葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

2024年ジューンブライド

リアクション公開中!

2024年ジューンブライド
2024年ジューンブライド 2024年ジューンブライド 2024年ジューンブライド 2024年ジューンブライド 2024年ジューンブライド 2024年ジューンブライド

リアクション

 さて、着替えを進める女性陣は。
「どうです? このドレスは肌があまり出ませんですよ」
 フレンディスにドレスを着せたジーナは、自慢げだ。
 七分袖程度のパゴダスリーブ、レースがふんだんに使われた、オフホワイトのAラインドレス。
 ショート丈のグローブをつけているため、ほとんど肌は見えない。
「ジーナちゃん、このドレス恥ずかしいのですが……」
 フレンディスは、古いティアラをふるふると揺らしながらジーナに訴えかける。
「恥ずかしい?」
 床に伸びる長めのトレーンを引きずりながら、フレンディスはスクエアネックでの開いた胸元を気にしている。
「肌を見せない代わりに、胸元のラインでウェルナート様を悩殺するのですよ!」
「の、悩殺……」
「ふふ、胸元のラインで悩殺、かぁ……」
 ドヤ顔のジーナと、少し羨ましそうにするセシリアを、フレンディスは困ったように交互に見た。
 セシリアの着ているオフショルダーのスレンダーラインドレスは、胸元が大きく開いている。
 肘までのグローブ、ホワイトのドレスは裾まですっきりとしたシルエットで、胸元だけにレースとビーズの刺繍がある。
「セシリアさんのドレスは、胸元がバーンと出るようにしやがりましたです」
「…………えーっとえーっと、ちょっと待って、何で胸の話が出てくる訳?」
 突然胸に言及されたセシリアが、慌てる。
「太壱さんはナイチチが好きとかどうとか言いやがってますが、絶対貴女が好きで言ってるに決まってます。ツンデレでございますっ!」
「つ、つつつつつ、ツンデレ? タイチが? ええっ?!」
 盛大に驚くセシリアの姿がおかしかったのか、フレンディスが思わず笑いを零す。
 先ほどまでの緊張した気持ちが解れたらしい。
「ちょっと、フレンディスさんも笑うのやめて!」
「模擬でございやがりますから、お二人ともこの衣装を楽しみやがって下さいです」
「……模擬ね、模擬……そうよねー、モギダモンネー」
 フレンディスに照れ笑いを見せるセシリア。ジーナは満足げに、最後の仕上げ、ヴェールを取り出した。
「さて最後にマリアヴェールを被って、完成しやがります! ティアラを邪魔しないデザインにしやがりましたよ」
 そう言いながらジーナはフレンディスにヴェールを被せると、今度はセシリアの方を向いた。
「セシリアさんは、こちらでございやがります!」
 ヴェールの付いたミニハットを被れば、二人とも支度は整った。
「最後にブーケを持ったら、あちらの着替えが終わるのを待ちやがってくださいです」
 ジーナに促されて、フレンディスとセシリアはブーケを取った。
 鏡の前で恥ずかしそうに自分の姿を見るフレンディスに、セシリアが微笑みかけた。
「うん、綺麗よフレンディスさん。年代物のティアラもよく似合うし、そのブルーデージーと桔梗のブーケも綺麗」
「そうでしょうか……?」
 セシリアは、フレンディスの手の中にあるブーケをじっと見つめた。
「知ってた? ブルーデージーの花言葉は『幸運・かわいいあなた』、桔梗は『変わらぬ愛・従順』って言うのよ」
「かわいいあなた……変わらぬ愛……」
「フレンディスさんにぴったり……ううん、ベルクさんが選んだらこうなるような……?」
 意味を知って頬を赤らめるフレンディスに対して、セシリアは少し寂しげな表情だ。
「セシリアさんのブーケは、どのような意味なのでしょう?」
「わたしは……『不可能』という花言葉のブルーローズブーケで良いの。思いは叶わないって思ってたから」
 セシリアが選んだのは、ブルーローズ。太壱とセシリアは思い合っていても、双方の父親がいい顔をしない。
 特に、今は不在のセシリアの父、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は。
「さあ、いきやがりますですよ」
 ジーナを先頭に、セシリアとフレンディスは部屋を後にしたのだった。



