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こどもたちのえんそく

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リアクション

「ぎゃーーーーっ、ぎゃーーーっ」
 瑠奈の腕の中で、2歳くらいの女の子が大泣きしている。
「よしよし、いいこいいこ」
 撫でれば撫でるほど、あやそうとすれば、するほど女の子――関谷 未憂(せきや・みゆう)は大きな声で泣きわめく。
「どうしたの……って、その子か。はーい、みゆうちゃんおいで〜。ベンチに一緒に座りましょ〜」
 写真を撮っていたリーアが、手を止めて未憂を呼んだ。
「りーあ、りーあ!」
 未憂は泣き止んでリーアの方に手を伸ばした。
 瑠奈はほっと息をつき、リーアのもとに未憂をつれていき、ベンチに座らせた。
「りーあ、じゅーす、じゅーす!」
 未憂はベンチに置いてある紙コップに手を伸ばす。
「ん? これはジュースじゃなくて、ブレンド茶なんだけど……飲みたいならどうぞ」
 リーアが紙コップを渡すと、未憂はちゅーっとストローを吸って。
「まずい!」
 ポーンと紙コップを投げ捨てた。
「こら、ゴミを投げ捨てたらダメですよ。ちゃんと自分で拾いなさい」
 瑠奈が優しく注意をした途端。
「うっ、ううっ、ぎゃーーーーー、ぎゃあああああっ」
 未憂は顔を真っ赤にして足をばたばたさせ、手でベンチを叩き、大声で泣き出す。
「ああ……もう、どうしたらいいのか」
 瑠奈はちょっと困り顔だった。
「動物小屋の中でも、動物をいじめたり、お友達に悪戯したり、思い通りにならなかったら大声で泣いて怒りだしたりで……スタッフさんも困り果ててたんです」
「まあ、本来の彼女は良い子なんだし、放置で問題ないでしょ」
 リーアは特にあやすことも、叱ることもせず、未憂を放っておいた。
 すると、ぽてっとベンチから落ちて、また一頻り泣いた後、よちよちと未優はお花がいっぱい咲いているところに歩いていった。

「おはないっぱい、いっぱい、いっぱい!!」
 花壇の側では、3歳くらいの幼児と化したリン・リーファ(りん・りーふぁ)が笑みを浮かべて力いっぱい叫んでいた。
「うさぎさんもたくさん! でもここのなかにははいっちゃだめなんだよねー♪」
 柵の先には兎が沢山いたけれど、ここの兎さんは臆病なので、近づいたら駄目だと言われていた。
「ぜすたん、うさぎさんすきかなー」
 ゼスタも遠足に行くと言っていたはずだが、まだ会えていない。
 リンはきょろきょろと見回してみるけれど、彼の姿はやはりなかった。
「ま、いっか〜♪ はい、どうぞ」
 リンはスタッフにもらった野菜スティックを、近づいてきた兎に食べさせる。
「かわいーかわいー♪」
「ぎゃー、ぎゃあああっ」
「ん? またないてるー。うさぎさんびっくりするよ〜」
 近づいてきた泣き声……未憂へとリンは目を向けた。
「あれ?」
「ぎゃーっ、ぎゃーっ!」
「キー!」
 未憂はどこぞから逃げてきた長い茶色の毛の兎を捕獲して、しっぽをつかみ、毛をむしるがごとく、引っ張っていた。
 反撃を食らったらしく、未優の手の甲にちっちゃな傷がある。
「ぎゃーっ」
 更に反撃して、噛みついてきた兎を、未憂はバチンと叩いて張り飛ばした。
「うー……っ」
「きゃーっ、なんてことを!」
 そして今度は花壇のお花をむしり始め、慌てて瑠奈が駆け付ける。
「うさぎさん、ふわふわのけ、ながくてかわいいのに、はげちゃったらかわいそー」
 リンが未憂に投げ飛ばされた兎に近づいた。そして、その背を撫でた。
「……ん?」
 触った時の感覚が、なんだか知っている感覚と似ている気がして。
 兎を持ち上げて目線を合わせてじーっと見つめた。
「……」
 兎はそおおっと目線を避ける。
 その仕草も見慣れている気がした。
「……ぜすぴょん」
 リンがそう口に出すと、びくうっと兎は震えて、ぴょんとリンの腕から逃れると何処かへ走っていってしまった。

○     ○     ○


「からだのばらんすが、ちょっとへんなかんじですわ」
 泉 美緒(いずみ・みお)は、自分の胸に手を当てて、不思議そうな顔をしていた。
「むねがおおきくなるまえは、こんなかんじだったんですね」
 4歳くらいの幼女と化した泉 小夜子(いずみ・さよこ)も障害なく見える自分の足を見ながら、ふふふっと笑みを浮かべた。
「じめんがちかくて、おそらのでんせんとかはとおくなりました」
「ええ、ふだんはみえないものも、たくさんみえますわ……あしもとをあるく、ありさんとかも」
「そうですわね」
 2人は笑い合うと、手を繋いだ。
 いつもの互いの手の感触とは全然違ったけれど、いつもと同じように、相手の手は自分の手と同じくらいの大きさだった。
「それじゃみお、つぎのどうぶつみにいこー?」
「はい、さよこはみたいどうぶつありますか?」
 美緒が気になっていた、リスさんや、カンガルー親子、シカさんとはもう会ってきた。
 ペンギンも今見終わったところだった。
「そうですわね。まだ行ってないばしょ……ここ、入ってみましょう」
「ええ」
 そうして2人が入ったのは、虎の獣舎だった。
「ひっ……おおきいですわ」
 大人の虎の姿に美緒はびっくりして小夜子の手をぎゅっと握った。
「こどももいますわ。ほら、おおきいねこみたい」
 小夜子が指差す先、大人の虎の側に、虎の子供の姿があった。
「ほんとです。かわいい、です」
「うん、かわいい! さわってもふもふしたいな」
 ガラスにぺたんと手を付けて、2人で見ていたら、親子の虎がこちらに近づいてきた。
「おやつの時間です。あげてみますか?」
 スタッフのお兄さんがおやつをもって近づいてきた。
「はい!」
「は、はい」
 小夜子は目を輝かせて、美緒はちょっと緊張しながら頷いて、お兄さんからおやつのついた棒を受け取った。
「さよこ、わたくしはこどもとトラちゃんのほうでいいでしょうか……」
「うん、わたしはおかあさんトラのほうにあげますわね」
 美緒は小さな虎に。小夜子は大人の虎に、それぞれおやつをあげた。
 虎の親子はとてもおとなしくて、美味しそうに食べていく。
 ほっと、息をついて。小夜子と美緒は顔を合わせて微笑み合う。
 おやつを食べ終えた後も、子供の虎はお母さん虎にずっとくっついていた。
「おかあさんのこと、だいすきなんですね」
「おかあさんのそばで、たのしそう」
 じゃれつく子供の虎と、応じる大人の虎の姿を、小夜子と美緒は楽しそうに眺めていた。

 それからまた手を繋いで、2人は歩いて行く。
「つぎは……ライオンみにいきませんか? あ、でもこわいのならほかのでも」
「ううん、さよこといっしょならたのしいです。ひとりじゃいけないので、いけてうれしいです」
「うん、いっしょにいればたのしくて、えっと……しあわせ!」
「はい、とってもしあわせ、ですわ!」
「ずっといっしょ!」
「ずっと、いっしょです」
 小夜子と美緒は、ぎゅっと手を繋ぎあって、すっごく楽しそうな笑顔を浮かべていた。
 繋いだ手をぶんぶん振ったり、笑い声をあげたりしながら、動物たちを見学していくのだった。