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リアクション
南鮪の野望
いつかのある日。
どこからどう見てもパラ実生の南 鮪(みなみ・まぐろ)が久しぶりに若葉分校の近くに訪れた。
「この辺りは農場が広がってんだよなァ〜、ヒャッハーよォく考えたらこの辺も中々の映画ロケ地に使えるんじゃねえか? この辺もそろそろ一発当てて大発展させねえとなァ〜」
バイクを走らせながら、構想を練っていく。
ちなみにもちろんこの辺りは鮪の私有地でも、若葉分校の土地でもない。
「うおっと、ニニじゃねぇか、ヒャッハー! 元気でやってるかー!」
「元気に見える? 元気に見えるのならそういうことにしておくよ、逞しくはなったしねっ」
バイクを止めた鮪に、涙目で近づいてきたのは、ニニ・トゥーン(にに・とぅーん)。(元)モヒカン少女だ。
鮪は気が向いた時に稀にしかここを通らないが、ニニはハーフフェアリーのイリィ・パディストン(いりぃ・ぱでぃすとん)の世話係として、ここに留まって……いや、ずっと放置されていた。
哀れに思った農家の人たちが、兜を貸してくれたおかげでイリィと助け合い、今までなんとか生きてこられた。
ああ違う、イリィはすくすく育つ作物の中で誘拐されそうになったり、行方不明になったり、若葉分校生からもらった変なものを食べて、ニニだけ腹を壊したりと、何の助けにもならない存在だった。
兜のお陰でもない。兜で誤魔化すことで、モヒカンの呪縛から逃れることができたのは事実だが。
ともあれニニは若くしてとても苦労しているのだ。
「ヒャッハァ〜閃いたぜ、こうー開拓欲と収穫欲を促す黄金の稲の海を種もみ爺さんとか花妖精とかハーフフェアリーとかゴブリンが駆け回っててだなァ〜」
そんなニニの存在なんてすぐにスコーンと忘れて、鮪は閃いたばかりのアイディアを語った。
「地球人やパラミタ人だけじゃなくてよぉ、ゴブリンやドラゴンとかも見たがる映像は必要だと思うんだよな俺は」
「過激度を抑えた牧歌ドラマ的な物が撮れそうよな。民草を集め支持を得るには時に穏やかな物も必要であろうよ。言うまでも無くわし設計の分校も外せぬがな!」
うむうむと頷きながら鮪に賛成するのは織田 信長(おだ・のぶなが)。
彼はずっと鮪と行動を共にしてきた。鮪がこんなことを言い出したのも、信長の誘導もあってのことだ。
信長は変わらず、天下布武的な事を狙い、支持を上げる下準備を色々として回っている。
……既に流れの地域復興監督おじさんであった。
「もうちょっと文化的とは言わないけど若い人が増えてくれるといいんだけどね。うん『ヒャッハー』とか叫ば無いモヒカンでも無いまともな若い人だよっ?」
「ここにゴブリン農場とかも作ってゴブリン向け映画撮るか……ゴブリンの労働力は最強だってお上も言ってたしなァ〜ヒャッハァ」
「ゴブ……!? ゴブ的にまともな人が来ても困るんですけどー!」
「そういう輩も含め、押し寄せて来た民草のうち無法者は即刻捕縛し、更生させ労働力とする施設が必要となる……か。おっとそれは若葉分校で充分足りておるか。基盤も育ち悪くないやも知れんな」
「映画が成功したらよォ、ネットやテレビでのドラマ化だぜドラマ化。そしてここで出来た作物を通販で売る! お茶の間を視覚から味覚まで丸ごと頂きだァ〜ヒャッハァ〜!」
「地球よりの民の教育にも分校を利用し契約を促せば……ふぅむ、これは意外とコストを掛けずに地域発展と地盤固めを兼ねたドラマ企画に出来そうよな」
「まってーーーーーーー!」
勝手に進んでしまう2人の話を、ニニが大声を上げてとめた。
「ここは、若葉分校生の土地じゃないんだよ、農家の人も総長もゴブリン農場なんて認めてくれないよ。映画制作だって勝手にやれないよ!」
「いや、分校増設して、シアター作ったそうじゃねェか! これは撮れと言ってるも同然だろ、ヒャッハー!」
そうなのである。
若葉分校には映画館のような映画を上映する施設があるのである。
「そ、そうなんだけどね……。まあ、どうしてもって言うんなら、ワタシが若葉分校に通してあげてもいいよ。しっ、しかたないから、ヒロイン役なら協力してもいいし……」
「えいがぁ〜? でたい〜かもぉ?」
ふらふら飛び回っていたイリィが、突如猛スピードで近づいてきた。
「ボク、うた、うたえるよぉ。うまいんだよぉ〜♪」
と言って、鼻歌を披露する。
……一応ディーバなので、それなりに上手い。
なんか色々と経験したせいで、この辺りではふらふらっと突然現れる、歌って踊れる妙な子として評判になってもいた。
「あー? 役者やってヒロインしてえ? そうだなイリィは普通にいけそうじゃねーか。よし決定! ニニは……ゴブリンの瞑須暴瑠部のマネージャーとかが無難だな!」
「な……っ、ゴブリンのヒロイン〜?」
「わ〜い、やったぁ〜。えいがでるぅ〜」
イリィはふわふわと飛んで、喜びの鼻歌を歌う。
「ひゃっは〜♪ おぶつはしょぉどくだぁ〜♪」
……ちなみにイリィの映画の知識は、鮪が撮影してネットで配信したものを見せられて知っている程度であり、パラ実で良く読まれている漫画雑誌などの知識の方が多い。つまり、アニメ映画を想像しているっぽかった。
それから数か月後――。
若葉分校のシアターで、南鮪監督の超大作が公開された。
主役ゴブ夫、脇役ゴブ太、端役ゴブ郎、ゴブ矢、ゴブ道、ゴブ樹……。
イリィは見事に囚われのハーフフェアリー風ゴブリンを演じ、ニニはモヒカンヒロインとして、瞑須暴瑠部のマネージャーを演じたのであった。
……撮影時に兜強制的に外されて、彼女は再びモヒカンにされてしまったのである。
その映画は、地球を含む全国でネットもしくは人力で配信された。
監督の名と共にゴブリンの生態と、モヒカン少女の生態について、全世界に知れ渡ったのである。
ついでに若葉分校の存在も。
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