「にしても、手が込んでるな……本当にこれ模擬か!?」
 白のスタンドカラーシャツに深紺のタイを締めるベルクが、思わずポツリと呟いた。
『フレンディスに入籍届にサインさせて、20歳の誕生日に提出。既成事実さえ作れば、後の対抗手段は何とでもなる』
 そんな強硬手段の外濠埋めを計画したベルク本人にそう言わしめるほど、周囲の協力は厚かった。
「『模擬』だと言ったのはそちらでしょう」
 エルデネストが、すかさずベルクの呟きに答えた。
「まあ、そうなんだが……」
「それとも、『本物』の結婚式の方がよろしかったと?」
「それは……」
 言いよどむベルクに、エルデネストはニヤリと笑った。
「ええ、これは、どれほど手が込んでいると思われても『本物』の結婚式ではありませんよ」
 果たしてベルクに『本物』の結婚式を申し出せる度胸があるのか、と、試すように。
「『本物』の結婚式にまで持っていけない人のための『模擬』結婚式ですからね」
 言葉を詰まらせるベルクに、エルデネストは更に追い討ちをかける。
「しかし『模擬』と言ってもグラキエス様のお望みです。出来る限り『本物』らしくして差し上げましょう。『模擬』ですが」
 エルデネストにからかわれながらも、ベルクの支度は終わった。
 黒のフロックコート、タイと同じ色のベスト。スラックスは黒だ。艶やかな黒が、ベルクに似合っている。
「ってか、本人が成人するまで結婚出来ねぇって、ベルクの事情も厄介だなクソ……」
 ベルクのすぐ傍では、衛に何やかやと言われながら太壱も支度を進めていた。
「……あ、それともう一つ」
 口も手もを止めずに、衛は笑った。
「『お前等いい加減くっつけ』。……いっじょー」
「待てよ、何で俺達の事情がジナママとマモパパに筒抜けなんだ?」
 太壱は不思議そうにしているが、この結婚式に参加する人たちにはほとんど筒抜けである。というよりも、当然だ。
 初めから、ベルクとフレンディスだけでなく、セシリアと太壱の模擬結婚式も行うつもりで、皆はこの式を準備してきたのだから。
「ってか、まだ余裕があるオレ様達はさておき、余裕ねえオメー等がモダモダしててどうすんのって」
「余裕ねえって……いろいろ事情がこっちにもあるというか……」
「……あー、両方の親父のことね」
 衛が考えを巡らすように手を止めること、一秒。
「…………なんとかなんじゃね?」
「軽いな、おい。……つか、どこの家も、ラスボスは家族かよ、洒落になんねぇな」
 眉間に軽くシワを寄せる太壱。
「ナンだったら、花嫁連れてそのまま逃走しちまえ、べるべるも!」
「と、逃走?」
 顔を見合わせる太壱とベルク。走行するうちに、二人の支度は整った。
「ほれ『新郎』さん、行ってこい」
 衛に背を押されて、太壱は控え室から外へ出た。
「タイチ、お待たせー……??」
 太壱を待っていたセシリアが、太壱の姿を見るなり首を傾げる。
「タイチ、何で紋付き袴、なの? ……わたしドレスなのに……」
「コラ、マモパパ。これ服が違うだろ、ツェツェに合わねえ!」
「あらー? 間違って紋付き袴着せちった」
「……あ、衛くんが間違えたのね」
 テヘ、と舌を出す衛に、セシリアが思わず吹き出した。
「もどってこーい、ちゃんとタキシードに変えるから♪」
「行ってらっしゃい、タイチ♪」
 セシリアに手を振られ、慌てて控え室に戻った太壱は、すぐに支度を取り替えた。
 濃いグレーのタキシードに白のスタンドカラーシャツ、薄いグレーのタイ。
 カマーバンドも薄いグレー、スラックスは濃いグレーという、全体的に艶のない生地の色を用いたコーディネートだ。

 さて、ドタバタしたものの、二組の新郎新婦が揃った。
「結婚式は、同時に行うのでしょうか? そういうものなのですか?」
「フレンディスさん、これは模擬だから、二組一緒でも大丈夫なのよ」
 何も分からずに放り出されたら混乱するところだったが、セシリアがいるとなれば心強い。
 セシリアの言葉を聞いて、少しフレンディスは安心したようだ。
「さあ、一緒に向かいましょう?」
「「……」」
 ベルクと太壱は黙って顔を見合わせると、それぞれフレンディスとセシリアの腕を取った。
「そんじゃ、楽しんでこーい!」
 衛たちに見送られて、二組の新郎新婦は式場へと入っていった。
 その背を確認したジーナとグラキエス、エルデネストの三人は、結婚式の後の披露宴に向けて料理を作りに。
 衛は、何やらこっそりと式場の裏手に向かったのだった。