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【2024VDWD】甘い幸福

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【2024VDWD】甘い幸福
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29.改めて告げる気持ち

酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、
婚約者である高根沢 理子(たかねざわ・りこ)を連れ、
ジュエリーショップにやってきていた。

【西シャンバラ代王】の理子が、やってくれば、軽く騒ぎになりそうなものだが、
そこは、株式会社リコルートとしてきちんと手を回している。

「理子さんは、どれがいいと思う?」
「そうね。陽一にもあたしにもピッタリなリング……」

2人が、同時に視線を落としたのは、
シンプルなデザインのシルバーリングであった。

「これなら、お互いに、いつでも身に着けていても平気よね。
公務の時でも」
「ああ、理子さんと俺の意見が合って、うれしいよ」
理子と陽一は、微笑みを交わした。

いつでも、お互いの存在を感じていたい。
そう、自然に思えていることがうれしかった。

「お互いに贈り合った指輪……よりお互いのことを確認しあえるよう、
イニシャルを入れないか?」
「ええ。陽一が、Rの。あたしが、Yのリングを持つのね」
理子はうなずいた。

「ありがとう、陽一。
この指輪の輝きのように、
ずっと、変わらない愛を、あなたと育てていきたいわ」
「俺もだよ、理子さん。
……そういえば」

銀の指輪に細工をしてもらっている間。
陽一は、ふと、笑みを浮かべた。

「どうしたの、思い出し笑いなんて」
理子に促され、陽一は続ける。

「前に夢を見たんだ。
そこで俺と理子さんは子どもたちと一緒に幸せに暮らしていたよ」
「……え」
理子の頬が赤くなる。
「そ、そうよね。結婚すること、家庭を持つこと。
なんだか、まだ実感がわかないけど……。
いつか、そういう、穏やかな時間が過ごせるといいわね」

理子に、陽一は優しく続けた。

「世界が大変な時だからこそ、
大切な人に想いを伝える事が大事だと理子さんは言っていたよね」
「ええ。あたしは、後悔のないように生きていきたいもの。
だから、あたし自身も、陽一も、
周りの人たちにも、そうであってほしい」
理子はうなずいた。

「心に希望があるから人は戦える。
皆がいる世界を、いつか生まれてくる子どもたちの未来を守る為、頑張らなきゃね」
契約者たちの守る世界。
そこには、また、新たな世代が誕生することだろう。
命は巡っていく。

「ええ。
……あたしも、陽一に伝えたかったの。
あたしの想いを。

でも、改めて言うのは恥ずかしかったから、
ちょっとリコルートのイベントにかこつけさせてもらったわ」

「はは、なんだか理子さんらしいね」

個人の想いを伝えるにしては、
破天荒な理子の行動にも、陽一は、優しく包み込むように笑う。

「でも、そこまでして俺のこと思ってくれてうれしいよ。ありがとう」
「ううん。あたしの想いを受け取ってくれて、こちらこそ、ありがとう」

理子は、じっと、陽一の目を見据えた。

「あたしは信じているの。
未来は、望んだように変えることができるって。
あたしたちは、縛られた運命なんかじゃなく、
自分達で選び取った未来を、一緒に歩いていくのよ。

これからも、世界のために、未来のために、一緒に頑張りましょうね」

「ああ、もちろん」

陽一は穏やかにうなずいた。



指輪を交換したのち。

誰も見ていない場所で、
陽一と理子は口づけを交わす。

お互いに抱きしめあって、
二人は、温かさとともに、お互いの存在の強さを、
しっかりと確認したのであった。