リアクション
■きっかけ …※…※…※… 「ねぇ、フレンディスさんにベルクさん。 彼処に居るのはシェリーとキリハさん……後は系譜の子達だよね?」 道の向こうでかたまっている団体が見知っている人達だと知らせるジブリールにフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)とベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は軽く目を細めて眺め、頷いた。 「ん? あぁ、確かにあれはシェリー達だな。 系譜メンバーは七夕イベントに続いて秋の遠足でもやってるのか?」 遠足と言えば海とか山だが、荒野から見れば都会も似たようなものだろうか。勢揃して団体で行動しているのを見るとなかなかに微笑ましい。 ベルクへとジブリールは見仰ぐ。 「クロフォードさんが見当たらないけど、どうしたんだろ」 「そいや見当たらねぇな。存在希薄で普段から意識しねぇと居るか居ねぇかわからない奴だが、確かに目視出来る範囲に居ねぇし、気配もなさそうだ」 「だよね」 ベルクとフレンディスそれぞれに破名を見つけられないのは自分だけではないと変なところで安心する。 「よく見ると舞花も居るし、何かあったわけじゃなさそうだけど……」 「気になるのか?」 「……少しだけ、ね。変な緊迫感は感じないから平気だと思うけど、シェリーがなんかね、舞花と話しながら公園を気にしているみたいなのがどうもね……。 という事で挨拶がてら立ち寄ってもいいかな?」 シェリーの落ち着きの無さは遠目でもわかり、気持ちはわかる。子供達は普段と変わらずにいるが、破名が居ないのが気になるといえば気になる。可能性を考慮しても不思議ではないが、真っ先に動きそうなキリハがのんびりとしているのを見ると厄介事というわけでもなさそうだとベルクは判断した。 「折角揃って居るんだし立ち寄るのは構わねぇよ……つーても、ジブリール。おまえ心配っつーより好奇心のほうが上回ってそうだな?」 疑問をベルクが抱く横で、ジブリールにフレンディスが行きましょうと誘う。 「かような場所で皆様方に出会うとは奇遇ですし、私と致しましても気になります。是非ともご挨拶に参りましょう」 素通りするのも勿体ないし、自分も気になるし、挨拶することは別段悪いことじゃない。 …※…※…※… という流れで声を掛けてみれば三人は子供達より両手を上げた歓迎を受ける。 フレンディスとベルクがキリハとの挨拶を子供達に邪魔されつつ交わし合う横で、シェリーが舞花とジブリールにアイスを食べないかと提案していた。 「美羽がね、すぐそこで美味しいアイス屋さんがあるって言っててね、私先に食べたんだけど美味しいの! 二人もどう?」 「そこなら私も知ってます。新しいフレーバーが最近発売されたばかりで雑誌に載ってました」 「へぇ。舞花のおすすめってあるの?」 「じゃぁ、行こう! どうせクロフォードはまだ帰ってこないみたいだし」 シェリーの提案にその店は知っているという舞花にジブリールも乗り気になって頷く。キリハが耳ざとく聞きつけたのか「一日一個ですよ」という声にシェリーが不満そうにしたのは言うまでもない。 楽しい会話に美味しいおやつはつきものである。 「マスター……。ジブリールさんですが、私より順応性が高くしっかりしており、今も友と呼べる方と楽しげで……、 なんだか不思議と私が幸せな気持ちになりますね」 三人の後ろ姿をフレンディスが感慨深げに見送った。話をしながらアイスを買いに行くという構図に違和感を与えないジブリールにベルクもまたそうだなと同意する。 アイス屋で舞花とジブリールの二人がそれぞれ好みのフレーバーを選び購入したのを待つシェリーは、ジブリールに舞花とどんな話をしていたのか報告し、最近はテレビのチャンネル権を手に入れるのも難しいと日常の不満をこぼす。 「ねぇ、シェリー。クロフォードさんに何かあったの?」 心ここに在らずというほど上の空でないが、ちらりと公園に視線を向けるシェリーをジブリールが指摘した。 「そういえば、この間の件については結論が出ましたか?」 舞花も気になっていたとジブリールに自分の意見を被せる。 曰く、シェリーの破名への「お父さん」呼びについて。 緊急性は無さそうで改めて事情を聞いてもよかったが、不安になっているのがシェリーだけなら話をするだけで落ち着いてくれるかもしれない。事あるごとに大袈裟に振る舞うのも年頃の少女としてはあまり良くないだろう。 それに、シェリーが不安そうにしていると二人が考える結論はそこに至るのだ。 「解決、してないですよね?」 「……うん」 こういう問題は特に正解も不正解も無い上、これはシェリーの問題であって彼女の気持ちを最優先に応援もするが日常的な呼称を変えるとなればそろそろタイムリミットではないかと舞花は考えている。 父と呼んだことを流してしまうか、それとも……と、シェリーの決意が知りたく聞く舞花は少女のわかりやす過ぎる表情に少しだけ笑った。 少女の顔は、思い詰めているというより、改めて聞かされてテンパっているような、気持ちは固まっているものの勇気が無く切っ掛けがない者がする慌て方だったからだ。 「ジブリールにね、大丈夫かもよって言われたんだけど、いざクロフォードの顔を見るとね。どうしていいかわからなくなるの……」 「まー、うん」 話題に名前がのぼりジブリールは、一度ちらりとフレンディスに視線を流す。 「オレとしても共感できる部分はあるけどさ、ほら、クロフォードさんもあれから変わってきているんだよね?」 うん、とジブリールに返すシェリー。じゃぁ、とジブリールは続けた。 「今回キリハさんも大丈夫と言っているし、シェリーも娘として少しは義父さんを信じてあげようよ。 その上で戻ってきたら″毎回娘に黙って勝手な真似をするなー!″って怒るのはどうかな?」 「……怒っても、いいのかしら?」 寝耳に水という顔をされて、ジブリールと舞花は頷いた。 「何となくだけど、今は相手に何故怒られたのかを考えて、理由に気づかせるのが必要だと思う」 「怒られた理由を気づかせる……」 ふんふんと真面目に受けるシェリーにジブリールはおどけに両肩を竦めてみせた。 「なーんて、偉そうな事言ってるけど、これはオレの親子に対する理想や憧れだから参考にならないかもね?」 理想と小さく復唱したシェリーの肩に舞花は自分の手を乗せる。 「自分の気持ちを伝えるというのは大事なことだと思います」 でもその当たり前の事が恥ずかしいと思ってしまうのもわかりますと舞花は添えた。 「クロフォードさんはいつもシェリーさんの話を聞いてくださっているんですよね。大丈夫ですよ。シェリーさんが聞いて欲しいと言えば最後まで聞いてくれます」 電話越しのあの日の会話。他愛無い日常の話から嬉しい報告まで最後まで聞いて共に喜んだ両親との会話を思い出して、舞花は自信を持ちましょうと励ました。 話題を持ち出す事ができないのなら、話は簡単かもしれない。少女が悩む理由こそわからないが、あと一歩が必要ならその背中を押そうと二人は考えている。 |
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