね。眠っていた感情(あなた)を、表に引っ張り出してくれたのかしら」
「そ、そうかな……。でも、環菜さんだって……随分変わったじゃない。最初会った時思いだしたら……もう!」
 くすっと笑って、リネンはお返しする。
「以前のあなたなら、私の変化なんて気にも留めなかったはず。好きな人が、あなたを変えたのかしらね」
 リネンがそう言うと、環菜はうっすらと赤くなり、帽子を被りなおした。
「もう3年、4年……そうよね、そりゃあ、みんな変わっていくわよね……」
 空を見上げると、過去の事。
 蒼空学園のクラスメイトの姿が浮かんできた。
「未来は変わっていくけれど、過去の事実は何も変わらないから」
 だから、自分達が永久に知り合いであることは変わらない。
「変わっていた方がネタになっていいわよ」
「あー! 誰かに話すつもりですね? 旦那さんとか」
「あなただって、私と会ったってこと、好きな人に話すんでしょ」
 そんなやりとりをして。
 軽く微笑み合って。
「……それじゃ、そろそろ行きます。今なら、風が導いてくれるから」
「ええ、気を付けて」
 空の様子を見て、リネンは立ち上がる。
 またきっと、風は誘ってくれるだろう。
 懐かし人々の許へ。