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第6章 二十歳の約束

 1月1日の夜。
 日が暮れてからも、空京神社は参拝客で混み合っていた。
 それでも、日中よりは少し落ち着いており、待ち時間もそう長くはなくなっていた。
「誕生日おめでとう」
 祈願を終えた後、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は振る舞い酒を手に、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)に微笑みかけた。
「ありがとうございます」
 嬉しそうに礼を言って、ローズは酒に口をつけてみる。
 1月1日はローズの誕生日だ。しかも、今日は二十歳の誕生日だった。
 2人は月の光が降り注ぐベンチに、肩を並べて座っていた。
「広明さん……今日は月が綺麗です」
「ああ、そうだな」
「……?」
「どうかしたか?」
 不思議そうな顔をするローズに、広明も不思議そうな目を向けた。
「いえ、日本人って、愛してる、って言葉を、月が綺麗っていう風に言うんじゃないんですか?」
 ローズの言葉に、広明はくくくっと笑った。
「それは有名な小説家の言葉で、一般的に使われているわけじゃねえな」
「そ、そうなんですか。まあ、もうはっきり言ってしまったら良いですが……」
 自分の手元に視線を移しながらも、ちらり、とローズは広明を見る。
(広明さんが次にお酒を呑んだ時、すかさず鞄で周りから隠して……キスを狙おう! お酒のせいお酒のせい!)
 そんなことを考えながら、ローズはチャンスを伺っていた。
「……月が綺麗だな」
 広明の口から出た言葉に、ローズの動きが止まった。
(それは……愛してるって言葉と、捉えていいのでしょうか?)
 彼の事を見つめるが、彼は笑みを浮かべているだけでそれ以上何も言ってはくれない。
「広明さん」
「ん?」
「広明さんとお付き合いをする際、胸を張れるような大人になるまで、隣で見ていてほしい、といいましたね……」
 頷いた広明に、ローズは少し緊張しながら話していく。
「まだ一年経っていないのが不思議な位、私の周りには色々ありました。
 楽しいことも、苦しいことも。
 医者としての経験も沢山積めました……」
「ああ」
「そんな自分に、少し誇りを持てるようになったんです」
「そうだな、ローズは十分頑張ってる」
 彼の言葉に頷いて、ローズは瞳を揺らし、顔を赤らめながら言う。
「だから、あの……本当に、広明さんを支えることができるようになったか――。
 もっと近くに、隣にいたい……というか……結婚を考えて貰えないでしょうか?」
「!?」
 目を見開いて、広明がローズを見る。
 ローズは真っ赤になって俯き、彼の言葉を待つ。
「……お、酒のせいで顔が熱く。私、アルコール弱いのでしょうか」
 沈黙に耐えられなくなり、ローズがそう言った直後。
 彼女の肩に広明の腕が回り、ローズの後頭部の髪の中に、彼の指が入ってきた。
「断る理由はねぇよ。本当に、オレでいいんだな?」
「広明さんが、いいんです。私は広明さんの……」
 言い終わる前に、ローズの唇が、広明の唇に塞がれた。
 それは触れるだけのキスではなくて、熱い大人のキスだった。
 ローズの心臓が、飛び出しそうなほど高鳴る。
 頭の中が状況についていけず、目を閉じる事も忘れていた。
「広明、さん……」
 そして、気づいた時にはローズは彼の胸の中にいた。
「オレの妻になってくれ、ローズ」
 彼の言葉が、ローズの耳に降ってきて、体中を衝動が駆け巡った。
 ローズは深呼吸をして呼吸を整えて。
「はい」
 はっきりと返事をして、彼を抱きしめた。