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リアクション
第2章 迷子の少女
あらゆる出身の人々が、所属校に関係なく集う町、空京は今日も賑やかだった。メインストリートは雑多な人々で溢れ、活気を見せている。
「おぢょーちゃん、キョロキョロしちゃってどうしたの。迷子ぉ〜?」
下卑た笑いを伴うような声が耳に入って、パートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)と共に町を歩いていたベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)は、気になるものを感じて振り返った。
「パラ実生徒……」
一目で解るその容姿に、マナが眉をひそめる。
いかにも柄の悪そうな2人の男が、小柄な少女の両側から、道を阻むようにして立っていた。
「迷子じゃないのです。ハルカはおじいちゃんを探しているのです。おじいちゃんを見かけなかったですか?」
ハルカと同じくらいの身長で〜、と、祖父の特徴を語り出す少女に、2人の男は顔を見合わせ、どちらからともなくニヤリと笑いあう。臆さずというよりは明らかに、
「ちょ、何だあのコ、解ってないのか!?」
ベアは思わずそう独りごちながら、小走りに3人の方に向かった。
「あー! そういや見たかも。見たよな?」
「ああ、見た見た。見たぜ!」
「ほんとですか! どこにいるですか?」
「口ではうまく説明できねえなぁ。そうだ、案内してやるよ」
親切というにはあまりに白々しい言葉に、
「はいっ! お願いするです!」
と、会話が続いたところで、ベアは2人の前に割り込んだ。
「お前ら、このコに何する気だっ!」
すかさず後ろから、マナがハルカを確保する。
「あぁ!? 何だ、貴様! 邪魔しやがるなら容赦しねえぞ!」
途端に柄が悪くなる2人を、ベアは全く怯まず睨み返した。
「――穏やかじゃねえな」
彼等のやりとりは、それなりに人目を引いていて、町の中で誰かが誰かに因縁をつけられて喧嘩……という光景は特に珍しいものでもなかったのだが、それでも、ベアのように、気にかけた者は他にもいた。
「あんだあ?」
割って入った声にパラ実生が振り返ると、手作りと思われるヒーローお面を装着した神代 正義(かみしろ・まさよし)が、ビシ! と彼等を指差す。
「こんな街中で悪事を働くたあ、正義のヒーローとして見過ごせねえな! 助太刀するぜ、そこの!」
そこの、とは自分のことだよな、と、ベアは内心で突っ込みを入れつつ、マナにちらりと目をやった。特にピンチになっていたわけでもないので助っ人も何もないとは思うが、そこを突っ込んではいけないのだろう。
「わあ、ヒーローなのです!」
赤マフラーをなびかせる正義に、ハルカが呑気に瞳を輝かせている。
「話が解るな! ヒーローものは好きか!」
びし! とハルカに親指を立てる正義に
「好きです〜。でもどっちかというと、レンジャー系の方が好きですー」
「な、何故だッ!?」
「え、だって、仲間がいる方が楽しいです」
「ふっ、それなら問題ねえ!!」
正義が高らかに宣言し、ここで登場しないと、ダメですよね、やっぱり……。と、彼のパートナーは覚悟を決めた。
「えーと……相棒の、”太陽戦士・ラブリーアイちゃん”でぇす……」
同じような仮面を被り、大神 愛(おおかみ・あい)が、恥ずかしさに耐えておずおずと登場する。
ものすごく恥ずかしかったが、わあ! 素敵です! と、ハルカの表情が輝いたので、少しは報われたような気がした。
「……ま、それはともかくだ」
「えっ、街中だよ?」
ベアが剣を取ろうとしているのだと気付いて、マナが驚く。こんな人通りの多い街中で、剣を振り回すつもりなのだろうか?
