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 第19章 見えない所で続く感謝を

 11月30日。2023年も残り約1ヶ月となった、すっかり風も冷たくなった日。
 フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)は空京上空を飛ぶ『シャーウッドの森』空賊団本拠兼旗艦、大型飛空艇アイランド・イーリの艇室で2人の少年少女と対面していた。ボブカットの少年の名前がウィン、真っ直ぐに髪を伸ばした少女の名前がエア。2人共に、12歳だ。
「この子たちよ。私と……フリューネにお礼がしたいって」
「あ、あのっ……!」
 やんちゃそうな印象のあるウィンが、リネン・エルフト(りねん・えるふと)に紹介されて一歩前に足を進める。顔を真っ赤にしているが、それが緊張のためなのか恥ずかしさのためなのかは判然としない。フリューネの顔から下を見ないようにしているようだったがつい目線が下がってしまい、その度に焦りが表情に出て頬の赤みが増していく。花束を持った彼は、何とかフリューネと目を合わせることに成功すると告白もかくやという勢いで彼女に言った。
「あの時は、ありがとうございましたっ!」
 結局、最後には目を瞑ってしまいながらも花束を突き出す。彼に続いて、エアも持っていた花束と色紙をおずおずと差し出した。
「……あ、ありがとうございました……」
 上目遣いでお礼を言う彼女に微笑みかけてから、フリューネはそっと2つの花束と色紙を受け取った。色紙は、およそ40人程の寄せ書きで埋められている。
 花束の重みが手から消えたことを感じ、ウィンが恐る恐る目を開ける。彼の背に軽く手をかけているリネンが、2人の気持ちを補足するようにフリューネに言う。
「文通は続けてたんだけど……って、話したっけ? なかなかパラミタに来るのって大変で、どうしてもって」
「クラスの皆も本当に感謝してて、皆来たがってたんですけど、全員で来るのは難しくて……そ、それで、僕達だけで来ました!」
「……で、でも……気持ちだけは伝えたいからって……寄せ書きを……」
 エアの言葉を聞いて、フリューネは改めて色紙に目を落とす。
 色とりどりのペンで書かれた、沢山の『ありがとう』の文字。中央には、少しデフォルメされたフリューネの似顔絵が描かれている。それと共に思い出すのは、ある遊覧飛空艇での事件だった。空賊に襲われた飛空艇があると知ってリネンと一緒に急行すると、中で震えていたのは皆10歳前後に見える子供達だった。ぎゅっと荷物を抱え、隅に集まって怯えた目をしていて。よくは覚えていないけれど、その中にウィンとエアの顔もあったような気もする。確か、学校の行事の自由選択コースで空からの観光を選んだと言っていた。
「……そう。私こそ、わざわざありがとう。感謝されたいと思って誰かを助けるわけじゃないけれど、こうして皆の気持ちが見えるとやっぱり嬉しいわ」
 笑顔を向けると、2人も安心したようにぱっ、と笑った。ウィンの表情に、本来の勝ち気さが垣間見える。
「皆は元気? あの時のこと、トラウマになったりしてない?」
「……は、はい! 皆、元気です!」
「恐かった……です、けど、助けてもらったから……滅多にできない経験……って、良い思い出だと思えるようになった子もいます。私も……」
「それに、ペガサスも見れたしな!」
「う、うん……」
 消え入るような声で、恥ずかしそうに何かを言おうとしていたエアは、それに気付かなかったウィンの声にこくりと頷く。彼女達は、『ペガサスに乗った義賊に助けられた』という記憶を頼りにリネン達を見つけたのだ。
「それとね、今日はもう1つあるの」
 リネンが目で合図をし、緊張のほぐれてきた2人はポケットから素早くクラッカーを取り出した。紐を引っ張った直後、ぱあん! という派手な音と共にカラフルな紙吹雪が部屋を舞う。
「……え!? 何……!?」
「……誕生日おめでとう、フリューネ」
「おめでとうございます!」
「おめでとう……ございます……」
 突然のことに驚くフリューネに、リネン達は祝福の言葉を贈る。何度か瞬きを繰り返していたフリューネは、数秒の間の後に笑顔を浮かべた。
「ありがとう。そういえば、今日は11月30日だったわね」

「サプライズでこんなことを企画してたなんて……びっくりしたわ」
 こっそりと用意していたケーキにろうそくを立て、それをフリューネが吹き消して。切り分けたイチゴのショートケーキを食べながら窓から空を見ていると、エアが近付き、見上げてきた。先程の続きを言おうとしているのか、顔を赤らめている。
「私も……フリューネさんやリネンさんみたいに……あ、いえ……その……」
 恥ずかしさが限界になってきたのか、エアは俯いてしどろもどろになった。しかし、言いたいことは伝わってくる。
「空賊は子供に薦められる選択じゃないし、頑張ってとも言いにくいけど……でも、空を飛ぶっていうのは本当に気持ちいいことなのよ。大人になったら、体験してみるといいわ」
「はい……きっと!」
 そう言うと、エアはどこか透明感のある笑顔を浮かべた。そして、ウィンのところに戻っていく。2人の会話を聞いていたリネンは、フリューネの隣に立って彼女と一緒に空を眺めた。緩やかに流れる雲を見ながら、穏やかに言う。
「お互い、辛い事を言われたり、行為が裏目に出ることもあるけど……フリューネが助けて、感謝してる人もいっぱいいるから。……もちろん、私も、だけど……」
 嬉しさと恥ずかしさが入り混じったような表情で一度俯き、顔を上げて思い切り笑う。
「……これからも、頑張りましょっ」
 それがフリューネには、眩しいほどに煌いて見えて。つい、キスをしたくなる。
 でも、今は子供達がいるから――
「……そうね、頑張りましょう」
 それは我慢して、ただ、彼女は笑い返した。
 

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

この度はご参加いただきありがとうございました。
「Welcome.new life town 2―Free side―」リアクションをお届けいたします。
何とか、片方だけ期日に上げられましたが……もう片方未だ執筆中につき、短めの挨拶で失礼させていただきます。
2本同時公開にしようと思ったのですが、せめて1本だけでもと思い、こちらのみ先行で公開させていただきます。

私信等、いつもありがとうございます。大切に読ませていただきました。
全てにご返信できずにすみません……!
またどこかのシナリオでお逢いできますと私としても幸せです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

※11/3 一部文章が途切れていた部分を修正しました。