リアクション
さて、着替えを進める女性陣は。 ◆ 「にしても、手が込んでるな……本当にこれ模擬か!?」 白のスタンドカラーシャツに深紺のタイを締めるベルクが、思わずポツリと呟いた。 『フレンディスに入籍届にサインさせて、20歳の誕生日に提出。既成事実さえ作れば、後の対抗手段は何とでもなる』 そんな強硬手段の外濠埋めを計画したベルク本人にそう言わしめるほど、周囲の協力は厚かった。 「『模擬』だと言ったのはそちらでしょう」 エルデネストが、すかさずベルクの呟きに答えた。 「まあ、そうなんだが……」 「それとも、『本物』の結婚式の方がよろしかったと?」 「それは……」 言いよどむベルクに、エルデネストはニヤリと笑った。 「ええ、これは、どれほど手が込んでいると思われても『本物』の結婚式ではありませんよ」 果たしてベルクに『本物』の結婚式を申し出せる度胸があるのか、と、試すように。 「『本物』の結婚式にまで持っていけない人のための『模擬』結婚式ですからね」 言葉を詰まらせるベルクに、エルデネストは更に追い討ちをかける。 「しかし『模擬』と言ってもグラキエス様のお望みです。出来る限り『本物』らしくして差し上げましょう。『模擬』ですが」 エルデネストにからかわれながらも、ベルクの支度は終わった。 黒のフロックコート、タイと同じ色のベスト。スラックスは黒だ。艶やかな黒が、ベルクに似合っている。 「ってか、本人が成人するまで結婚出来ねぇって、ベルクの事情も厄介だなクソ……」 ベルクのすぐ傍では、衛に何やかやと言われながら太壱も支度を進めていた。 「……あ、それともう一つ」 口も手もを止めずに、衛は笑った。 「『お前等いい加減くっつけ』。……いっじょー」 「待てよ、何で俺達の事情がジナママとマモパパに筒抜けなんだ?」 太壱は不思議そうにしているが、この結婚式に参加する人たちにはほとんど筒抜けである。というよりも、当然だ。 初めから、ベルクとフレンディスだけでなく、セシリアと太壱の模擬結婚式も行うつもりで、皆はこの式を準備してきたのだから。 「ってか、まだ余裕があるオレ様達はさておき、余裕ねえオメー等がモダモダしててどうすんのって」 「余裕ねえって……いろいろ事情がこっちにもあるというか……」 「……あー、両方の親父のことね」 衛が考えを巡らすように手を止めること、一秒。 「…………なんとかなんじゃね?」 「軽いな、おい。……つか、どこの家も、ラスボスは家族かよ、洒落になんねぇな」 眉間に軽くシワを寄せる太壱。 「ナンだったら、花嫁連れてそのまま逃走しちまえ、べるべるも!」 「と、逃走?」 顔を見合わせる太壱とベルク。走行するうちに、二人の支度は整った。 「ほれ『新郎』さん、行ってこい」 衛に背を押されて、太壱は控え室から外へ出た。 「タイチ、お待たせー……??」 太壱を待っていたセシリアが、太壱の姿を見るなり首を傾げる。 「タイチ、何で紋付き袴、なの? ……わたしドレスなのに……」 「コラ、マモパパ。これ服が違うだろ、ツェツェに合わねえ!」 「あらー? 間違って紋付き袴着せちった」 「……あ、衛くんが間違えたのね」 テヘ、と舌を出す衛に、セシリアが思わず吹き出した。 「もどってこーい、ちゃんとタキシードに変えるから♪」 「行ってらっしゃい、タイチ♪」 セシリアに手を振られ、慌てて控え室に戻った太壱は、すぐに支度を取り替えた。 濃いグレーのタキシードに白のスタンドカラーシャツ、薄いグレーのタイ。 カマーバンドも薄いグレー、スラックスは濃いグレーという、全体的に艶のない生地の色を用いたコーディネートだ。 さて、ドタバタしたものの、二組の新郎新婦が揃った。 「結婚式は、同時に行うのでしょうか? そういうものなのですか?」 「フレンディスさん、これは模擬だから、二組一緒でも大丈夫なのよ」 何も分からずに放り出されたら混乱するところだったが、セシリアがいるとなれば心強い。 セシリアの言葉を聞いて、少しフレンディスは安心したようだ。 「さあ、一緒に向かいましょう?」 「「……」」 ベルクと太壱は黙って顔を見合わせると、それぞれフレンディスとセシリアの腕を取った。 「そんじゃ、楽しんでこーい!」 衛たちに見送られて、二組の新郎新婦は式場へと入っていった。 その背を確認したジーナとグラキエス、エルデネストの三人は、結婚式の後の披露宴に向けて料理を作りに。 衛は、何やらこっそりと式場の裏手に向かったのだった。 |
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