「さくっと終わらせるさ」
「……えっと、正義さんも剣を出すんですよね?」
奇遇にも、同じ剣の花嫁。一応、愛もそっと正義に訊ねる。
「ったりめーだ! それと俺のことは、パラミタ刑事・シャンバランと呼べ!」
「は、はいっ」
……などとやっている間に、剣を抜くという言葉に恐れをなしたか、付き合ってられないと思ったのか、
「けっ! やってられっか! おぼえてろ!」
と捨て台詞を残して、パラ実生徒は身を翻してあっという間に雑踏の中に紛れて消えていった。
「……騒ぎにならずに済みましたね」
ほっとしたように愛が言う。
充分という気もするが、そこは突っ込まずにマナはハルカを見下ろした。
「だいじょぶ?」
「はい。えーと、助けてくれてありがとうなのです」
こくりと頷いた後、ハルカはしょんぼりと
「さっきの人達はおじいちゃんを知らなかったんですね……」
と呟く。
「本当にあいつらの言うこと信じたのかよ……」
と、ベアが呆れ半分に呟く横で、
「誰かを探しているのか?」
と、正義が訊ねる。
「ハルカのおじいちゃんが、迷子になっちゃったのです」
「……おじいちゃんが? え〜っとハルカちゃんが迷子じゃなくて?」
首を傾げて訊ねたマナに、ハルカはきょとんとして答える。
「ハルカは迷子じゃないですよ?」
「ああ……うん、おじいちゃんね」
苦笑しながら話を会わせたマナに、ベアが頷いた。
「よしっ、マナ、ハルカと一緒に爺さんを探すぞ!」
勿論、正義もヒーローとしてこのままハルカを見過ごせない。
「ここは俺に任せろ!」
と自信満々に言い、ハルカはぱちぱちと瞬いて彼等を見渡した。
「ハルカを手伝ってくれるですか?」
嬉しそうに笑ったハルカに、愛が頷いて、
「とりあえず、どこかに落ちつきませんか……。あの、ここじゃ目立ちますし……」
一騒ぎ終わったということで、野次馬は殆どなくなっていたが、それでも道行く人々が彼等を振り返りながら歩いて行くくらいには目立っている。
「そうだな」
と、同意して、じゃあミスドでも行こうか、という話になったのだが。
「………………あれっ、ハルカちゃん?」
暫くも行かない内に、マナがきょろきょろと周囲を見渡した。
話しかけようとして隣りを見たら、確かに隣りを歩いていたはずのハルカがいない。
「……ま、迷子!?」
ハルカの祖父を探そうとする前に、ハルカ本人を探さなくてはならない事態になってしまったのだった。
「……あれっ、みんな迷子になっちゃったです?」
気がつけば一人で歩いていた。
「えっと……おじいちゃんより先に、皆を探さないといけないです」
きょろきょろと辺りを見渡しながらも、足は何故か迷いなく前進していくハルカは、やがて17歳ほどのの少女が泣きながら歩いている姿を見かけた。
「刀真ぁ……ぐすっ」
「迷子なのですか?」
正面に立ち止まってハルカが訊ねると、べそをかきながら、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は頷く。
「刀真とはぐれた……」
「お任せなのです! ハルカもおじいちゃんと、それから、ヒーローさんと、ヒーローさんと、それから、おにーさんとおねーさんを探しているのです。とーまさんも探してあげるのです」
どんと任せなさい! と請け負うハルカに、月夜は泣きながら頷いた。
「……全く、何処に行ったんですか、月夜は……」
一方、迷子のパートナーを探していた樹月 刀真(きづき・とうま)は、一緒に探してくれていた、友人の光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)や鷹谷 ベイキ(たかたに・べいき)と合流した。
「見つかった?」
ベイキの言葉に首を横に振る。
「困ったものです」
「人がようけじゃし、こらぁおえんの」
翔一朗が溜め息を吐いたところで、ベイキのパートナーのガゼル・ガズン(がぜる・がずん)が
「あれではないのか」
と指差した。
振り向くと、明らかに年下の少女に手を引かれた月夜が、泣きながらその少女に、自分達を指差して見せているところだった。
「……というか、俺じゃなくてガゼル君を指差してたように見えるんですけど」
「ま、ガゼルはゆる族だから目立つもんね。目印になってよかったよ!」
ベイキが笑って、
「でも、あのコ誰かな?」
と、月夜と手を繋いでいる少女を見る。
「刀真あ」
「月夜、何で君が泣きながら女の子に手を引かれて来るのかな?」
何というか、普通逆だろう。睨まれて、月夜は縮こまる。
「ごめん……」
「見つこうたんじゃし、もうええじゃろ。それよりあんたは?」
翔一朗がハルカを見やる。
「困った時はお互いさまなのです。見つかってよかったのです」
ハルカはにっこり笑ってそう答え、月夜が
「……えっと、おじいさんが、迷子になって、探してるんだって……」
と、手短かに説明した。
「このコじゃなくて?」
「ハルカは迷子じゃないですよ?」
「……保護者がこんな女の子放っていなくなる?」
おかしいだろう、と思う。一見、ハルカはまだ十歳を少し越えたくらいだ。最も自分もいつも年相応には見られないから、外見で人の年を判断はできないが。刀真はどこか、引っ掛かりを覚えた。
「……とにかく、月夜を助けてくれてありがとう。お礼に、今度は俺がそのおじいさんを探すのを手伝いますよ」
ごしごしと涙を拭き、パートナーと合流できて安心した月夜が、ほっと笑って、それに頷く。
「うん。おじいちゃん捜すの、手伝うね」
「それから、ヒーローさんとヒーローさんと、おにーさんとおねーさんも迷子になっているのです」
「えっ?」
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